瀬戸暁槻
―――――そろそろ時間だな。
俺は腕時計を確認する。
うん、まあまあの時間だな。
ルームメートの友達に一声かけると、「いつも通りやっとくよ」と良い返事を聞いて、俺は最小限の荷物で部屋を窓から出た。普通なら無理だが、二階だから出来る技だな。
空には月が昇る真っ暗な中を歩いていく。
俺の名は瀬戸暁槻。
先輩が抜けて、後輩が入って、8人になった写真部の部長をしている者だ。
写真部、その名の通り写真を撮って、現像、それを小さな大会に出したり。文化祭で展示やポストカード配布などを主として活動している文化系の部活動だ。
そして去年、前部長から任命されて俺が部長となった。
二年生が3人しか居ず、しかも男が俺一人だったのが原因かもしれないが。
何となく、それだけじゃないと思う時が、今から行う事をする度にある。
そんな俺は、閉じられた正門を乗り越えて夜の校舎に侵入した。
目的地に向けて警備員に見つからないよう真っ直ぐ駆ける。
おや? こんな事をする人間がよく部長になれたな、と思っていないか?
いやいや、むしろコレが理由になったと俺は思うね。
重く錆の見える扉を開く、ギィィという音は仕方ない。出さないのは無理だ。
「ふぅ……着いたな」
屋上へと降り立った。
都会とは呼べない所に建つこの学校からは、星空がよく見えた。
今晩は雲の無い晴天、絶好の写真日和だ。
荷物の入った鞄からカメラを取り出して構える。
夜空を、星を撮る用に工夫を施した特別製だ。
まずは特にピントも合わせず一枚。
次は目に残った部分を撮影。狙いと適当を交互に撮っていく、26撮りのフィルムに13枚ずつ収まった。
フィルムを入れ替える。
そして今度は空で一番大きく輝く星にピントを合わせた。
今度はそれを中心とした夜空だけを収めた。
夜の校舎の屋上、写真部部長一人きりの特別な部活動だ。
「よし、こんなものか」
俺は屋上に腰を降ろした。
カメラを横に置いて、鞄から缶コーヒーを取り出した。来る途中で買った物だ。
フタを開けて一口飲む。
この写真撮影が、俺が部長になれた理由だと思う。
俺は星が、月が撮りたくて写真部に入った。
だが部活動を夜やる訳が無く、自発的に撮影をしては先輩達にアドバイスをもらっていた。
その際に、高い所から撮ると良いというアドバイスで学校への潜入を開始、最初の数回は警備員に見つかって怒られたりもしたが、今ではもはや常連となって顔を覚えられている人もいるので楽になったものだ。
まだ顔見知りじゃない人もいるから静かに潜入は心がけているけど。
撮影した場所を先輩たちに話すとそれはもう驚かれ、クラスメイト兼現在の副部長には怒られた。
だがその写真は先輩達の心に響き、俺を部長に決定付けたのかもしれない。
……まぁ何にせよ、俺は卒業するまでコレを続けるだろう。
俺が一番撮りたい景色を撮れているのだから。
「……ん?」
カメラを確認すると、まだ一枚残っていた。
「……」
これは……どうするかな……
そういや、まだ部員全員で写真撮ったこと無いな。
よし、これで集合写真でも撮ってみよう。
「あ……」
けどな……部員全員が揃うかなー、特に一人、今どこで何をしているのかも分からないんだよな。
でも、今度絶対全員集めて写真を撮るぞ。
それをまとめるのが、部長の役目だから。
小泉夜雨に続く、人物紹介型物語。今回は写真部の部長、瀬戸暁槻の物語です。
彼は写真部の部長で、部員の中で一番カメラに触れている時間が長い半面、夜の校舎に忍び込むという行為を行う。写真部で一番実力者にして、一番の変わり者なのかもしれません。
彼の名前は、というか部員たちの名前にはちょっとしたモデルがあります。
小泉のようにそのまま使っている者もいるので、もしも知りたくなったら引いてみることをおススメします。
それでは、




