第十三幕:集合ーー
やあ、君。故郷を捨てて、外の国に行こうと夢見たことはあるかい?
何もかもが嫌になって、レールの上以外を走り抜けたい感覚だ。
だけど、レールから外れるって事は大変なんだーー。
第十二幕では、ジキルが国外逃亡を計画しているとホームズがいつも通りの推理っぷりを発揮した。
汽車に乗り込み、ドーバー港へと向かった。
さてーーワトソンはホームズの飛躍した推理の果てに何を見るのだろうね。
物語を進めよう。
ドーバー港の舞台は夜だった。
時刻は一時頃。波はなく、そこにある船は静かに浮かんでいた。空には月がなく、暗雲が立ち込めていた。
とあるフェリーのある埠頭で、黒い外衣に身を包んだ少年のような人影があった。
彼は闇の中でも、目が見えるかのように、その小型船へと荷物を軽々と置いていった。
まるで猿のようなすばしっこい動きだった。
荷物を乗せるたび、小型船は軽く揺れた。
いきなり闇夜を切り裂くように声が響いた!
「ヘンリー・ジキル!」
ホームズの所持していたブルズアイランタンの強烈な光が、振り向いたハイドの目を直撃した。
「があ!!」とケモノが唸るようにして、人影ーーハイドは後ろへのけぞった。危うく海へと落下しそうだったが、超人的な身体能力が彼を救った。
「ーー貴様は......シャーロック・ホームズ!そして、ーーあの時のデブ......」
彼は目を手で押さえつつ、
探偵と相棒を交互に眺めた。
まだ視力は戻ってないが、
ハイドはボヤけた形で判断してた。
「ワトソン!ヤツが動いたら、迷わず撃て!」とホームズはハイドから視線をそらさずに、ワトソンに命令した。だが、ワトソンはためらっていた。
なぜかって?
彼の目の前には、
類人猿ではなく、ヘンリー・ジキルの面影を残した少年の顔があったから。
「彼はーー違うのでは?」とワトソンはホームズに聞いた。
「バカ!ーーコイツは進化したんだ!」
ワトソンのヒゲが震えた。
「ハイドの進化ーー」
「当然だ。あんな顔のまま、生きていたくないだろうーー」とホームズは目を細めた。
光の先で、少年の唇が猿のように歯茎を見せて不気味に笑ったーー。
「まだ進化の途中かーー哀れな」とホームズは嫌悪感を見せた。
その時だ。
埠頭のそばにあった小型船が動き出した。ハイドを置いたまま、その場を離れていった。
ハイドは驚き、船へと顔を向けた。
乗り移れば良かったが、ワトソンが後ろから狙っていた為、動く事ができなかった。
「ホームズ、船がーー」とワトソンが焦り出した。
「ああ......ヤツがお出ましのようだ」
船が彼らを嘲笑える距離まで離れると、甲板の上に白い蜘蛛が浮かび上がった。その隣りには、赤髪の少年が黒いコートを着て、ランタンを持って立っていた。
「クモめ!!」とハイドが怒声を浴びせた!
「戻ってこい、踏み潰してやる!」と唾を吐きまくった。
その様子を小型船から見ていたクモはせせら笑った。
「名探偵もあんがい役にたつものだーー始末せずにいて良かったよーー」
甲板の蜘蛛は両手の指を重ね合わせて微笑んだ。まるであやとりをしてるようだった。
「ジキル博士......私はバカにされるのが嫌いでね。君から全てをいただくことにした。投資の、ふふふ、これは当然の利益だ......」
ワトソンは、この蜘蛛を先に撃ち殺したかったが、ホームズは何も言わなかったーー。
ここに、主役が揃ってしまった!
闇夜のドーバー港でーー。
(こうして、第十三幕は蜘蛛により幕を閉じる。)




