「殺す、ね……本気で言ってる?」最強格闘JK、転生先では拳を開放する
(あぁ……これ、多分、死ぬな)
女子高生、紫雲雷華は自身の腹に刺さるナイフの感触から、自分からこれから数分もしない内に死ぬことを悟った。
「て、てめぇが調子に乗ってんのが悪ぃんだよ!!!!!」
雷華の腹にナイフを突き刺した不良たちは、本当に人を刺してしまったことで動揺しながらも、強気な態度を崩そうとしない。
(……あの子は……ちゃんと逃げられたんだよね)
見覚えがある同じ高校の学生がカツアゲされているのを見て、雷華は同級生と不良の間に入り、同級生を逃がすことに成功した。
だが、自分たちの拳や蹴りが当たらないことに苛立ちが募った不良がナイフを取り出した結果、不意を突かれて致命傷を負ってしまった。
(そっか…………死ぬなら、そうだよね……殺っちゃっても、良いよね)
ナイフを突き刺し、雷華に致命傷を負わせる。
その判断が、不良たちの運命を終わらせた。
「ほがっ!!!!????」
「なっ!!??」
「ふッ!!!!」
「いぎっ!!!!????」
先程まで上手く避けるだけで反撃していなかった雷華の拳が、蹴りが不良たちの体に炸裂していく。
(ふっ、はは! あはは!!!!!)
自分が死ぬと悟りながらも、雷華の顔には笑みが浮かんでいた。
どうせ死ぬなら、これまで抑えてきていたものを全て解放して良い。
リミッターが外れた雷華の打撃に、不良たちは驚く暇すら許されず苦悶の表情を、声を零し続ける。
(この感覚、本当に久しぶり!!!!!!!)
雷華は……幼い頃から格闘技を習っていた。
その腕前はメキメキと上達していき、ジュニアの時に大会へ参加した。
大会の決勝戦……周りと比べて頭一つ抜けた腕前を持っていても、決勝まで上がってくるような子も同じく、周りと比べて頭一つ抜けた実力を持っていた。
実力が伯仲する中、雷華の拳が体を抉る様に突き刺さり、相手選手に重傷を負わせてしまった。
その感触や相手の表情から、そこで試合が終わるであろうことは解っていた……解るはずだったが、雷華は昂ぶりは収まらず、追撃を叩き込もうとした。
それは、幸いにも審判の制止によって未遂に終わった。
結果、雷華は初めて参加した大会で優勝を収めた。
だが……その時、雷華は本能的に解ってしまった……普段の鍛錬であればともかく、このまま自分がリングに上がり続ければ、いずれは人を殺してしまうと。
人を殺すことは良くないことだと解っており、雷華もそれをしたいが為に格闘技を習い始めたわけではなかった。
それでも、解ってしまった……選手としてリングに上がれば、どこかで人を殺してしまう。
それが解ってからの雷華は変わらず格闘技を習いながらも……スパーでは歳上すら倒してしまう実力を持っていながらも、リングに上がる同級生や先輩たちの為に活動し……将来はトレーナーの道を進もうと考えていた。
そんな彼女の拳に、蹴りに、肘に膝に、あの時……一瞬だけ宿った殺意が乗っていた。
「がばっ!!!!! や、やべ」
「疾ッッ!!!!!!」
「ーーーーーーーーっっっ!!!!!!!???????」
逃がさなかった。
その場にいた不良たちを誰一人として残さず、一切の反撃すら許すことなく一方的に叩きのめし……再起不能にした。
「あぁーーーー………………ごめん、なさい……お父さ、ん……お母、さん……先、生」
誰かを守るため、であればまだ良かった。
しかし、雷華が最後に振るった力は、誰かを守るためではなく、正当防衛の為でもなく……ただ、あの時抑え込んだ衝動を開放したかっただけ。
格闘技を習う際に教えてくれた師たちとの約束を破ってしまうことに……若くして死んでしまうことに、申し訳なさを感じる。
(あぁ、でも……悪く……なかっ、た)
不良たちの体を拳で、蹴りで骨を砕き、叩き伏せる感触を思い出し……何かが鳴り響く音、誰かの声を感じながら、彼女の意識はそこで閉ざされた。
「……………………?」
「ふふ、どうしたの? スラン」
(この人は……誰? 確か、不良に刺された傷で死んだから…………女神様、とか?)
意識が目覚めた雷華の前には、見慣れない容姿を……海外の方かと思われる姿の美しぃ女性がいた。
その美しさは、確かに女神と見間違えてもおかしくない。
しかし……周囲の光景が、それを否定する。
(家…………家? で、合ってる……のかな? けど、なんか凄い……凄い、豪華)
周囲にあるインテリアたちは、どれもネットでしか見たことがないほど豪華なものばかりであり、その状況が増々雷華を混乱させる。
「お腹が空いてそうね……それじゃあ、おっぱいをあげるわね」
(えっ……おっぱい?)
現れる爆乳と乳輪。
雷華改めスランの中身は元JKであり、おっぱいなど遠の昔の卒業しており、そっちの毛もない。
だが……赤子の体が栄養を求め、爆乳美女の胸を本能的に含んでしまった。
(…………えっと、これ、どうなってるの?)
