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少数派の話

今日の写真部には稀な光景が広がっていた。

それというのも、

「さすがに暗室で本は読みにくいからな」

普段は暗室――――フィルムで撮った写真を現像する際に使用する道具の揃った自然光の入らない暗い部屋――――に居座っている野島が部室にいるからだ。

「何の本を読んでるんだ?」

部長の瀬戸が訊ねる。

「コレだ」

野島が本のタイトルが全員に見えるように向けた。

タイトルは『常敗ピンチヒッター』。

「……」

その場でそれを見ていたのは、瀬戸、洲崎、平潟の三年生3人。

タイトルを見た瞬間に、

「「なんだよソレ」」

「面白いよね〜ソレ」

訊ねる2人と知っている1人とに分かれた。

「え、犖華知ってるの?」

訊ねた片方の洲崎が、知っていた側の平潟に訊ねた。

「うん、面白いよ〜」

「ほぅ、平潟先輩も読んでいるのか」

関心したように野島が呟く。

「まだ三巻だけどね~、一冊に一月ぐらいかかっちゃうから〜」

「かかり過ぎじゃないか?」

「人のペースに文句は言わないが、全部読みきる頃には卒業してしまうな」

「そんなに出てるのか!」

「既刊数は十七。ちなみに僕は今十四巻を読んでいるぞ」

三年生の先輩にタメ口なのも気にせず、野島が再度本の表紙を見せる。題名の下に14と書かれていた。

「面白いのかよ、ソレ」

疑い深げに本を見る瀬戸。

「見た人次第、と言っておこう。だが読んでいない人を見たのは始めてだ」

野島の言葉に瀬戸と洲崎が顔を見合わせる。

「いやいや、別に俺達だけじゃないだろ」

「そ、そうよ、この中では2・2だもの。もっと聞けばこちらが多いに決まってるわよ」

そうだそうだと2人は頷き合う。

「きっとあれだ、内川は読んでないぞ」

「そうね、基本外回りな雪穂は見てないわよ、きっと」

もう1人の二年生の名前を出して頷き合う2人、だが自信は無かった。なぜならあの後輩は全く予想通りにはいかないからだ。

とその時、

「……呼びました?」

瀬戸と洲崎の後ろに今名前の出た内川が音も無く現れていた。ちなみに、2人の背は入り口に背を向けている。

「いつの間に!?」

「……つい先ほどです。あ、これお土産です」

内川は手に持っていた紙袋を洲崎に渡した。

「なによコレ?」

「……今回行ってきたところの物です」

紙袋の中を見ると、それは温泉まんじゅうだった。包装に書かれた地名を見ると、ここから数時間かかる場所の物だ。

「いったいどこに行ってたのよ……」

驚く洲崎を横に見ながら瀬戸は訊ねた。

「内川、あの本知ってるか?」

『常敗ピンチヒッター』を指差す。内川はそれを見て、

「……はい。読んだこと、ありますよ」

こくんと頷いた。

「なっ!?」

「えぇ!?」

瀬戸と洲崎は揃って驚いた。

「……? センパイ方、読んでないんですか?」

首を傾げて内川が訊く。

「……」

「……」

まさか自分達が少数派になるとは思わなかった2人は、

「一年生達にも聞いてみないとな」

「そうね」

冷静を保ちながら話を反らすのだった。

そこに、一年生たちが揃って部室へと入ってきた。

その後、『常敗ピンチヒッター』を読んだことのある者は写真部に6人居る事が分かった。


今回は一年生達が一言も発しない上、三人称の物語です。

異質に見えますが、おそらくこういうパターンの方が多いと思います。

いつ活動してるのか分からない部員達の物語、これからもお楽しみに。


それでは、

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