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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第四章 未来シナリオ 2030年8月

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悠真(4)

LYNX──未来を見通す目を持つというオオヤマネコの名を冠したクロノワークス開発の未来予測AIアプリケーション。

政府や研究機関、個人向けのスマートフォン用まで、ユーザーのニーズに合わせ、未来予測や過去の別の選択の結果の可視化など様々な機能を有する。それぞれに必要な規制をかけた状態でリリースされているが、俺が今目の前にしているのはその大元のシステムだ。


人の行動、感情、そして選択。

そのすべてを観測し、膨大なデータを掛け合わせ、未来を試算するシステム。


まず、羽澄奈美の未来シナリオを確認することにした。

「じゃあ…とりあえず羽澄奈美さんからいきますね」と美咲が言ったというだけで、特に理由があって奈美を先にしたわけではなかった。


画面には「未来予測シナリオ生成中」の文字と「KAILOS」の文字が交互に現れては明滅し回転する。


結果が出るまでの時間は長くはなかったが1分ほどだろうか。

誰も言葉を発することなく、美咲の操作するディスプレイを見つめていた。


パンデミックに関すること、それと俺たちのタイムリープの原因につながることが現れると信じて──


「……出ます」

 

美咲が小さく呟くようにそう言うと、

俺は一瞬の緊張を感じ、同時に画面が切り替わった。


─────────

[Scenario_Entity_A: Hasumi Nami]

Temporal span: 2025–2030

Narrative generation mode: Active


──2030年9月27日、午後。


奈美のそれまでの日々は変わらずに過ぎ、

迎えた誕生日。

待ち合わせの場所は、吉祥寺駅北口ひろばのとあるオブジェの前。


奈美の送信したメッセージアプリには、待ち合わせ時刻「18:00」の文字が残る。しかし既読がつかない。


待ち合わせの相手は恋人の大澤崇。

「今日こそちゃんと話そう」

──奈美の最後の送信ログ。

誠実でない大澤に別れを告げるつもりだった。


大澤は精神的に女性を支配したがる加虐的な性格だった。この特別な日に、意図的に別の女性と同じ場所で待ち合わせをしていた。


偶然のようで、必然のような錯綜。

夕立の中に渦巻く怒り、焦燥、裏切り。

最後まで不誠実な彼に言葉の刃を向けた。


少しの沈黙の後──

腕が振り上げられる。


衝突、衝撃。

時間が、一瞬止まる。


オブジェの縁石、濡れた石、落下軌道。

その全てが、ひとつの線として結ばれていた。

彼女の人生の終幕は突如降ろされた。


─────────


それが、KAIROSが示した「運命の瞬間」だった。 


「……え?」

絶句する美咲。


俺は、言葉のまま理解していいのか分からずに、ただ黙って映し出された文字を何度も読んだ。

はっきり書かれているような、抽象的なような…


「おいおいこれは…データはどうなってる?」


五十嵐社長が立ち上がって画面の一部を指さした。

「結月くん、これ押して。データに切り替えて」


「は、はい…」


「私の趣味でナラティブ表示にしてるけど、管理モードは生データだけでいいって言う技術側の意見に今初めて同意したくなったよ」


─────

[Data_Extract]

Timestamp: 2030-09-27T18:03:42+09:00

Event: Physical collision (subject_A / subject_B)

Impact vector: 42° downward trajectory

Result: Fatal cranial trauma

─────


「これは…」

美咲がつぶやいて、俺に目を配る。

その瞳が不安に揺れていた。


俺は画面をのぞき、その中の単語を小さく口に出した。


「……Fatal…cranial trauma…致命的な……頭蓋外傷…」


「君たちをここに連れて来た、そう言っても過言ではないだろう原因である奈美が、不幸な事故で亡くなる…っていうのか」


LYNXは時空を移動するのだろうか。

今、少し先の未来を見て来たとでも言うのだろうか?

LYNX─オオヤマネコが暗闇の向こうから時空を超えて目を光らせている姿が脳裏をよぎる。


「まるで、見てきたかのように……これはどのようなロジックで導かれたのですか?」


美咲と五十嵐社長が顔を見合わせた。

俺は聞くべきでないことを口にしたのだと気がつき慌てて繕った。


「あ、すみません、企業秘密だと分かってます。驚いてつい……未来から見ているようで…」


「いや、そう思うのは当然だよ。

どう導いているか?

実は、私たちこそ知りたいところでね」


美咲がその言葉に同調するように頷いていたけど、俺はというと、五十嵐社長の言葉の意味することが理解できずにいた。


「AIの答えですが…」


美咲が言葉を選ぶように俺に語りかけた。


「出力された内容の正しさは検証できますが──なぜその結論に至ったのか。それは、誰にも追えないんです」


五十嵐社長が神妙な顔で続けた。


「LYNXも無数の因果─原因と結果の連鎖を圧縮して、その中からもっとも整合性の高い未来を再構築する。

演算プロセスは統計でも論理でもなく『相関の海』そのものなんだ。

その過程は──人の理解が及ばない領域にあるんだ。」



何かで読んだことを思い出す。

ディープラーニングのブラックボックス問題。

AIが学習した成果は見えるけど、

どう学習しているかプロセスが分からない、と。

それをブラックボックス問題というとか。

それに対応する研究も進んでいるという記事だったけど、2025年に読んだ内容だ。


2030年の五十嵐社長がブラックボックス問題を口にするということは、

AIの性能の進化が人間の理解速度を越えてしまった──そういうことかもしれない。





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