解らない。
本当に解らないことだらけだが……それでも、一つだけ解ることがあった。
理由は解らないが、それでも自分はまだ生きられる。
良く知らない解らない世界で……第二の生を手に入れることが出来た。
(異世界、かぁ…………凄いところに来ちゃったな)
不良にナイフで腹を刺されて死に、異世界に転生してから約一年。
雷華改めスランは自分の身に起きた状況をなんとなくではあるが把握することが出来た。
(あれだね……あんまり詳しくはないけど、異世界転生? ってやつだっけ………………読まず嫌いせず読んでおけば良かったかな)
前世ではそれなりに漫画を読んでおり、特に格闘漫画やバトルファンタジー漫画などは好きだった。
しかし、異世界転生や転移といった系統の漫画にはそこまで興味がそそられず、なんとなく読んでいなかったが……まさかまさかの、そんな雷華が死んで本当に異世界転生してしまった。
(魔法に武器……闘気とか、あとはモンスターとかだっけ…………本当に、前世とは違う世界なのよね……)
まだぽつぽつと話せるようになった程度ではあるが、生まれた家が家であったため、メイドや執事などに頼めば本を読んでくれ、質問すれば母が答えてくれることもある。
そんな門答を繰り返す中で、雷華は自分が転生した世界がどのような世界で、自分がどういった家の子に生まれたのかも知った。
(それにしても、貴族……貴族…………嬉しいこと? なんだろうけど、ちょっとめんどくさそうな匂いがする……)
雷華が生まれた家は、デリルガーナといった姓を持つ名家。
獅子の紋章を持ち、国の中でもトップクラスの武力を持つ名門とも呼ばれる家。
雷華はそんな名家の五女、スランとして生を受けた。
「ねぇ、あっち」
「はい、解りました。それでは移動しましょうか」
面倒な匂いはする……しかし、同時に楽しそうな匂いも感じていた。
その良い匂いがする元へ、お付きのメイドと共に向かう。
「破ッッ!!! セヤっっ!!!!」
「疾ッッ!!! ーーーっっ!!!!」
「っっ、チッ!! ぅおらぁッッッ!!!!!!」
「……………………」
そこは、訓練場。
名門、デリルガーナ家に仕える騎士、訓練兵や騎士候補生たちが鍛錬を行う訓練場。
そこにメイドと共に訪れ、じっくりと眺めていた。
「お、おい。また来たな」
「あぁ、そうだな……噂通りってことなんだな」
「やっぱり、デリルガーナ家の子ってこと、なんでしょうね!!」
「まさしく、将来が楽しみな存在だ」
当然、多くの者たちが雷華ことスランの存在を知っている。
雷華にとって意識はあるのに、自由に体を動かせない時期というのはあまりにも苦痛な期間。
だが、生の武器を使って訓練を行う騎士や候補生たちがいる場所を知ると、毎日のように訪れ、訓練風景を眺めるようになった。
そうなれば当然、五女が生まれたという話を耳にするだけではなく、実際に五女……スランがどういった容姿をしているのかも解るようになる。
まだそこまで長々とは言葉を話せないスランだが、それでも印象的に残った動き、凄いと思った攻撃が見れた時は拍手していた。
それを見ると……まだまだ一歳になっていない子供だと解りつつも、可愛い赤ちゃんが喜んでくれているという事実に、騎士や候補生たちのやる気が漲り、結果としてスランの来訪は教官たちから見ても有難いものとなっていた。
(やっぱり……凄い。本物の武器だ…………)
前世で格闘技を行っていた雷華だが、少なからず武器という存在に興味を持っていた。
空手の先生の友人が刀を持っており、実際に巻き藁などを居合切りなどで切断する光景を見て興奮したのを今でも覚えている。
そして、ここには刀だけではなくロングソードやショートソードに大剣……勿論剣だけではなく槍や斧、ハルバードといった武器なども存在する。
それらを使って真剣に鍛錬を行い、模擬戦を行う光景などは何度見ても雷華の心を躍らせる。
「いらっしゃいませ、スラン様。今日も気が済むまでごゆるりとごらんください」
「ありがとう、ございます。レドルドさん」
「っっ……本当に子供というのは成長が早いですね」
「レドルド様の仰る通りかと」
先日会話をした時よりも、話し方がスムーズになっている。
たかが話し方と思われるかもしれないが、今よりも幼い頃からよく自分の意志を示すような動きをしていたこともあり、それを知る者たちからはただの成長とは思えなかった。
(デリルガーナ家に生まれた者たちは他の子供たちと比べて武器、戦いというものに興味を持つのが早くはあるが、だとしても……生後三十日も経たない内から興味を持ったのはスラン様ぐらいだろう……………………よし)
スランが歩けるようになり、多少は動けることを前から知っていたレドルドは、事前に用意していた木製の剣を取り出した。
「スラン様。実際に振ってみますか? こちらの木製の物になってしまいますが」
どれだけ我儘を言われたとしても刃引きしてない剣は持たせられないが、サイズを一歳児に合わせた木製の剣であれば、こっそり知り合いに作ってもらっていた。
「良いのっ!!!!!?????」
「えぇ、勿論です。これはスラン様の為に作られた物ですから」
「ありがとう、ございます!」
「こちらこそ、スラン様に喜んでもらえて光栄です」
メイドもレドルドが用意した木製の剣に問題はないと判断し、止めることはなく……ただ、転んでしまった際に速攻で受け止められるように準備だけはしておく。
「よし…………っ!!!」
「「「「「―――――っ!!??」」」」」
一振り……上段に構えてから、斬り下ろした。
たったその一振りに、レドルドとメイド……二人の話が気になり意識を向けていた騎士たちの背筋が震えた。
(なんという……一振り………………本当に初めて……いやっ、しかし……)
子供が……それこそ、一歳児が放った上段斬り。
それに良いも悪いもクソもない……というのが当たり前の感想。
だが、違った。
スランが放った上段斬りは、明らかに剣を初めて握った者が降れる斬撃ではなかった。
「っ、っ! やっっ!!!」
(―――っ……先程の斬撃がまぐれではない、か…………っっっ……は、はは。言葉が、見つからないな)
初めて武器を持った子供というのは、大抵が無邪気に振り回す。
レドルドはもう三十を越えた良い大人だが、それでもその頃の記憶がまだ残っていた。
しかし、目の前で自分が用意した木製の剣を振るうスランからは、剣士や戦士などが何年も何年も鍛錬を重ねて至る確かな姿勢の線を感じさせた。
(私の見間違えでは、なかった………………才能がある、だけで済ませて良いのでしょうか)
武家の名門であるデリルガーナ家のメイド……とりわけ、デリルガーナ家の子供の傍にいることを許可されたメイドということもあり、その実力はそこら辺の騎士を凌駕する実力を持っている。
そんな彼女から視ても、スランが木製剣を振るう姿は、あまりも異質だった。
既に武器を振るう姿勢というのが整っており、ただ闇雲に振るうのではなく、正解をなぞるように正確に振るおうとし……どこか気に入らないといった表情を浮かべ、同じ角度から木製剣を振るうこともある。
(お、おいおいおい、待てよ…………スラン様は、今日初めて剣を、握ったんだよな?)
