〇〇めの話
「んー…………寒め」
部室内にいた一年生達、その内の一人、小泉が突然呟いた言葉だった。
現在ここ、写真部の部室には、一年生三人しかいない。
部室の扉を開けた部長は、暗幕室へ向かっていた。
「寒メ?」
他の一年生、キハンは首を傾げ、
「急になんだよ」
同じく一年生、称名が訊ねた。
「今日寒いでしょ? だから、今日は寒め、略して寒め」
小泉は先ほどの言葉の説明をする。
「略してねぇよ。言葉減らしただけじゃねぇか」
「という訳でさ、2人もこういう言葉考えてみない?」
「お前……いくら暇だからって急過ぎるぞ」
いきなりの提案に称名は肩をすくめてため息をついた。
「そぅデスネ……」
しかしキハンは考える気満々に、顎に手を当てて思案顔になった。
「うーん……ムズカシイデスネ……」
「…………悩め」
小泉がぼそり。
「それただの命令形に聞こえるだけだぞ」
「……悩みめ」
「あ、それいいかも……え?」
急に聞こえた第四の声に、一年生達は振り向いた。
その先に、
「……どうもです」
扉の音を立てずに、二年の内川がいつの間にか部室内へと入っていた。
「内川先輩こんにちはー」
「ハローです、センパイ」
「こんにちは」
小泉の後に続いてキハンと称名も挨拶を終える。
最初の方は急に現れた内川に驚いていたが、もう流石になれたものだ。
もちろん、内川に驚かせるつもりはもともと無いのだが。
「……部長は?」
「暗幕室に行きました」
「そう……なら、コレ」
内川は紙袋を机の上に置いた。
中身は旅先でのお土産だ。
内川はこうして、学外へ出て写真を撮っている。
学外と言っても、学校の周囲ではなく、その足は県をも越え、活動している。
その証拠が、毎度部室に訪れる度に置いていくお土産だ。
なぜそれが許されているのかは、一年生達は知らない。
そういうものだと、三人共自己解決している。
「……みんなで食べて」
「ありがとうございます」
「サンキューです、センパイ」
「……ありがため」
思い付いた小泉が再びぼそり。
「それ何か別の意味にも取れそうだぞ」
「……どたまて」
「アレ? その言葉は確か……」
「この前決めた、どういたしましての略称」
あれ? でもその時先輩居たっけ? と小泉は1人首をかしげる。
「……活用、させてもらってる」
きっと他の先輩から聞いたんだな、と自己可決しておいた。
「ありがためー」
「……どたまめ」
「おぉ、混ざった」
どういたしましてめ、略してどたまめ。
「……これも、使わせてもらう」
「どうぞどうぞー」
それからしばらく、〇〇めの言葉を、3人は考えた。
そういう訳で一人居残った、
「……誰でもいいから、先輩来てくれ」
称名の呟きは、〇〇めの中に、消えて無くなった。