冷やし中華の話
『冷やし中華始めました』
「という貼り紙を見たので思わず激写しました」
写真部の部室内。小泉が撮ってきた一枚の写真が机の上に置かれ、他に室内に居た、称名、洲崎、平潟がそれを覗き込むように囲っていた。
「もうそんな季節か〜」
「これ、駅前のラーメン屋でしょ? あそこ毎年早いのよね」
「そういえばあの店入ったことないな」
各々感想のような事を言う3人。それを聞いた小泉は、
「でですね、他にも探してたら、こんなのがありました」
新たに一枚の写真を机上に置いた。
そこにはこう書かれている。
『冷やし中華初めました』
「どうですかね?」
感想を求める小泉。
「? コレも普通じゃないの?」
「いえ、はじめるの漢字が違います」
写真を隣り合わせで並べる。
『冷やし中華始めました』
『冷やし中華初めました』
「本当だ、気付かなかったわ」
「きっと今年初めて冷やし中華始めたんですね」
「いやただの書き間違えだろ」
「分っかんないよー称名、コレ貼られてたの今年開店したばっかの店だから」
初めましたの写真を指で叩きながら小泉をにやりと笑った。
「マジで初めてかも」
「いやいやそれは無いだろ。ただの書き間違えだって」
「そうかなー?」
「む、じゃあオレが行って確かめてくる」
称名は足早に鞄を持って部室を出ていった。
「頑固だねー称名」
「アンタの言い方もあるわよ、夜雨」
「そういえばさ〜」
二つの写真をまじまじと見ていた平潟が訊ねた。
「どうして冷やし中華って名前なのかな?」
「どうしてって……そりゃ冷えてるからでしょ」
「あぁ〜なるほどぉ〜」
「……時々、アンタの将来が心配になるわ、犖華」
「じゃあ、何で毎年こういう張り紙するんでしょうね」
「そりゃ始めるからでしょ、通年は無いんだもの」
「じゃあ終わる時にこういう張り紙があっても良いですよね?」
小泉は机の上に一枚の紙を置いた。
『冷やし中華終わりました』と書かれている。
「……わざわざ作ったの?」
「終わり張ってる所ありませんでしたから」
「まだ始まったばかりだかは当たり前じゃない……それにわざわざ貼らないわよ」
「それ、何でですかね? 知らずに頼んじゃう人一年に一人くらい居そうな気がしません?」
「そうなんだよねぇ〜、頼んでから無いって言われるの悲しいよぉ」
「……スゴい近くに居たわよ」
「そうですね…………そんな先輩にコレをプレゼントします」
「いやいらないでしょ」
「ありがとお~夜雨ちゃん」
「貰うんかい!」
「あ、でも過去形じゃまだ間違えそうですよね、だったら……」
―――それから数分後。
「……ここはいつから中華屋になったんですか?」
「さぁ……まさに今始まったのかもね」
部室へとやって来たが称名見たのは、『冷やし中華』の様々な張り紙だった。
題名は冷やし中華ですが、どちらかと言えば張り紙の話かもしれませんね。
今回、初めて写真部で写真が出てきました。撮っていたのはありましたが、写真じたいは今回が初めてだと思います。
冷やし中華、もうどこに行っても始まってますね。夏が来たという感じです。
ただそれがいつ終わっているのか、いつの間にか終わっていて、それを知るのは店の人のみが知る事実……
それでは、