(天才……天才って言葉で、片付けて良いのかしら?)
(は、ははは……あぁいうのを、麒麟児って言うんだったか)
既に多くの戦場、激闘を経験している騎士たちも感じ取っていた。
雷華ことスランが振るう剣が、あまりにも一歳児が振るうものではないと。
「……レドルド様」
「あぁ、そうだな……」
メイドの言葉に、レドルドは小さく頷く。
明らかに異質な光景……既に騎士たちの中でも解る者は解っており、知られてしまった。
であれば、ここだけの話にしてしまうのは得策ではない。
この後、メイドはこの一見はスランの母であるアンナに伝え、レドルドは夕食を食べ終えた後……自室である人物への手紙を書き始めた。
「こんなものか」
年齢は既に四十を越えていることが伺える風貌ながら、肉体はそこら辺に若造よりも遥かに鍛えられている。
獅子の鬣のような銀髪を揺らす男の周りには、人間の大きさを優に上回る怪物たちの死体が転がっていた。
「当主様」
「イルズか……どうした」
「レドルドから手紙が届きました」
「ほぅ、レドルドからか……面白い候補生でも見つかった、といったところか」
共に戦場に来ていた騎士から手紙を受け取り、おおよそ名家の当主とは思えないほど勢いよくビリっと封を破って中にある手紙を取り出す。
「………………っ………………ふっ、ふふふ、はっはっは!!!!!!!!!」
「「「っ!!!!!!!」」」
笑う。
ただ、嬉しそうに笑う。
それだけで森が、大気が揺れる。
その光景だけで、目の前の男が……デリルガーナ家の現当主、ランゾがどれほどの高みに到達した剣士なのかを思い知らされる。
「当主様……レドルドからは、なんと?」
「……ふっ。見てみるが良い」
「っ!!?? 僭越ながら、失礼いたします」
当主に向けて送られた手紙ということもあり、基本的には彼の傍で戦える騎士たちであっても読むことは出来ない。
そんな手紙を恐る恐る拝見し、漏れがないように読み進めていく。
「―――っ!!??」
ある箇所まで読み進めた瞬間イルズの視線が止まり、顔が驚愕に包まれた。
「私が笑った理由が解ったか」
「は、はい……っ…………とても、喜ばしいことかと」
イルズの声は、信用半分と不信半分といった状態だった。
レドルドという騎士のことは良く知っており、ここでは呼び捨てで呼んでいるものの、彼にとって剣の先輩とも言える人物。
そんな先輩騎士は裏でこっそり危ない薬をやっているという噂もなく、酒はそれなりに呑むものの酔い潰れて失態を犯すこともない。
そういった男だと、先輩だと知っているため、当主への手紙に嘘が書かれているとは到底思えない。
それでも……それでも、今回の手紙に書かれている内容を完全に信用することは難しかった。
「全てを信じることは出来ないか」
「っっ……はい。彼のことを信用していないわけではありませんが、それでも……常識という枠を越えた……その外を更に越えた話のように思えました」
「ふっふっふ、そうだな。安心しろ、俺の考えも似たようなものだ……とはいえ、だ。同じく俺もレドルドほどの男が手紙に嘘を記す……見たものを正確に読み取れないということもないだろう」
「はっ! 仰る通りで」
「………………このまま討伐を続けるつもりだったが……一度屋敷に戻るか」
そう言うと、ランゾは山詰みの死体の更に奥へと向かい……大剣を地面に向けて薙ぎ払う。
次の瞬間、斬撃による突風が舞い上がる。
「では、行くぞ」
砂煙が静まると、一つの……大きな大きな、非常に長い線が地面に刻まれた。
それは、圧倒的強者からモンスターに対する警告線だった。
「う~~~ん……悪くないけど…………そっちも試してみたいわね」
「かしこまりました」
「………………」
ある日の朝、雷華は朝からアンナたちの着せ替え人形となっていた。
『とびっきり可愛い格好で迎えましょう!!!!』
久しぶりに父親であり、デリルガーナ家の現当主であるランゾが戻ってくる……その目的が雷華改めスランということもあって、アンナは朝から娘に一番似合うドレスを探し、実際に着せて確かめていた。
(初めはびっくりしたけど……もう慣れてきたなぁ…………)
前世でそこまでファッションに興味がなかった雷華だが、それでもドレスというものに関して、一度ぐらいは着てみたいなと思っていた。
そんなドレスを初めて着れた時は久しぶりに格闘技や武器などではないことで若干興奮したが……もう完全に慣れてしまった。
(それにしても…………いったい幾らするんだろ?)
