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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第三章 LYNXは語る 2030年8月

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2030/8/19〜 美咲(5)

廊下に自分の歩く足音だけが響く。

社長室前室に一人残る山根さんに声をかけて社長室へ。


「来たね。──早速はじめようか。こんな遅い時間にしか都合が付かず申し訳なかったね」


私は深く頭を下げた。

「こちらこそ。本当にありがとうございます、社長」


セキュリティ部から承認メールが届いたのは、申請を出した二日後、水曜日の午後だった。


───

【承認通知】

LYNX Authority Mode使用申請

(承認番号:CW-SB-20300820-17)


結月 美咲 様


提出頂いた申請内容について、セキュリティ統括部門および代表取締役社長 五十嵐 光 の承認を経て、下記の条件にて実施を許可します。


使用可能期間: 本日より三日間(8月21日~23日)

利用環境: 社内ネットワーク限定(自宅端末不可)

実行条件: セキュリティ部監視下における操作に限る

補足: 本件は 社長立会いのもと、管理モード起動を行うこと。


※注意:使用中は全操作ログが記録されます。

※セキュリティ部担当:第2システム管理課/統括責任者 黒瀬

───


「山根くんにも伝言頼んだけど、一ノ瀬くんも呼んでも良かったのに」


「ちょうどお昼にセレスティアの方にお会いしたんですが、一ノ瀬さん徹夜続きで今夜も忙しいと聞いたので……」


昼休み、先輩で広報の麗子さんと総務の友希さんに「聞きたいことがある」とホテルランチに連れ出された。

どうせ一ノ瀬さんのことだろうと思ったら案の定──

日曜日に電車で一緒にいるところを見られていたらしく、質問攻めにあった。

そこで接待ランチ中の三神さんと遭遇したのだった。


「今週から新しい案件が始まってね。一ノ瀬は今日くらいまで徹夜続きで忙しくしてる。さっき差し入れに行ったら、机に突っ伏して寝てたんだけど、寝言言ってたよ。『美咲、まだ食べるつもり……?』って」


「そこはウソですよね?」


「いやいや、本当だよ?」


なんて立ち話をした後に会社に戻るとセキュリティ部から承認のメールが来ていて、内容を確認していると内線で山根さんから連絡が入った。


「社長から伝言です、本日21時に社長室で作業をしたいということでしたがご都合はどうですか?」と。


よろしくお願いしますと返答する。

山根さんからは更に一言、

「セレスティア社の一ノ瀬さんも立ち会っても構わないと社長が仰っていますよ」と。


今週忙しくなることは一ノ瀬さんから聞いていた。それが徹夜続きだとは──

こちらに来る時間はありませんか、なんて伝えたら彼のことだ、時間を作ろうときっと無理をさせてしまう。

断るにしてもすごく気を遣わせてしまう。

そう思って連絡はしなかった。


社長は、どこか寂しそうな微笑みを浮かべた。

「そうだな。君はそうやって一ノ瀬くんを気遣う人だったな……」


「社長……?」


「男ってのは勝手なもんでね。どんなことでも話してほしいと思うもんさ。一ノ瀬君は特に──

いや、すまない。結月くんに今言うことじゃないな」


社長は私を通して過去の何かを思い出しているのだと思った。

一ノ瀬さんのことも、LYNXの広告のクリエイターというだけでなく、個人的に知っている──?

私と一ノ瀬さんの間にあったことを噂で聞いた程度じゃなく知っているのかもしれない。

『一ノ瀬君は特に』

社長は一ノ瀬さんをよく知っているのかもしれない。


社長は今何を言おうとしたんですか?

そう口に出そうとしたら社長は私の肩に手を置いた。


「そんな顔しないでくれ。私が知っていることで君が知りたいことを隠すつもりはない。ただ、今はこれが先だよ。時間は限られているからね

──さあ、はじめよう」


「……はい。よろしくお願いします」


管理モードは今夜を含めて三日間だけ。

しかも社長立ち会いの制限付き。

使える時間は、ほんのわずかしかない。

そうだ、優先順位を間違えてはいけない。


社長室の照明がわずかに落とされ、モニターの光だけが静かに浮かび上がる。

私は端末にログインし、社員番号とパスワードを入力した。


「これから管理モードを立ち上げると、セキュリティ部のモニタリングが始まる。あちらも申請との照合をしながら複数人でロックを解除する。

何かと照合が入り作業が止まるだろうが理解してほしい」


「はい、わかりました」


キーボードを叩く音だけが静かな部屋に響く。

LYNX──その名の通り、冷たく光るLYNX─オオヤマネコ─の瞳のようなロゴが、画面にゆっくりと浮かび上がった。


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