兄弟の話
「わたしは中2の妹が1人いるよ」
「ワタシは4つ上の兄が一人います」
校舎北棟の四階、部室棟と呼ばれるところにある写真部の部室。その中でわたしはキハンと話していた。
「ちわーす」
そこへ部室の扉を開けて誰かが入ってきた。あの挨拶の仕方は……
「ハローですタタナ」
予想通り称名だった。
「2人だけか?」
「今のところ」
称名がわたし達の近くにある席に座った。
「何の話してたんだ? うらやましいとか聞こえたけど」
「兄弟の話だよ」
「ハイ、ワタシは兄が一人。ヤウは妹が一人居ます。タタナはどうですか?」
「俺は一人っ子だよ。兄弟はいない」
なるほど、知らなかった。ま、「兄弟の話をしましょう!」ってキハンが言い出さなかったらキハンの兄も知らずじまいだったけど。
「センパイ達はどうなんでしょうね、聞いてみましょうよ!」
「けどキハン、先輩まだ誰も来てないよ」
部室にはわたし達一年生3人のみ、部室の鍵を開けた部長は暗室に向かったばかりだ。
「いや、噂をすればだ」
称名が示した部室の扉を見ると、今まさに開いて先輩方が入ってきた。三年生副部長ペアの2人だ。
先輩方に挨拶してからわたしはさっきまでを簡単に説明した後、キハンが訊ねた。
「兄弟か〜私は弟が一人いるよ〜」
平潟先輩がいつも通りのほわほわ声で答える。
「あたしは一人っ子よ」
洲崎先輩がいつも通りのクールな口調で答える。わたし達も自分の兄弟構成を話した。
「なるほどね。というかさ」
洲崎先輩が鞄を置いて、定位置のように腕を組んだ。そしてわたし達を見回して。
「これだけ居て、2人以上の兄弟はいないのね」
確かに、いても上か下が1人ずつ、次女とか次男とかが1人もいない。必ず長男か長女だ。
「そういえば〜暁槻くんも兄弟いた筈だよね〜」
「そうなの?」と洲崎先輩と、もちろん一年生達も知らなかった。その時、
「俺がどうしたんだ?」
ちょうど部長が部室の中へ入ってくるところだった。洲崎先輩が事の発端から説明した。
「あー……兄弟か…」
何故か部長の声が暗さを帯びる。
「あぁ、いるぞ3人。構成は俺が長男で、後は長女と次女と三女。になるのか」
「姉と妹なのね?」
「いや違うぞ。俺は、末っ子だ」
末っ子。という事は部長が一番下で、つまりは…
「お姉さんが3人?」
「そういうことだ……はぁ」
「どうしたのよ? ため息なんかついて」
「いや、今でこそ寮生活だから家から離れてるが、家に居たらコキ使われるからな……」
あの完璧超人な部長がここまで嫌がるとは、どれだけ凄い人達なのか部長のお姉さん達。
「やはりブチョーはスゴイですねー、この中で唯一2人以上の兄弟じゃないですか」
「でも、まだ二年生の先輩達に聞いてないぞ?」
「それも聞きたいのですね。お二人は今ドチラにいるのでしょう?」
「夕照なら少し分かるわ。確か下が1人居るって言ってた筈よ」
洲崎先輩が言った。下が1人、わたしや平潟先輩と同じ構成か。
「性別は分からないのか?」
「まったくね、正直本当に居るかも不明よ。アイツの言葉だからね」
「あー……確かに」
キハンと平潟先輩を除いたわたし達4人でうんうんと頷いた。
「では内川センパイはどうでしょうか?」
キハンが残る1人の先輩の名前を出した。だが、
「雪穂ちゃんは分からないよ〜」
部長と洲崎先輩は無回答。平潟先輩は知らないと答えた。部長達も知らないのだろう。
「アイツは自分の家の話あまりしないからな」
「というかあまり話次第しないじゃないの」
今度は全員でうんうんと頷いた。あの人は寡黙な上に部室にあまり現れないから謎が多すぎるのだ。
けど、あの人なら何か凄そうだ。とも思っていたりした。
その後、何処かから聞いた内川先輩からキハンにメールがあった。
『アタシは上に3人、下に3人の7人兄弟の真ん中。次女です』
やっぱり、内川先輩は謎過ぎて凄い人だった。
この話で一応全部員の名前を公開しましたが、誰がダレだか区別はつかないでしょう。それはこの先、分かるかもしれませんので、ご了承を。
それでは、