表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮ストリート・クロニクル ~この街は、見ている人間にだけ本性を見せる~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/12

第十二話:大宮駅西口の影

その夜の大宮駅の西口は、いつもより“音が遅れて聞こえる街”だった。

人は多いのに、声だけが薄く広がっていく。

駅前の喧騒が、ビルの隙間で削られている。

トシは立ち止まって言った。

「ここ、空気変だな」

ケンが周囲を見回す。

「西口ってこんな重かったか?」

そのとき、リクのスマホが震えた。

「……出た」

「何だ」

ショウが即座に画面を覗く。

「救急要請。駅裏の雑居ビル」

ユイが一歩引く。

「また……?」

トシは短く言う。

「行く」


現場はすでに封鎖されていた。

赤色灯がビルの壁に反射し、点滅している。

だが人だかりは少ない。

“見られていない事件”の空気だった。

ケンが低く言う。

「これ、事故の顔してねぇな」

リクは周囲をスキャンするようにスマホを動かす。

「目撃者の証言が全部バラバラ」

ショウがビルを見上げる。

「この高さ、落ちる構造じゃない」

トシは地面を見ない。

裏の非常階段を見ていた。

「ここ、“通すための道”だ」


被害者は若い男だった。

すでに運ばれているが、現場は生々しいままだった。

警察の一言で空気が変わる。

「直前に、誰かと揉めていた形跡あり」

ユイが声を落とす。

「喧嘩……?」

トシは即答しない。

代わりに言った。

「喧嘩じゃない。詰められてる」


リクが映像を繋ぐ。

ショウが時系列を組む。

ケンが現場裏へ回る。

そして、映像が止まった。

「これ」

リクの声が低くなる。

ビル裏階段。

被害者と、もう一人。

フードの男。

会話は聞こえない。

だが“距離が詰まる瞬間”だけが残っている。

ショウが呟く。

「逃げ道、全部塞いでる」

ケンが歯を鳴らす。

「追い詰め方が慣れてるな」

トシは静かに言う。

「事故じゃないな」


夜。

ビル向かいの駐車場。

五人は張っていた。

ユイが小さく言う。

「こういうの、ほんとにやるんだね」

トシは答えない。

その代わり、ビルを見ていた。

“待つべきタイミング”を測っている顔だった。


数分後。

男が出てきた。

フードはそのまま。

歩き方は落ち着いている。

だが——

ケンが小さく言う。

「手、震えてる」

リクが呟く。

「まだ終わってない」

ショウが言う。

「処理に行く動きだ」

トシが一言。

「今だ」

ケンが前へ出る。

「止まれ」

男の足が止まる。

一瞬の沈黙。

その間に、周囲の音が消えたように感じる。

リクが後ろから声を投げる。

「カメラ、全部繋がってる」

ショウが冷静に言う。

「逃げても意味ない」

ユイは一歩後ろで息を止めている。

男はゆっくり顔を上げた。

「……あんたら、警察じゃないだろ」

トシは短く答える。

「違う」

「でも、見てた」


男の表情が一瞬だけ崩れた。

「見てたなら分かるだろ」

声が少し上ずる。

「止めただけだ」

ケンが一歩前に出る。

「止め方じゃねぇだろ」

男は笑った。

乾いた笑いだった。

「逃げようとしたからだよ」

「この街、逃げるやつは消える」

その言葉で空気が変わる。

リクが即座に言う。

「心理的に追い詰めてる」

ショウが低く言う。

「常習だな」


トシが一歩だけ近づく。

男は反射的に後退る。

その瞬間、トシが言う。

「どこまでやるつもりだった」

男は答えない。

代わりに目を逸らす。

トシは続ける。

「これ以上やったら、戻れないだろ」

男の喉が動く。「……もう戻ってない」

その声は、ほとんど消えかけていた。


トシが静かに言う。

「逃げても無理だ」

男は一歩後ずさる。

「……違う」

声が震える。

「俺は、殺すつもりじゃなかった」

ユイが小さく息をのむ。

トシは一歩だけ近づく。

「じゃあ、何をしたの?」

男は目を伏せる。

「止めたかった」

「言葉で止まらなかった」

沈黙。

トシは短く言った。

「だったら、今止めろ」

男が顔を上げる。

「……もう遅い」

トシは首を振る。

「遅くない」

「遅くしたら、全部終わる」

ショウが静かに言う。

「証拠も全部あります」

ユイが一歩前に出て言う。

「お願い、これ以上事件を増やさないで」

男はしばらく黙っていた。

そして、崩れるように言った。

「……警察、行く」


その場の空気が一気に抜ける。

ケンが息を吐く。

「ほっとした。」

トシが画面を閉じる。

「自分で選んだな」

ショウが言う。

「逃げ道を残したからですね」


数時間後。

警察署。

男は供述を始めた。

追い詰め方。

言い争い。

限界の先で起きた一瞬。

どれも“偶然”ではなかった。


夜明け前。

西口のビル前。

ユイが小さく言う。

「怖いね。人って」

トシは少し間を置いて言う。

「怖いのは、人じゃなくて」

「逃げ道がなくなることだ」

ケンが笑う。

「また重いこと言ってる」

リクが続ける。

「でも正しい」

ショウも小さく頷く。

ユイは駅の光を見ながら言う。

「じゃあさ、それ止めるのって大事だね」

トシは短く頷く。

「それだけでいい」


西口の夜は、また普通の顔に戻っていく。

ただ一つだけ違う。

“追い詰められた結果の結末”が、また一つ減ったということ。

トシたちはそれを知っている。

そしてまた、次の違和感がどこかで始まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