第二幕:類人猿紳士ハイドの笑い
ワトソン博士の推理により、
ハイドの居場所は見つかった。
バカやマヌケと言われても、
彼はシャーロック・ホームズの相棒さん。
やあ、君。物語が始まった。相手に認められたいって想いは時として、地獄の入り口に向かわせてしまう。
「君の身体が心配だ」と素直に言えないのは、悲劇なもんさ。
第一幕では、ホームズに侮辱されたと感じたワトソンが体調不良なのに一人で類人猿顔をした紳士を追う事を決意した。
さてワトソンは、夜のロンドンの酒場で怪紳士を待ち伏せた。
彼は過去の新聞の記事から、怪紳士の出没場所を割り出した。
そして、警察が巡回してない酒場に張り込んだんだ。
怪紳士を見つけるために、彼は何日間か繰り返そうと思ってたようだけどーー運が良かった。
怪紳士は現れた。
酒場にいた人たちは、新たに入ってきた男を警戒した。何人かは裏口へと姿を消し、残った客は目を合わさないようにした。
ワトソンは、恐る恐る、酒場の出入り口に目をやった。
そこには、黒々とした髪に、類人猿の顔、身長は低くて、身体つきは華奢だった。大きめの紳士服を着込んでダブダブな印象だ。
片手には上等なステッキをもち、何度か床を突いた。不機嫌なんだ。
「続けろ!」と怪紳士は吠えた。
まるで動物園の猿の威嚇だ。
剥き出された犬歯、歯茎が、見た者の嫌悪感を誘った。
「酒だ!」そう言って、彼は近くのカウンター席に座った。ステッキで床を突いた。ガンって音で、皆の表情がこわばった。
彼の前にグラスが置かれ、酒が注がれた。店主らしい男が言った。
「ブツはない。これを飲んだら出てってくれ」と小声で囁いた。
「ーー出ていくかは、俺が決める。
貴様は黙って酒をだせーー」彼は、グラスを掴むと、酒をグイッと飲み干した。
「ーーいつ手に入る?」彼は周りに聞かれても気にしてなかった。
周囲の視線を、少しも気にしてないんだ。
「知ってるだろ。アレは高価なんだ。毎回、渡せないーー」
その時、怪紳士は相手の男の額をステッキで引っ叩いた。
「決めるのは、俺だ。俺だけだ!
黙らないと、川に浮かべてやるぞぉ」
唸り声と共にステッキを振り上げようとした。
ワトソンは、ハッとして彼の腕を掴んだ。怪紳士の細い腕を。
だがーーすぐに後悔した。
その腕は、大木だった。びくともしない。ワトソンも力の強い方だが、その腕は普通の男の力ではなかった。
「誰だーー貴様は!」と怪紳士は大きく口を開けた。可哀想なワトソン。この大きな口をしばらく夢に見る。
猿が獲物にかぶりつこうとする口をね。
ワトソンはビビったけど、やるべき事はわかっていた。
「それ以上は、紳士としてやめたまえ。やりすぎだぞ」と言ったんだ。
「やりすぎ?ははは!やりすぎは、こうやるんだ!」と怪紳士はステッキを落とすとワトソンを軽々と持ち上げて、カウンター越しのバックバーに叩きつけた。
瓶が激しく落ちて、割れていった。
「俺の奢りだ、おせっかいめ!」と彼は大笑いをした。
意識が薄れゆく中、ワトソンは叫んだ。
「君は誰だーー!」
笑い声は止み、類人猿の顔が微笑んだ。
「俺はこの街の夜の支配者、エドワード・ハイドだ...!!」
(こうして、第二幕はハイドの名で幕を閉じる。)
よせば良いのに、正義感!
だけど紳士の彼が止めないと、
もっとひどい惨劇がーー!




