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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第三章 LYNXは語る 2030年8月

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2030/8/19〜 LYNX管理モード 美咲(1)

〈side 美咲〉


社長室の前室。

柔らかな間接照明の下、デスクに座る秘書の山根さんが顔を上げた。


「やあ結月さん、久しぶり」


「お久しぶりです、山根さん。お変わりないですか?」


「まあね。こっちは相変わらず、あの通りの人だからさ」


「毎日社長のフォローお疲れ様です。月曜日の朝から無理言ってすみませんでした」


口調は穏やか、目尻には笑み。

ハンサムで優しい雰囲気をまとう山根さんだが、社長とは学生時代からのコンビで、会社の屋台骨は社長ではなく秘書の山根さんだということは周知の事実。


「いやいや、朝イチでアポとってくれて良かったよ、ここ逃すと週末しか時間なかったから。1時間後に来客があるから、申し訳ないけど」


「充分です、ありがとうございます」


「来たら通すよう言われているからどうぞ、行って大丈夫だからね」


山根さんに行ってきますと頭を下げて、社長室のドアの前に立つ。

ノックの音が小さく響くと、「入って入ってー」といつもの柔らかな声。

ドアを開けると明るい部屋の中、渋谷の街を背負うように社長が立っていた。


この渋谷で小さな会社を立ち上げ、当時は夢物語だと言われたことを本気で成し遂げた人に相応しい背景だと思った。


「社長、急なお願いでしたのにお時間を頂きありがとうございます」


私が頭を下げると、手をひらひらさせて社長が言った。


「堅い挨拶はいいよ、さあ座って。結月君、顔を見るのは久しぶりだな。元気だったかな?」


促されて社長と向かい合うように座った。

タイムリープしてきましたとは一発目から言うわけにいかない。


「はい、おかげさまで何とか…今日はアストレイ・システムズ社に納品するシステムの動作に不具合があって今修正作業に追われています。明日納品なのでバタついてますが……」


「あぁ、報告は受けてるけど君なら大丈夫だろう?」


「はい。ちょっと予想外の不具合でしたが原因は分かったので今日中には。今チームが対応してくれています」


「そうか、君も忙しいな。――それで、今日はどうしたんだい?」 


さあ、ここから本題だ。


「はい、実はLYNXの管理モードの使用を申請したいと思っています。ただ、申請理由が不適切と判断されるのではと思い、社長に相談に来た次第です」


「他ならぬ君の申し出なら聞かないわけにいかないね。管理モードを使いたい理由は?」


小さく呼吸を整えた。

頭の中で何度も反復した理由をゆっくりと言葉にする。


「私は個人的に日々の未来予測値を保存しています。そのデータのある日付に不可解な数値の変動がありました」


社長が二度大きく頷いた。


「未来予測値は社でもモニタリングしていて関係省庁とも連携しているのは知ってるね?

特に不審な変動があった数値はデータ解析の専門部署が即時に検証をしているよ?」

 

解析のスペシャリストがリアルタイムでモニタリングしている。社長は穏やかな口調のまま、君の専門分野ではないはずだと釘を刺しているのだ。


「もちろん承知しています。

具体的な日にちは2025年8月15日です。前日までとこれ以降で何項目かにあり得ないほどの振れ幅で変動があり、これらの項目は総合すると30年後のパンデミックの数値と考えられています。この日にちを境にパンデミック収束の期間が大幅に変わっているんです」


社長はテーブルに置いていたタブレットを操作した。おそらくその日付のデータを呼び出しているのだろう。

しばらく画面を見てから私を見た。


「五年前のこの日にちに目を留めた理由は?なぜその時でなく今なんだい?」


その日に気がついたんです。

でも、2025年8月15日は私にとって2030年8月15日になってしまったんです。


「データ整理をしていて…たまたまとしか言えませんが……この変動に関してモニタリング室の対応履歴を見ました。

この数値の変動は不問と判断したようです。逆になぜ不問と判断したのか疑問です」


専門外のくせに何を言い出すんだと思ってるだろうか。叱責も覚悟だった。


「そうだね、数年単位で要経過観察と条件を付けた上で誤差と判断したと報告書にはあるな。

この日の前後でこの数値に連動する出来事がなく、要は理由がないから対応のしようがないと判断したのだろうね」


私はテーブルの下でぎゅっと手を握った。


「私は……この変動を見過ごせませんでした。あるシミュレーションで男女2人が関係していると判断しました。必要ならシミュレーションデータを提出します。管理モードを使用し二人の正体を突き止めて厚労省の未来予測モニタリング局に報告するべきだと考えます」


社長は腕を組んで目を閉じて頷いている。


「君は自分でも分かってるよね?

なんのシミュレーションをしたのか、いや、なぜそれをしたのか、だな。なぜ。それを伏せたままで私の承認を得られるはずないよね?」


「……はい」

私は小さく返事をした。

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