トムとジェリー ― 物理法則が毎話リセットされる世界で行われる、終わらない労働ドラマ ―
トムとジェリーとは、猫とネズミが延々と追いかけっこをするアニメである。
ただし、これは“動物の生態”ではなく、労働と逃走のメタファーとして解釈するのが正しい。
トムは家の飼い猫でありながら、雇用契約の内容は「ネズミを捕まえること」。
しかし、捕まえた瞬間にアニメが終わるため、世界の構造上、彼は絶対に成功できない。
つまりトムは、成功すると職を失うため、失敗し続けることで雇用を維持する労働者である。
一方ジェリーは、トムの失敗によって、
生存が保証される存在であり、 その立場を最大限に利用して、毎話トムの尊厳を破壊していく。
トムとジェリーの世界では、物理法則は安定していない。
特にトムが追い詰められるほど、物理法則はジェリーに味方する傾向がある。
トムが壁に激突すれば壁が破壊される。
ジェリーが壁に激突すれば、壁がジェリーの形にくり抜かれる。
トムが落下すれば地面が固くなる。
ジェリーが落下すれば地面が柔らかくなる。
このように、世界はジェリーの安全を最優先に設計されている。
トムは世界からのサポートを一切受けられないため、毎話の敗北は必然である。
【トムの職務内容:敗北の演出】
トムの仕事は「ジェリーを捕まえること」
ではなく、 “捕まえられそうで捕まえられない状況を演出すること”である。
追跡は視聴者に希望を持たせるための演技であり、
トラップは自爆するための前準備である。
トムは敗北のプロフェッショナルであり、
彼の成功は敗北であるという逆転した評価体系の中で働いています。
『ピアノ・コンサート』
― 芸術と暴力が同時進行する奇跡の回 ―
この回では、トムがクラシックピアノの演奏会に出演する。
しかしピアノ内部にはジェリーが
居住しており、彼はその場を完全に“自宅扱い”している。
トムが鍵盤を叩くとジェリーが指を噛み、
ペダルを踏めば尻尾を挟まれます。
高難度パートに入るとジェリーが内部で追加の打楽器を担当。
演奏は、芸術と暴力が同時進行する儀式です。
それでもトムは演奏を続けます。
なぜなら止めた瞬間に観客の期待が崩壊し、同時に彼の雇用も危うくなるため。
この回は、「妨害されながら成果を出す」というトムの職業倫理を最も美しく描いたエピソードです。
【 代表的エピソード②:『ワルツの王様』】
― トムが優雅に踊るほど、破壊が加速する回 ―
この回では、トムが家主のレコードに合わせて優雅にワルツを踊ります。
しかしジェリーがレコードプレーヤーを勝手に操作し、テンポを変え、針を飛ばし、逆再生まで行う。
テンポが上がれば、トムのダンスが高速化し、家具が破壊される。
テンポが下がるれば、トムがスローモーションになり、物理法則が崩壊する。
逆再生ではトムの尊厳が後ろ向きに転倒する。
この回は彼が単なるネズミではなく、
音響技師としてトムの運命を編集する存在であることを示す重要な資料である。
【ジェリー:小型の破壊神】
ジェリーはネズミである。
もう一度書きます。
「ジェリーはネズミ」である。
しかし、彼の行動はネズミの範疇を超えています。
・格闘技経験者(空手、柔道)
・トムの体内(頭部)を移動
・オーケストラの指揮
・器物破損(筆者推定で40億円:家具、楽器、機材の爆破等々)
ジェリーは“弱者”として描かれるが、実際には 作中屈指の破壊神である。
【トム:敗北の曲芸師】
トムはネコである。
もう一度書きます。
トムはあくまでネコであります。
しかし、彼の体質や行動はやはりネコの範疇を超えます。
・二足方向が可能
・毛皮の着脱が可能
・筆談も可能
・物体が右耳から目を通って左耳に抜ける
・壁に空いたネズミの巣穴を指で移動させる
・楽器の演奏(バイオリン、ピアノ、トランペット、ドラム)
・スポーツ万能(ボウリング、ダーツ、ビリヤード、やり投、野球)
他にも、車に轢かれたり、体がバラバラになったとしても数フレーム後には元に戻ります。
分断された尻尾を綺麗につなげ、
その部分を握りしめ息を吹き掛けることで傷跡が残ることなく修復することも可能。
トムは“敗者”として描かれるが、実際には 世界最強のマジシャンである。
【トムとジェリーとは】
トムとジェリーは敵対しているように見えるが、 実際には共依存関係にある。
トムがいなければジェリーは登場理由を失う。
ジェリーがいなければトムは職を失う。
互いが互いの存在理由であり、互いの不幸の原因でもある。
これは恋愛ではなく、共依存ドラマを描いた作品ある。




