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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第三章 LYNXは語る 2030年8月

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美咲(10)【STEP4:IDマスキング解除】


「さて……最後だね、いこうか」


社長が短く言った。


画面にはIDVault(識別情報復号モジュール)が立ち上がった。

私は小さくうなずき操作する。

といっても、私がやることは特になく、現れる注意事項を確認しOKする。


LYNXの中枢パネルに、KeySeal認証の表示が浮かぶ。

暗号化された個人識別情報にアクセスするための、最終承認手順だ。


『KeySeal Auth 01:管理者認証を要求』

『KeySeal Auth 02:補助承認を要求』


社長が手元の端末で承認コードを送信する。

ホログラムの空間に二重の錠が現れ、ゆっくりと回転を始めた。


「管理者認証は私の声紋でね。

LYNX、対象C・Dのマスキングを解除。ID照合プロトコルを実行」


CausalLink Analyzer:照合中……

暗号化ハッシュキー:照合成功

セキュリティモジュール:警告レベルA(倫理審査未通過)


──警告音が、低く響いた。


「これが最後の検問かな」


《セキュリティ通知:本操作は管理監査部の即時監視対象です。続行しますか?》


数秒の静寂。

私にはなにも決断できない、この先である種の禁忌に触れると分かっているのだから。

しかし社長に迷いはなかった。


「続行」


そう言いながら、キーボードに手を伸ばしエンターを迷いなく叩く。

ホログラムの空間が一瞬にして暗転し、中央に浮かんだ二つの光球が徐々に形を取っていく。


『KeySeal Lock解除』

『IDデータ復号化開始……』


社内ネットワークの警告が画面から鳴り響く。


「おっと、さすがに派手に引っかかったか」


《セキュリティ・アラート:未承認アクセスを検知》

《発信元:管理モード環境 ─ 管理者ID #001(代表取締役)》

《監査部およびシステム保全課に自動通報されました》


ホログラムの天面に、赤い警告の輪が広がった。

同時に内線が再びなり、社長はハンズフリーで応答した。


『代表、黒瀬です。管理モードにおけるKeySeal解除操作を検知しました。内容を確認中ですが、すぐ中断を──』


「中断はしない。監査ログにはすべて記録されているだろう。私は申請通り正当な操作を行っているよ」


「しかし──倫理審査を経ていません。AI法第17条の──」


「分かっている。だがLYNXが答えられない問いに、私たちは手を伸ばさなければならない。

これは不正ではなく、必要な探査だと記録しておいてくれ。」


数秒の沈黙。

一言二言、交わしてから黒瀬さんが今回も引き下がった。そして、通信が途切れる。


社長が深く息をつき、ホログラムに視線を戻した。

文字列が流れ、プロファイルがゆっくりと出現していく。



匿名ID-C:

Nami Hasumi(羽澄 奈美)

生年月日:2001年6月6日(29歳)

住所:東京都新宿区×××

職業:薬剤師

勤務先:◯◯大学病院附属薬局(調剤薬局チェーン本社 医薬情報部)

資格:薬剤師国家資格保持


匿名ID-D:

Nagi Asahina(朝日奈 凪)

生年月日:2000年11月22日(29歳)

住所:東京都中野区×××

職業:防災・減災テクノロジー開発

勤務先:アストレイ・システムズ(株) 技術統括部



LYNXのシステムは倫理フィルタを越え、明確な個を表示した。


いくつかの写真画像もそれぞれ表示されていたけど、私は画像を見るまでもなく思わず立ち上がった。


うちの会社に最近立ち寄った人……そうそう同じ人はいないだろう名前……

間違いない。


「…あ…朝日奈さん…!アストレイ・システムズの担当者です!」


私は声が震えるのを抑えられなかった。


「そうか……間違いなく1人は存在しているわけだ。──これが2人の正体だ」


私はLYNXそのものを開発したわけではない。

これを社長と今は監査部にいる初期メンバーが作り上げた。この巨大システムを。国家の監視AIとしても今では機能している──LYNXの情報網。


「なぜこの二人なんでしょう。LYNXが見た未来は…分岐の理由は……?」


私は静かに画面を見つめた。

表示された二人の情報が、まるで遠い未来の欠片のように、空中に漂っていた。


その下には、システムが出した補足メッセージが淡く瞬いている。


《解析補足:接触イベント後、統計外因子に属する“第三変数”の生成を検出。

 識別不能。解析継続不可。》


……第三変数?


ホログラムに微細な乱流が走り、まるで何かが書かれかけて、そして消えたように見えた。


社長が低く呟いた。

「……LYNXは、何を知っている?」

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