表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は人形師の糸に繋がれている  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/62

第12話「魂に結ぶ糸」

リュシアンが古い修繕記録を持ってきた。


 修繕室の作業台に広げられた羊皮紙は端が焼け焦げて、文字の半分が煤で潰れている。解読に三日かかったという。


 「師匠の師匠が残した記録です。人形師について書かれた文書がわずかに伝わっています」


 膠と木屑の染みついた指が、煤を避けるように文字を辿る。


 「フィル家の糸は物理的な存在ではありません。糸は——魂に結びついているのです」


 「魂に」


 「人形師が糸を通す場所は関節ではなく、魂の結節点です。身体の関節に重なるように、けれど完全には一致しない位置にある」


 魂の関節。身体を操っているのではなく魂を操っている。魂が動けば身体が従う。外から糸が見えないのは、魂の内側に結ばれているからだ。


 あの日見つけた球体関節の穴——あれは魂の結節点の入口だった。身体の関節に重なっているから球体関節として感じ取れたが、本当に糸が通っているのは身体ではなく魂のほう。


 前世の知識が組み替わっていく。球体は魂の結節点。受けは周囲の魂の組織。穴は糸が通る経路。比喩ではなく構造の一致。


 「切れないのは、そういうことか」


 物理的な糸なら鋏で切れる。魂に結ばれた糸を切るには魂に触れなければならない。


 「ただ——」リュシアンが羊皮紙の別の箇所を指す。「こうも書かれています。『結ばれた糸を解くことは結んだ者にしかできない。あるいは——結ばれた者自身の魂が結び目の構造を理解したとき』」


 人形師が結んだ糸を、人形自身が魂の内側から解く。


 「魂の結節点の構造が分かれば結び目の形が見える。見えれば解き方が分かる——理論上は」


 「理論上」


 「成功例がありません。魂の結節点に直接触れるということは、自分の魂を自分で解剖するということです。その苦痛に耐えられた人形は——記録にはない」


 壁に並ぶ壊れた人形たちが、沈黙の中で微かに軋んだ。気温の変化で木が収縮する音。けれど今はそれが呻き声のように聞こえる。


 魂を解剖する。人形の解体で一番難しいのは最初の一本を外すこと。最初さえ外れれば構造が見えて次の手順が分かる。


 「あなたの修繕師の目は、魂の結節点を見ることができる?」


 「見たことはありません。でも——見ようとすれば、見えるかもしれない」


 確約はない。けれどこの膠の匂いと、壊れた人形を直すこの青年の手と、煤に汚れた先人の言葉。それだけが今、かすかに道を示している。


 壊れた人形たちに囲まれながら——私は自分の魂を解体する方法を探し始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