用意されているドレスの数は、一着や二着だけではない。
それこそ、目に見えて解るだけでも数十着はある。
(…………お金持ちというか……貴族、だなぁ~~~)
本当に凄い家に生まれてしまったと改めて思う雷華。
そうしてスランの燃えるような赤髪に似合うドレスが決まり、到着まで着たまま待機。
当然……ドレスを着た状態では、レドルスから貰った木製の剣を満足に振るうことも出来ないため、非常に退屈であった。
(……本でも読もう)
既にこの世界の文字は覚えており、まだ読んでいなかった魔術に関する本を取り出し、眼を通していく。
「……スランは魔術師になりたいの?」
「うぅん。ただ、気になるだけだよ」
「そうなのね」
デリルガーナ家は、武家の名門。
剣こそが、武器こそが至上!!!! 魔法なんて軟弱者が使うものだ!!!!!! と、現当主などは考えていないが……それでも戦闘で武器をメインに扱う以上、魔法というものを見下す傾向にあり、デリルガーナ家の者として生まれた者は基本的に魔術師の道には進まない…………家の空気が、進ませようとはしない。
(胸の中心にあるものを感じ取り、全身を駆け巡るイメージを浮かべ、実際に循環させることで出力などを高める…………胸か腹かの違いだけで、高め方は闘気とあまり変わらないみたいね)
魔法を使う者は魔力を……武器を扱う者は、闘気という力を扱えるようになる。
当然、スランは後者の道に進むつもりである。
しかし……前世の記憶があるスランにとって、魔法という存在は武器たちと同じく興味が惹かれる存在であり、胸を高鳴らせてくれる。
(術式の展開……ものによっては詠唱が必要なんだよね……詠唱………………やっぱり、恥ずかしいね)
雷華の頭の中に、中二病という単語が浮かぶ。
勿論、熟達した魔術師たちは詠唱が必要な魔法であっても詠唱を破棄して魔法を発動することが出来るようになる……しかし、敢えて詠唱を行うことでより威力を高める効果もあるため、一概にただ恥ずかしい行動と断言は出来ない。
(……やっぱりそういうのを潰す為には、早く闘気を使えるようにならないと、か…………瞑想? を頑張るか)
空手なども習っていた雷華にとって、瞑想という動かない鍛錬方法自体は苦手ではない。
ただ、最近は木製の剣を振るうことに夢中になり過ぎて頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。
「っ、来たわよ、スラン。行きましょう」
「はい、おかあさま」
まだ……まだ若干むずむずするものの、アンナのことをお母様呼びすることには徐々に慣れてきた雷華。
まだ少しむずむずが残る中、アンナや騎士たちと共に帰還した騎士たちとデリルガーナ家の現当主……ランゾを出迎える。
「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、ランゾ様!!!!!」」」」」」」」」」
両側に並んだ多くの騎士たちが声を揃え、覇気が伴った出迎えを行う。
本来であれば、この場にアンナ以外の妻たちやスラン以外の子供たちも並ぶのだが……ランゾの指示もあって、身内の中で出迎えたのはアンナとスランだけだった。
「お帰りなさい、ランゾさん」
「あぁ、今戻った。息災だったか、アンナ」
「えぇ、勿論です!!」
満面の笑みを浮かべながら、アンナは軽く娘の背を押した。
「はじめまして、おとうさま。スランです」
「ほぅ……歳の割にハッキリと喋るな……俺がお前の父、ランゾだ…………とりあえず、中へ入るとしよう」
「「はい!!」」
防具を取り、上着を脱ぎ、三人で食堂へと向かう。
「…………ふっ、相変わらず美味い飯を作るな」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです」
アンナも貴族出身の女性……いわゆるご令嬢という存在だったが、珍しくちょっとお菓子を作る程度ではなく、がっつり料理が出来る。
そこが、ランゾがアンナを気に入った点の一つだった。
(……さっきまでと、全然雰囲気が違う)
門から中へ入ってきた時のランゾは、そこら辺の騎士がミジンコに思えるほどの覇気を纏っていた。
ランゾがわざと威厳を見せるようにしているのではなく、自然と身に付いてしまった圧力だった。
しかし……今はまだ強面顔のせいで圧を感じるものの、先程とは反転して家庭的な温か味というものを感じ取れる。
(というか、本当にデカい……二メートルは…………余裕で越えてる? けど、体が軽そうにも感じる…………本当に、あの人が父親なんだ)
そんな事を考えながら、雷華は一歳ながらもりもりと食事を食べ続ける。
そして家族での食事を終えた後……雷華は一人、ランゾの私室へと呼ばれた。
「…………………………」
「…………………………」
無言だった。
ランゾはレドルドからの手紙に大いに関心を持ち、珍しく土産などを用意していた。
だが、改めて娘と対面して思い出した。
娘が……まだ一歳であることに。
(……ひとまず、確認したいことを確認するか)
プレゼントなどは追々にするとして、まずは屋敷に戻ってきた目的を果たす。
「スランよ……剣を振るう姿を見せてくれるか」
「はい、わかりました」
言われた通り……ではなく、普段よりも緊張した面持ちで中段に構える。
(この感じ…………結構久しぶり……ふふ。だからこそ、だよね)
緊張感があるということは、壁を乗り越えるチャンスでもある。
そんな前世のメンタルを芯に構え、スランは言われた通りに剣を振るい始めた。
「ーーッッ!!! ふッッ!! やっ!!!!」
「………………」
一振り、とは言われてないので何度も何度も振るい続ける。
やること自体は、普段と変わらない。
ただ剣の稽古をするだけである。
(……ふっ、ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!!! なるほどな……これほどのものがあったからこそ、あのレドルドがあそこまでの言葉を使って表したか…………よもやよもやの展開だな……さりとて、これはこれで楽しみというものか)
数回振るうだけで止めない。
レドルドが手紙に記していた通り……寧ろそれすら上回る姿勢と剣を見せてくれた。
そして、今はもう自分の前で稽古と変わらない雰囲気で動き続けている。
何故ほぼ初対面のくせに解るのか?
