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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第三章 LYNXは語る 2030年8月

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2030/8/19〜 悠真(2)

火曜のキックオフ会議が無事終わり、それを待って社内公示が出たのが水曜だった。

自分のチームにはその前にプロジェクトについては説明していたが、正式なブリーフィングはメンバー選定、映像コンセプトの作成の時間がほしいため、一日時間をもらっている。


そのチームのブリーフィングに向けてプロト映像を作っている深夜のオフィス。

フロアはすでに暗く、俺のブースだけが灯りを灯していた。


これでいいのか、大丈夫か、かすかに不安が過ぎる瞬間があるのは、やはり俺自身が関わることがかなり異例だからなのか、本当は2025年を生きているはずだからなのか。


周りを納得させなければ、とは思わない。

評価されることを狙った瞬間からいいものは作れない。

リコ・キリュウの伝統美の100年と、これからの100年をただ考えるだけ──


月曜日の調整会議に向かいながら、三神にタブレットを渡して下書きと簡単な映像を見せた時に、あいつは画面を見て何度も頷いた。


「一ノ瀬、僕はね、リコ・キリュウ側が指名しなくても君を指名しようと思ってた。そう思った僕は間違ってなかった」


タブレットを俺に渡しながら三神は言った。


「ありがとう、さすがだ」


三神の信頼を思い出して、やろうとしている方向性は間違っていないと奮い立つ。

袖をまくり、再びモニターに向かった。


複数の画面には、編集ソフトのタイムラインと、資料映像、色のトーンサンプル。

手元には、リコ・キリュウのドレスショーの過去アーカイブ、職人の手元の映像、紙のスケッチ。


――光、布、時間

その三つが頭の中で何度も組み替わっては消える。


椅子を回し、ガラス越しに外を見る。

夜の渋谷。

無数の光が散っている。車のテールランプ、人のスマホの灯り、ビルのサイン。


深夜2時


まだ2、3日しか経っていないのに、ずいぶん長く会っていない気がした。

別れ際に美咲と交わした言葉を思い出す。


「明日から忙しくなるから電話にはすぐ出れないかもだけど、何かあったらすぐ連絡してほしい」


そう伝えると、


「じゃあメッセージ送りますね。忙しくてもちゃんと寝て下さいね」


なんて言うから、自分も睡眠を疎かにするくせに、と笑ってあの日は別れた。

まだ一緒にいたいと後ろ髪が引かれても、キリはないし、それを言える理由もないのだから。


「何かあれば、なんて言わなきゃ良かったかな」

つい口に出てしまった。

本当に何かあった時しか彼女は連絡をくれないだろうから。


割と猪突猛進なタイプだから動き出しているだろう。LYNXの心臓部といえる管理モードを使って調べることに。

無茶をしていなければいい。

この世界で生きていくなら今の立場をなくすわけにいかないのだから。


ポケットからスマホを取り出して、しばらく親指で画面をなぞる。

電話しようか――

いや、こんな時間だし。


ため息をついてスマホを戻そうとした瞬間、

手の中が震えた。


画面に、結月さんの名前。メッセージだ。


「徹夜で作業してると聞きました。心配です。

ごはんしっかり食べて体に気をつけて下さいね。」


自分だって食事を抜いて仕事するタイプのくせに、

思わず笑ってしまう。

画面を見つめたまま、唇の端が少し上がる。

誰から聞いたのやら。


「ありがとう。俺はメシは抜かないから大丈夫だよ。誰かさんと違ってね。」


送信ボタンを押して、スマホを置く。短い時間でも俺を思い出してくれたことが嬉しかった。


「……頑張ろう」


誰に言うでもなく、声に出してみる。

今がいつだろうと、やるべきことをやるだけだ。


再びモニターに向かった時だった。

再び美咲からのメッセージ。


「あの二人が何者か分かりました。

明日以降なぜあの二人が原因なのか探りますね。ちゃんと正攻法で攻めてますので、心配しないで下さいね。おやすみなさい」 


おいおい…

思わず立ち上がってしまった。

しっかりと何かあったんじゃないか。

俺のことなんて本当に関心がないんだな……そう思ってスマホの画面を見ながら笑ってしまう。

それを寂しいとは思わない。画面に向かうと寝るのも食事も忘れる彼女の様子を思い出して、ただそれさえも好ましく思ってしまうだけだ。


「全く、おやすみなさいじゃないだろ…」

電話してやろうと思ったけど、思いとどまった。LYNXに関することを電波を使って話すのをとても警戒しているのを知っているから。


代わりにメッセージを返した。

「会社に泊まり込むのは今夜までです。明日以降は夜は空くので美咲の都合がいい時に会いましょう」


全く、とんでもない人だな…

眠気も小さな不安もすっかり飛んで、代わりに二人の正体が気になり過ぎながら、俺はまた画面に向かった。


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