表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第三章 LYNXは語る 2030年8月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/47

2030/8/19〜 美咲(7)【STEP1: 再現】

【STEP1: 再現】


『管理モード使用を確認しました。

以降の全データ処理はモニタリング対象です。』


管理モードを立ち上げると、画面中央に白い文字が浮かんだ。

社長の指示で「OK」を押すと表示は静かに消え、右上にLYNX(山猫)のシルエットが明滅し始める。

その下に小さく、


監査モード:有効

(SECURITY NODE #A17 接続中)


の文字。見られているという緊張感が、いやでも全身を包んだ。


「さて──先ほどの流れに沿って進めよう。

まずはSTEP 1:再現だ。メニューに“ChronoMap”とあるだろう?それを開いてみて」


「ChronoMap……“時間の地図”、ですね」


起動すると、中央に立体的な球体モデルが浮かんだ。地球のようにも見えるが、よく見ると無数の点の集合で構成されている。


「膨大なデータノードの集合体だ。LYNXに蓄積された社会全体の行動ログ、位置情報、通信履歴、ニュース、行政データ──まさにLYNXの核そのもの。日にち・時間・場所……我々はこれを“時空位置変数”と呼んでいる。指定すれば、その位置の情報を取り出せる」


社長の声に従い、私は入力を進めた。


「2025年8月15日 9:30〜9:40、渋谷スクランブル交差点。──入力しました。この“抽出”を押せばいいですか?」


「うん、それでいい」


球体がゆっくり回り始めた瞬間、赤い警告アイコンが点滅する。


『許可コードを確認……』


「こうやって頻繁にセキュリティ側のチェックが入るけど、心配しないでいいよ」


『社長裁可付き 進行可』


アラートが消えると同時に、ホログラム上にスクランブル交差点のリアルな空間が広がった。上空からの俯瞰。そこに無数の人型シルエットがゆっくりと立ち現れる。


「個人情報はマスキングされているが──あの時、確かにそこにいた人たちだ。まずは君と一ノ瀬くんを特定しよう。名前をヘボン式で、携帯番号、性別……わかる範囲で入力してくれ」


自分の情報を入れると、ひとりの頭上に赤い矢印が現れる。続けて一ノ瀬の情報を入れると、青い矢印が浮かんだ。


「よし、再構成完了。君が指定した瞬間の“世界状態”を再現している。歩くだけで無数の痕跡を残す──その痕跡を束ねれば録画のように正確に再現できる」


「ここからぶつかった相手を空間内で特定するんですね?」


無音のホログラム。群衆は出発を待つように静止している。そのどこかに、あの二人がいる。


「標準設定では接触イベントの抽出は手動だ。だが自動でマークさせた方が早い。距離と時差を変数に取って判定する方式でいこう」


社長が端末の操作メニューを呼び、可視化層の補助スクリプトを表示する。流れるようなコードの行間に、私は一行を追加した。


if (Distance(a, b) < 0.4 && TimeDiff(a, b) < 0.2) Mark(a,b,"contact");


「監査ノード、検知範囲ギリギリですね」


社長が軽く笑う。「いいね。解析系の補助スクリプト扱いにすれば通る。監査側は“視覚化補助”までは追わない」


Enterキーを押すと、ホログラム上の群衆が微かに揺らぎ、次の瞬間、頭上に赤と青のマーカーがある二人はそれぞれ接触、交差点の中央近くで──黄色の光が二つ、ひときわ強く瞬いた。


社長が画面に身を乗り出す。

「ここだね」


「はい……検出完了です」

声が上ずるのを感じた。


社長は静かに言った。

「LYNXは彼らが何者かを知っている──だがマスキングされていて私達にはまだ何者か見えない。これからそのマスクを外して、彼らの正体を紐解いていこう」


ChronoMapを終了すると、画面には小さく表示された。


『SESSION CLOSED.

監査ログがセキュリティ部に転送されました。』


その文字を確認して、私は細く長く、ゆっくりと、息を吐きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