そこは戦いに関わっているから、としか説明のしようがなかった。
「スラン、もう止めて構わない」
「っ、はい」
「……良いものを見せてもらった」
「―――っ、ありがとうございます!!!」
(……頭を下げる姿勢なども一歳とは思えないな……物覚えが早い故に、前倒しになっているのか?)
子供たちの教育に関しては、基本的に執事やメイド、騎士たちに任せている。
だが、一応どういった教育プランが基本となっているかは頭に入っている。
ランゾの記憶が正しければ、現段階では文字の読み聞かせがせいぜいなところ。
因みに、雷華はまだ子供らしいところがあり、単純に強い人物から褒められるのが嬉しかっただけ。
「…………………………スランよ。剣は好きか」
「はい!! あと、ぶきもすきです!!!」
「むっ……なるほど、そうか」
剣は好きだが、それ以前に武器全般が好き。
となると、焦り過ぎるのは良くないと判断。
(武器が好き、か…………そのような言葉を口にする者たちはいたが、あまりにも早いな…………今回に関しての褒美は、本当にまた後日にした方が良さそうだな)
スランだからというわけではなく、ランゾは子供たちが成果を出す、戦果を上げれば必ず褒美を与えている。
時には自身のコレクションの武器から渡すこともある。
今回、ランゾはスランがもう少し大きくなってから扱える刃引きしてない剣を用意していたが、どうやら剣と決めつけない方が良いことが解った。
(……続きは、今後に残しておいた方が良さそうだな)
その後、少しだけ言葉を交わした後、スランはランゾの私室から退室し……彼の従者が戻ってきた。
「感じていたか」
「えぇ、勿論です」
「……今から、食い込むと思うか」
「可能性は大いにあるかと」
「ふふ……そうか」
可能性とは、スランが継承者争いに食い込む可能性のこと。
一番歳が離れている者とは十歳以上歳が離れており、普通に考えれば五女という立場に生まれたスランが今更デリルガーナ家の後継者争いに食い込むことはない。
スランは今のところ幼児とは思えない姿を見せているが、それでもデリルガーナ家の子として生まれた者たちは皆……その他大勢の令息や令嬢たちと比べて大きな才を持っている。
彼らも日々成長しており、全員が剣士や戦士としての道に進んでいる。
十歳以上もの年齢差は、基本的にはどのようにしても覆しようがない。
だが、長年デリルガーナ家に仕え、多くの剣士や継承者たちを見てきた執事が、スランにはこれから継承者争いに食い込む可能性が大いにあると口にした。
「ですが、一つ懸念点もございます」
「女だから、などといったくだらない理由ではないだろうな」
「えぇ、勿論でございます」
女性だから当主になれない……そういった古臭い考えは、デリルガーナ家の歴史だけではなく、各家の歴史が既に証明している。
「スランお嬢様には、英雄の相を感じました」
「………………なるほどな」
その短い内容だけで、ランゾは執事が何を懸念点としているのか直ぐに察した。
「…………とはいえ、だ。しばらくの間は巻き込まれることは必至だろう」
「えぇ……ですが、その後はお嬢様の意志次第になるかと」
「…………………………ふっ、ふふ、はっはっはっはっは!!!!!!!!」
「当主様?」
「つまり、俺は今子育てについて悩んでいる……くるかもしれない、反抗期というものについて悩んでいるということだな」
「……そうですね。そういう事になるかと」
「そうか…………ふっふっふ。一日の間にこうも笑ったのは久方ぶりだな」
その後、ランゾは去る前にもう一度スランの動きを見て、第三夫人であるアンナの手作りを食べてから元居た場所へと……戦地へと戻るのだった。
「「やい、スラン!!! ちょっと面貸せ!!!!!」」
「……はぁ~~~~、何?」
数年後……雷華は訓練場である二人に絡まれていた。
「「やい、スラン!!! ちょっと面貸せ!!!!!」」
「……はぁ~~~~、何?」
五歳となったスランは、一歳児の時と変わらず訓練場で鍛錬に取り組んでいた。
本来であれば、武家の名門であっても戦い以外に関することを多く学ばなければならない。
しかし、そこは転生者……嫌なことだからこそ、本気で学んで身に染み込ませ、短期間で座学や礼儀、ダンスなどを見に付け、今では殆どの時間を鍛錬に費やしていた。
五歳になったことで体も多少は大きくなり、扱える武器も増えた。
ただ……五歳という、ある程度一人で動けるようになったこともあり、逆に面倒な者たちに絡まれるようになってしまった。
それが今回絡んできた二人……双子の兄妹、パルガとルカナである。
二人はスランと父親こそ同じだが、母親は違う異母兄姉。
そのため、基本的には継承権の順位を争う競争相手である。
「父様に気に入られているからって、調子に乗るなよ!!」
「調子に乗らないことね!!!」
「……別に調子に乗ってないんだけど」
事実、雷華はランゾから気に入られているからといって、父に対して特別な要求をしたことは一度もない。
礼儀作法やダンスなどは面倒であったが、前世と同じく赤点を取らない為に必要な勉強だと思えば……苦ではあったが、なんとか早いうちに乗り越えられた。
