ひな祭りの誕生日の話
「うーん……」
写真部の部室、ここに本日4番目にやって来た一年生の小泉は、入ってくるや否や腕を組んで悩み続けていた。
他3人は、小泉のその行動を見て互いに顔を見合わせた後、三年生の洲崎が代表して訊ねた。
「どうかしたの? 夜雨」
「それがですね、洲崎先輩」
まるで待っていたかのように、小泉は語り出した。いや、実際に待っていたんだろう。
「今日って、ひな祭りですよね?」
「えぇ、そうね」
「そういえばそうだねぇ」
「何かするんですカ?」
三年生の平潟、一年生のキハンも入ってきた。
「ひな祭りではあるんですけど、今日知り合いの誕生日なんですよ」
「ひな祭り産まれってことね」
「はい、何年か前のこの学校のOGの人なんですけど、誕生日に呼ばれまして。で、誕生日プレゼントをどうしようか悩んでましてね」
「悩んでるって……誕生日今日でしょ?」
「だから悩んでるんですよ。何かひな祭りっぽいのでありませんか?」
「ひな祭りっぽい、ですカ?」
「そうだねぇ〜」
キハンと平潟が腕を組んで考え始める。
「やはり、ひな人…」
「ムリに決まってるでしょキハン」
「もうわたし達より年上だからそれはどうかと思うよキハン」
洲崎と小泉2人に止められた。
「ひなあられ、とかどうかなぁ?」
「多分向こうでもう用意してると思います」
「菱餅とかぁ?」
「平潟先輩、さっきから食べ物ばかりですね」
「ひなまつりって、ひまなつりみたいですよね」
「あ〜、一度は考えたことあるねぇ」
「意味はあまり分からないけどね」
わいわいとひな祭りの会話で盛り上がり、すっかり当初の目的を忘れかけた頃、
「……あのさ、犖華とキハンはともかく、夜雨は誕生日プレゼント真面目に考えなさいよ」
洲崎が根本を思い出させた。
「というか、別にひな祭りにかけなくてもいいじゃない。その方が難しいんだから」
「まぁ、そうですね。やはり最初に考えてたのでいきます」
もう考えてたんじゃない……と洲崎は思ったが、口には出さなかった。
「良かったら、皆さんも来ます?」
「そんな知らない先輩の誕生日会、気まずくて仕方ないわよ」
「でも一度は会ったことあると思いますよ」
小泉は自分の鞄の中をあさりつつ、言葉を続ける。
「駅前の方にある喫茶店しってますよね? そこのウェイトレスさんにして一人娘の方が誕生日なんですよ」
「あぁ、あの年上には見えないおどおどした人。知り合いだったのね」
「正確にはその人の友達の同い年の人繋がりなんですけど、通う内に仲良くなりまして……あ、あった」
小泉は鞄の中から携帯電話を取り出して開いた。
「場所はあの喫茶店なのでわたしも誰か連れてきて良いって言われてまして、ご存じならどうです?」
「ワタシはぜひ行きたいです!」
「じゃあ私も〜」
キハンがぴしっと、平潟がふわっと手を挙げて参加を表明。
「洲崎先輩は?」
「この状態で仲間外れは寂しいわね、アタシも行くわ」
洲崎も頷き、3人の参加が決まった。
「では、増えたこと電話しますね」
開いていた携帯電話を操作し、発信。
「ところで、ヤウ」
「ん? どしたのキハン」
「ヤウは結局、どんなプレゼントをあげるつもりなのですカ?」
「えっとね、お内裏様」
「はい?」
「の、何か」
「? 何ですかソレ?」
「後で分かるよ。あ、もしもし、こんにちは…」
小泉が電話で話し始めてしまった為、小泉が何をあげるかは謎のまま。
その答えを知ったのは、数時間後、誕生日会の席での事だった。
時間系列、自分が物語を考えるうえで最も苦しめられるものなのですが、今回は上手くはめられたかと思います。
この話は、昨年の『ひな祭り大作戦』の流れを組んだ話となっています。興味のある方は、そちらもどうぞ、『if cross story』の中にあります。
それでは、