第三幕:ホームズの皮肉
素直にならない名探偵。
ワトソン博士が書けないことを、
さらりと語るのさ。
彼らの複雑な友情を君は微笑む?
悲しむかい?
やあ、君。どんな優秀な者がいても、全知全能ではないさ。
例えば手を見て、靴を見て、人を見て、その過去を探れたとしても、それが何の役に立つ? ネタバレしたマジシャンほど惨めなモノはない。そうだろ?
第二幕では、記録係ワトソンが怪紳士によって投げ飛ばされたのを見た。
あのワトソンのワガママボディを、細身で背が低い男が、投げ飛ばすなんてありえるかい?
怪紳士エドワード・ハイドの秘められた危険は、類人猿の顔だけじゃない。
そうさ......ケモノさ。
物語を進めよう。
薄暗いロンドンの夜だ。
馬車の軋む音がする。意識不明のワトソンは近くの慈善病院に運び込まれた。彼は金を持ってなさそうだったからね。
彼の額には血に染まった裂傷があった。太った身体は担架の上で重々しく揺れてた。
病室の重い木製の扉がきしみながら開いた。そこは薄汚れた空気と消毒用のカルボン酸の刺激臭が漂ってた。
さて、シャーロック・ホームズは虫の知らせというものを感じた。
帰ってきたのは朝方だった。
彼が戻ると、建物の前に頭に包帯を巻いた男がいた。
彼は血のついた制服をそのままに、ホームズに会いに来た酒場の店長だった。
「...シャーロック・ホームズさんですね。ワトソンさんのことで話がありますーー」
ホームズは、その時、彼の大事な記録係がとんでもない事件に巻き込まれたと知ったんだ。
「どこの病院だ?いや、いい!君の靴に付いている土はーーああ、くそ、早く教えてくれ!彼は無事なのかーー!」
罠かもしれないとは、彼は考えたかもしれない。でも、それ以上にワトソンを失う事を彼は恐れていた。
その日のうちにホームズは病室のワトソンに会えた。
そして、ワトソンが目覚めたのは、
ほぼ同じだった。
ワトソンは不機嫌になった。
目の前のホームズがワトソンに向かって皮肉を言ったからだ。
「おい、先生。夜中の徘徊はいただけないぜ。ーー僕が君の介護までしなきゃならないのか?」
「ーー君はボクが死んでも、きっと変わらないだろうね」とワトソンは苦しそうに呻いた。
「ーーもちろん。君が無事で良かった。投げ飛ばされたにしては、そこまで怪我は見られないね。太り過ぎも役に立った。不摂生が命を救ったぜ。
あんがい、悪くないもんだ」
「ーーこれでも、鍛えてるんだ。ここは、どこだい?ボクはどれくらいーー」
「ーー今は昼だ。」
ここでホームズは言葉をつまらせた。
皮肉よりも、正直にいう事にしたからだ。
「ーー君が無事で良かった。本当に、良かった」とホームズはワトソンの手を握った。
ワトソンは血の気を失った頬をかすかに染めた。
「だけど、人助けなんてバカなことは二度とするな。それとーー、目覚めたばかりで......すまんが、君の経験した夜のことを詳しく話したまえ。覚えていること、残らずだ。」
(こうして、第三幕は、名探偵の怒りと友情が交わる音で幕を閉じる。)
ーー霧の向こうで、二つの心臓が同じ鼓動を刻んでいた。
ついに動いた名探偵。
ワトソンのためにとはりきったーー。