そのため、残った時間の殆どを鍛錬に使っており、デリルガーナ家の人間であれば当たり前の行動をしているだけとも言えた。
ただ……雷華からはランゾに何かを強請ったり頼ったことはないが、スランの成長を
聞いた際に送ろうと思っていた褒美が四歳の頃に送られた。
それは……間違いなく、四歳の子供に送る品質のものではなかった。
まだまだ美術品や物の目利きは達者ではないものの、さすがに雷華も貰った武器が今の自分が扱うにはあまりにも質が高いことぐらいは解った。
とはいえ、いざという時の為に使いこなせない訳にはいかず、適度に使用していた。
「んじゃあ!!! なんでお前だけ父様からあんな良い武器貰ってんだよ!!!!!」
「そうよそうよ!!!!!」
(…………面倒でも、良い顔してるね~~~~)
二人にはランゾの面影と、彼女たちの母親であるフィリディス夫人の面影があり……どちらのイケメン美女因子を引き継いでいる。
雷華は特に面食いという訳ではないが、イケメンや美女を見て「おぉ~~~~」と感嘆するぐらいの感情の起伏はあった。
「お前、俺たちの話聞いてんのかよ!!!!」
「聞いてるのかしら!!!!」
「うん、聞いてる聞いてる。それで……二人は何がしたいの?」
雷華としてはさっさと二人とのつまらない会話を終わらせて鍛錬に戻りたい。
そんな……つまらないという感情が無表情なスランから本能的に読み取り、二人の怒りゲージは更に高まる。
「~~~~~~~~っっっ!!!!! 俺たちと戦え、スラン!!!!!」
「戦いなさい!!!!!」
「うん、解った」
「「………………」」
あっさりと……あまりにもあっさりと、ノータイムで雷華は二人からの申し出を受け入れた。
「? 私と戦うんでしょ……それって、試合をするってことでしょ」
「そ、そうだぞ!! ちゃんと解ってるのか!!!!!」
「解ってるよ。何回もしてるし」
訓練場にはデリルガーナ家に仕える騎士たちの息子や娘たち……騎士候補生と呼ばれる者たちもいるため、そういった者たちとスランはこれまで何度も試合を行ってきた。
ただ、一歳歳上の二人とはまだ試合をしていないだけ。
「えっと、刃引きしてない武器で戦る?」
「―――っ、は!!! 怖気づいてんのか!!! そのままの武器で戦るに決まってんだろ!!!!!」
「「「「―――――っっ……」」」」
パルガの言葉に、その場にいた大人たちの表情に緊張が走る。
デリルガーナ家の人間であれば、遅かれ早かれであり、刃引きされてない武器を使って試合を行うことぐらいは特に珍しいことではない。
だが……一応刃引きされてない武器をパルガとルカナも扱っているが、正直なところ……騎士たちから見てまだ二人が試合で普通の武器を使うのは早かった。
「そっか…………解った。それじゃあ、戦ろっか」
(っ、やはり了承してしまうか)
まだ二人の扱いが危なっかしい……それに加えて、騎士たちには別の不安点があった。
それは、おそらく多少なりとも二人に対してイラついているであろうスランがどれほど二人を追い詰めてしまうのかという心配。
「っっっ、言ったな! デリルガーナ家の人間に二言はねぇだろうな!!!」
「ないでしょうね!!!!」
「ないよ。それじゃあ、戦ろう」
「「~~~~~~~~っっっ!!!!!!!」」
一切怯まない、全く恐れない異母妹の姿に怒りゲージが限界を迎えた。
「後でひーひー泣いても知らねぇぞ!!!!」
「うん。だから早く始めようよ」
「こ、こんの生意気なぁ~~~~~!!!!!」
パルガは……本気で怒っている。
怒っているつもりではなく、本気で怒りボルテージがマックスに達していた。
だが、前世では男子のスパーリング相手をしていた雷華からすれば、当然ながら欠片も怖くなかった。
「試合、開始!!!!!!!」
「うぉらッッッ!!!!!!!!」
審判を務める騎士の開始の声と共に、パルガが勢い良く駆け出してロングソードを振り下ろす。
「……………………」
「しッッ!!!! ぅおりゃッッ!!!! はッッ!!!!!」
まだ六歳の子供ということもあって、振りはやや大味。
それでも超名門の武家に生まれ、習い始めた時から英才教育を受けていることもあり、剣技の基礎らしい部分は身に付いていた。
(……………………六歳、だからか……そこまであまり変わらない、ね)
実際のところ……パルガは他の同世代の子供たちと比べれば身体能力はやや高く、肉体の頑丈さも上。
それが代々強くなるために生き続ける名門の家に生まれた者のアドバンテージ。
しかし……雷華からすれば、その差はあまり感じなかった。
それは彼女が同じく超名門、デリルガーナ家の人間であることと……一歳の差があるにもかかわらず、模擬戦や試合を行っている回数は雷華……スランの方が多いから。
(何か、奥の手があるかもしれないけど……それはそれとして、試合、だからね)
プロ候補とのスパーリングを行った際、奥手を出されて手痛い経験をしたことがあるも、だからといって自分から攻めなければ勝利を手にすることは出来ないと知っており……一歩、リズムを読んで懐に入りこむ。
