第六幕:知性と皮肉
ワトソンのいないホームズ。
これがどんなに恐ろしいものか、
きっと君は理解に苦しむ。
なぜかって?
それはーー
やあ、君。探偵とは何か考えたことはあるかい?彼らに目をつけられた犯罪者の気分はどうなんだろうね。
まるで神に見捨てられた海の中、サメの目が近づいてくる。罪の匂いに誘われてーー。
第五幕ではジキル博士と名探偵ホームズがついに顔を合わせた。
二人は互いを見て、只者ではないと感じているようだった。
太陽が窓の外から見えた。
慈善病院の病室のベットの一つ。
ワトソンをジキル博士にホームズは診てもらった。
「君の友だちは無事だ。骨も折れてないーーただ、もっと大きな病院で詳しく診てもらった方がいいーー」とジキル博士は微笑みながら、ホームズの肩を叩いた。
彼はそれから、ホームズに親しげに聞いた。
「コンサルタントとは言ってたが、内容はなんでもいいのかい?
君がどういう相談を受けているか知りたいーー」とジキル博士は窓の外を見た。
「ある程度は、なんでも。僕の鋭い知性が役立つならね。ただし占いや降霊術、妖精に関する相談は受け付けない。
あれは知性のない遊びだ。夢中になるヤツの気が知れない」
ホームズは吐き捨てるように言った。
「ならーー君が本当に得意なのは?」とジキル博士。
「ーー犯罪に対するもの。個人、団体でも問わないさ」
「ああ、ピッタリだ。ホームズ君。
実は最近、不穏な連中が昼夜を問わず狙ってきているーー」
ホームズは目を細めた。
「不穏な連中ですか?」
「慈善には金があると思われているようでね。悲しいことだ。私の活動で他の者たちにも、慈悲の心が芽生えたらいいのだがーーむずかしいものだよ」
「それは高尚な考えで」
ホームズは興味なさそうに、ため息をつく。
「ーー蜘蛛の糸はご存知かね?」とジキル博士はホームズを探るように聞いた。
ホームズの身体がピクッと反応し止まった。
「バカの代名詞......」とホームズはボソッとつぶやく。
「なんだって?」とジキル博士は聞き返した。
「いいや。こちらのことだよ。蜘蛛の糸かーーうん。知っている」
「彼らが私を狙っている。どうにか追い払いたいがーー」ジキル博士はホームズをジッと見つめた。その瞳の中に、別の意識が覗き込むような幻が見えた。
ジキル博士の顔の下から、
別の何かがホームズを見ていた。
「どうにか、追い払いたいがーー何かいい案はないだろうか?」と言葉が続いた。
「相談料。ーー先に頂けないかな?」
ホームズはサラッと言った。
「僕の仕事は慈善じゃないーー」
その時、ジキル博士の頬はピクッとひきつって、すぐに元に戻った。
彼は懐から小切手を出すと、サラサラとペンを走らせて、ホームズの胸に押し付けた。
「相談料だ。足りなければいいたまえーー」とジキル博士は不敵な笑みを浮かべた。
ホームズは小切手を受け取り、目を通して微笑む。
「うん、ーー悪くない」そういうと彼は話を聞いた。
可哀想なワトソン。
気絶している間に、勝手に物語が進んでいた。
彼が目を覚ました時に、「事件は解決した。ごくろうさん」なんてホームズに言われたら、彼は発狂するかも知れない。
だけど、そうはならないかもしれない。だって、この物語はホームズが考えているよりも、もっと複雑で、恐ろしいものなのだから。
(こうして、第六幕は仮面によって幕を閉じる。)
ホームズは雇われる。
お金のためじゃないけど、
ーー彼には必要だ。




