土産物の話
「……どうもです」
これはある写真部部員が、他の部員に出会った時、あるいは部室に入ってきた時に発する言葉だ。
「あ、内川先輩、こんにちはー」
その声を聞き、部室に入ってきた内川に気づいた小泉が挨拶した。
「久しぶりね、雪穂」
次いで洲崎、
「ハローです内川センパイ」
キハンが挨拶する。
「今回はどこまで行ってたの?」
内川の放浪癖はすでに部員全員が認可していた。なので洲崎が軽く訊くと、
「……これを」
内川は白い紙袋を渡した。
「あら、わざわざ悪いわね」
洲崎が受けとると、小泉、キハンにも同様に渡した。内川は行った場所を何故か言わない、しかしこうして行った場所に縁のある物をお土産として買ってくる。だから、
「今回は…………え? きりたんぽ?」
「コレは……きびだんご?」
「オー、海軍カレーです」
毎回何処に行ったのかを把握する事が出来ない。お土産を全て机の上に置いて、論議が始まった。
「南だったり北だったり……距離考えたら両方に行けるわけ無いわね」
「確か、2日前に学校で先輩見かけましたよ。ね、キハン?」
「ハイ、ワタシは昨日もお見かけしましたよ」
「つまり、一日でここ等へ行ってきたってこと?」
お土産を指差す洲崎。そこに小泉が発言する。
「違うかもしれませんよ。物こそ有名な場所がありますけど、そこでしか買えない訳じゃないですから」
今のご時世、アンテナショップなるその地域の物を集めて販売しているお店も存在している。そこに行かなくてはご当地土産が買えないわけではない。
「ということは、本当に行ったのはどこか一ヶ所で、後はその場調達の可能性があるのね」
「あるいは、何処にも行っていないというのも」
あり得るのだから、恐ろしい。
「あのー、ヤウ」
その時、今まで黙って土産達を見ていたキハンが小泉の名前を呼んだ。
そして、
「なに?」
「きりたんぽ、ってナンなんですカ?」
予想の範囲外過ぎる質問をしてきた。
「ご飯をぐちゃぐちゃにして棒に付けて焼いた食べ物だよ」
小泉は一応答える。
「では、きびだんごとは?」
「ご飯をぐちゃぐちゃにして団子にした食べ物だよ」
「オーゥ、そうでしたか」
「いやきびだんごときりたんぽは似た工程で作られたものじゃないから」
納得するキハンに洲崎のツッコミが入る。
「きりたんぽはお米だけど、きびだんごは違うわよ」
「オーゥ、そうなんですカ」
「え? てっきり普通の米だと」
「そんな話はどうでもいいのよ、今は雪穂が行った場所の解明が先よ」
「でもどっちもカレーかけたら美味しいかもね」
「そうですねー、かけてみますか?」
小泉とキハンは聞いていなかった。
「話を聞け! それとキハン! 部室に匂い移るからカレー開けちゃダメよ!」
「あー……洲崎先輩、数秒遅かったですね……」
「え? あ! もう開けてる!?」
「そういえばほのかにカレーの香りがしてきました」
「ちょっ、早く閉めて! 小泉も見てないで手伝いなさい!」
「はーい、とりあえず窓開けますね」
キハンがカレーの封を輪ゴムで閉じて箱に詰め直し、小泉が窓を開けたことによりカレー臭はあまり充満する事はなかった。
「全く……香り強いものは移るから部室で開けるのは禁止なのよ?」
「オーゥ……すみませんでした……」
「……まぁまぁ」
ここで、今まで黙っていた内川が発した。
「……せっかくですし、皆さんで食べませんか?」
「あ、じゃあきびだんご開けましょう。すぐに食べられますから」
「なんか釈然としないけど……まぁいいわ。他の部員が来るまでのんびりしましょ」
こうして、お土産のきびだんごを囲んでの談笑が開始され。
内川が行った場所の談義は自然終了していた。
きびだんごとは、黍の実で作った団子のことで、今では求肥に白砂糖をまぶした物のことも言います。
案外、カレーが合うのかも……
それでは、