因みに、そのスパーリングでは結局機転を利かせた雷華が勝利していた。
「……ふッ!」
「っ!? ――っ!! ん、のッッ!!!」
「っ、ッ!! ふッ!!」
「っっっ!!?? なっ!? ――っ!!!??? がっ!!!???」
身体能力では、パルガの方がやや上。
この歳頃での一歳差は中々にバカに出来ないが……それでもロングソードと短剣のリーチ差を乗り越え、あっさりと懐に入り、パルガの体を切り裂く。
一つ、二つ、三つ……あっという間に気づけばパルガの体には十を越える切傷が刻まれ、床に地面が雨漏りのように垂れていく。
(……えぇ~~~~~~~)
その状況に、雷華は心の中で盛大にため息を吐いていた。
素人が……相手の見た目だけで判断し、大口を叩くということはある。
もしくは、過去に大きな功績を得ているからこそのビッグマウス……それは、雷華も理解出来る。
よくその口が開いたり閉じたり出来ないようにしていた雷華だが、そういった要素があるからこそのイキり行動というのは理解出来る。
しかし……まだ六歳とはいえ、それでもデリルガーナ家で武器や戦いの教育を受けており、完全な素人ではない。
そしてまだ六歳ということもあり、大した実績を収めていない……だからこそ、雷華としては本当に強いのだろうと思っていた。
彼と同世代では一応差がある。
だが、雷華からすればあまりにも些細な差であり、剣技に関しても基礎が出来ているところで特に長所はなく切傷は二十……三十を越え、そこでパルガ疲労で転んでしまった。
「うっ!! ひっ!!??」
「えっと……終わりで良いよね」
「えぇ、そこまででです。勝者はスラン様です」
「ま、待て「待ちませんよ、パルガ様。あなたは転んで無防備な状態になり、スラン様から剣先を突きつけられた……つまり、殺せるなら殺せる状況に追い込まれたのです」――――っっっ…………」
審判を務めていた騎士の言葉に、パルガは歯ぎしりしながらも、その表情には確かな恐怖が映っていた。
「ですので、この試合はスラン様の勝利です」
「~~~~~~~っっっ、チッッ!!!!!!」
デカい舌打ちはするものの、それでもパルガは自身の負けを受け入れ、後方に下がった。
「運良くパルガお兄様に勝ったからって調子に乗るんじゃないわよ!!!」
「……次はルカナと戦るんだよね。早く始めようか」
「なっ!!! ~~~~~っ、泣いても許さないわよ!!!!」
(………………パルガとの試合、あまり得られるものがなかったな……やっぱり、武器を使ったのが良くなかったのかな)
双剣を構えるルカナを前に、スランは一度離席して近くにいた過去に試合をしたことがある騎士候補の子に短剣を渡した。
「持っててもらっても良い?」
「も、勿論です!!!」
「ありがとう」
そう言うとスランは別の武器を手に取る……ことはなく、そのまま開始位置へと戻った。
「よし。お待たせ」
「……あなた、もしかして、素手で……素手で戦うつもりですの」
「うん、そうだよ」
「………………そうですの……そうですのね。解ったわ」
(おぉ~~~~、ナイス判断、私)
ナイス判断、私……ではない。
審判を務める騎士の顔に汗が流れる。
(…………いざという時は、私たちが止めれば良い話だが……それに、笑っておられる)
騎士は、デリルガーナ家の血族というわけではない。
ただスランが零歳の頃から訓練場に訪れており……彼が貴族出身の騎士ということもあり、無表情であることが多いスランの顔から……本心ではどう思っているかが理解出来るようになっていた。
六歳時とはいえ、本気の殺意を向けられたとしても、一切怯むことなく……寧ろ心の内では笑っている。
それを感じ取った騎士たちは……ある確信を得た。
「それでは……始め!!!」
「――――ッッッ!!!!!」
開始の声と同時に、兄と同じく速攻で駆け出したルカナは殺意の籠った刃を振り回す。
(うん、良いね……ほど良い、緊張感)
ロングソードと比べて双剣は文字通り手数が二倍。
そして基本的な手数が二つな素手と比べて、武器である分リーチが長い。
加えて……何故かは解らないが、ルカナが本気で自分を殺そうとしている。
(やっぱり……やっぱり、素手にして正解だった)
何かを得られる……成長出来る。
騎士たちと違う確信を得た雷華は、無意識に笑みを浮かべていた。
「っ、なに、笑ってるのよ!!!!!!!!!」
特に相手をどうこうさせる他意はない。
しかし、英才教育を受けているとはいえ、まだ六歳の子供がそれを理解出来るはずもなく……更に濃く、本気の殺意が込められた刃が振りかざされた。
(やっぱり、素手にして正解だった)
雷華は、現在自分が置かれている現状に、笑みを浮かべていた。
相手は素人ではなく、英才教育を受けている本物であり、更に殺意まで乗せられている。
そんな相手と戦っている状況に、無意識に笑みを浮かべるほどの高揚感を感じていた。
「だから、なに、笑ってる、のよッッッ!!!!!!」
その笑みに比例するほど、ルカナが迸らせる殺意が高まっていた。
そんな光景を見ていた騎士候補の子供たちは、両者が合意した試合とはいえ止めた方が良いのではないかと思い始めていた……しかし、大人たちは逆だった。
心の内で笑っていだけではなく、表情に零れている。
そこまでいくと高い実力、社交力がある騎士たち以外の者たちも気付く。
あの笑みは頭がおかしくなったから零れたものではなく、本気で殺意を宿す刃を向けられている現状を楽しんでいることに。
(今、ここ)
「―――――っっっ!!!!!!??????」
そして……その瞬間が訪れた。
一つ目の刃を躱し、もう一つの刃が振るわれるタイミングで双剣が触れられない場所に入り込んだ。
見事な体移動で距離を潰した瞬間……折りたたんだ脚から、大砲が放たれた。
「っ!? がっ!!?? うぐっっ!!!!」
(更に、先を)
「――――っっ!!!!! ひっっっ!!!!!!??????」
引っ張られていた。
前世でも、彼女はJKの時に命を落とした。
完璧な大人ではなく、この五年で特に精神年齢が成長しているわけでもない。
そんな彼女がルカナが発していた殺意に引っ張られたのは、ある意味当然のことだった。
だが……その拳が良くなかった。
正拳。
ただ突き放つ正拳ではなく、前世の師より教えられていた正拳……ただ当てるのではなく、相手の更に後ろまで届くような……突き刺す正拳。
それは試合が終わる一撃どころではなく、ルカナが終わりかねない一撃だった。
「スラン様、そこまでです」
「っっ……」
「先程の見事な蹴りで、もう勝負は付いているかと」
「……そっか」
審判である男性騎士はあっさりとスランの一撃を止め、待機していた治癒師たちが直ぐにルカナの治療を行っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……―――っ」
破壊された内臓が治った瞬間、スランと眼があったルカナ。
その表情に……眼には、もう自分のことが映っていなかった。
どこまで自分たちをバカにすれば気が済むのかと、身勝手な怒りを燃やすが……次の瞬間には否が応でもその理由を思い知らされた。
「…………これが、闘気で合ってますか?」
「……えぇ、その通りです、スラン様。それが、闘気という力です……そして一星への成長、おめでとうございます」
星……それは、武器を扱う者たちが持つ力の源と呼べるもの。
誰もが持っているものではなく、学ぶものに応じて闘気という力を扱うことが出来る星を手に入れるか……魔力という力を扱うことが出来るサークルというものを手に入れることが出来る。
階級は解りやすく、一から順に上がっていくほど強くなり……最終地点は十と言われている。
その階段に……強さを目指す者の階段に今、スランは足をかけることが出来た。
「「「「「「「「「「おめでとうございます!!!!!!!」」」」」」」」」」
「っ!!!!!!?????? あ、ありがとう、ございます?」
いきなり多くの騎士たちが跪きながら誉められ、さすがのスランも驚きの感情が表に出た。
(えっと………………なんで?)
話では、闘気という力は武器を持って戦う者たちが持つ当たり前の力であると聞いていた。
雷華からすればド〇ゴン〇ールに出てくるような気を纏うその姿を見るだけでも心が躍ったが、それでも戦士たちにとっては当然も当然の……当たり前過ぎる力。
そんな雷華の認識自体は間違っていなかった。
ただ……その闘気を会得し、星を得た年齢が問題だった。
多くの者たちは闘気を得て一星となるのは八歳ほど。
それは幼い頃から英才教育を受けてきた貴族や王族であっても……平民であっても変わらない。
勿論、それよりも早い時期に得る者もいるが、それでも情報通な騎士たちの中でも事実とされている情報では、早くても六歳。
伝説とされる話の中では生まれた時からという話もあるが、それは本当に伝説も伝説であり、証人すらいない。
だからこそ、五歳で一星に辿り着き、闘気を得たことは……それだけで偉業と言えた。
「えっと…………それじゃあ、これの使い方を教えてもらっても良いですか」
「かしこまりました」
先程までスランに指導を行っていた騎士が前に出た。
その表情は……至って平静そのものだが、解る者は解っていた。
あれは、喜びを必死に抑えているポーカーフェイスだと。
解らなくもない……と言うより、心の底から解るし、騎士たちは非常に悔しかった。
五歳で闘気を得た者に、最初に指導を行うことが出来る。
現在指導を行い始めた騎士本人も解っている……スランは教えたことを湯水のように吸収していくと。
決して、自分に特別な教育の才があるわけではないと。
それでも、最初に闘気に関して目の前の鬼才に教えらることそのものが、彼にとって一生の自慢話となる。
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「殺す、ね……本気で言ってる?」最強格闘JK、転生先では拳を開放する!! の連載版のリンクはこちらとなります!!!
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