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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第二章 近づく 2030年8月

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〈Another side〉


〈Another side〉


「悟さん何してたんすか?!今さっきまで悠真さんいたんですよ?!女連れで!」


あるブースに立ち寄ると、イベントTシャツの若いうちの社員が鼻息荒く報告してきた。


「ほお、一ノ瀬はどんな感じだった?」


素知らぬフリをしてみる。


「ちょうど忙しくて手しか振れなかったんですけど…」

「すごいデレデレでした。目尻が下がりっぱなしで」

「俺たちの一ノ瀬悠真ではなかったですね」


若い奴らが神妙な顔でその様子を振り返っていた。さぞ衝撃だったのだろう。

一ノ瀬は結月さんしか見えてないから視野は狭そうだし、どんな顔を見られたかなんて考えもしてないだろう。


「ふむ、さぞだらしない顔してたんだろうな。目に浮かぶ」


結月さんにまとわりつく一ノ瀬はでかい子犬だ。


「何年か前に別の彼女ですかね、一緒に歩いているの見たことありますけど、あんな感じじゃなかったな…」


同感。僕も見たことあるけど、無関心って感じなんだよな。と声には出さずに胸の中に留める。


「悟さんは悠真さんの彼女さん知ってるんですか?何者ですか、めっちゃ可愛かったですけど。」


「知ってるよ、悟さんと美咲さんと親しく呼び合うくらいにはね。3、4年前に一緒に仕事したから。彼女、只者じゃないよ」


「美咲さん…あ、さっきそうかなと思ったんですよ。もしかしてLYNXの開発者の女性ですか?」


と言ったのは中堅のやつ。


「おー、君は入社してたか。それそれ、その彼女よ」


「一ノ瀬さんがまさか振られたって当時有名でしたよね。おれ一年目だったんで、噂を遠くで聞いた感じですけど」


「マジすか、悠真さんがふられるなんて世界線あるんですか」


あるんだよなあ…

僕もこのあたり結月さんとじっくり話してみたいけど、だって絶対彼女だって一ノ瀬を憎からず想っていたんだから。

まあ、僕が彼女を食事やお茶に誘うなど子犬の番犬が許さないだろうけど。


「なんすか、LYNX開発者って。まさかさっきの可愛い女性がバリバリのプログラマーなんて話しじゃないですよね?」


「人を見た目で判断し過ぎな。まあ、分かるけどさ。そのまさかなんだ。しかも、人の心の弱さみたいなもんをコードにすることに成功した凄腕のAIエンジニアってわけ」


クロノワークスの未来予測AIはAIに革新をもたらしたと言われているけど、彼女の開発コードはさらに革命をもたらしたと言われている。見た目からは想像もできないくらいとんでもない人なわけ。

そう付け加えて彼女を端的に説明した。


全員呆気に取られて、それから頷いた。

「なるほど…」と。


一ノ瀬がベタ惚れするってそういう人なんだと。みんな納得するものがあったのだろう。


「色々あったんでしょうけど、今あんな仲良さそうで良かったっすね」  


僕は素直に頷いた。


「まあね。一ノ瀬は当時もうボロボロで。昼メシ食いながら涙ぐみ、酒を飲んでは泣き、眠れば寝言で名前を呼ぶ。

でも仕事だけはきっちりやってたけどな。まあ、見てらんなかったよ、しばらくは」


「その時期の仕事って…」


「ORCA TECH」


「あー」

知ってるやつは思い出して、これまた失恋した一ノ瀬を重ねて納得。


ORCA TECH は外資テック企業で世界中の誰もが一人一つは何かしらのORCA TECH製品を使っていると言っても過言ではない。


あの時はスマートグラスの日本版CMを一ノ瀬が手がけた。


「一ノ瀬さんにしては珍しいテイストでしたよね」


「そうだな。あのボロボロの時期に作った映像だけど、僕は一ノ瀬の最高傑作だと思っているけどね」


LYNX搭載のスマートグラスのCMだった。

一ノ瀬にしてはめずらしい構成で、磨かれた感性と、シンプルなのに鋭いカメラワーク。

さすがだと思った。

だが何より、あの映像には“人間の感情”が透過していた。


本当にいい映像で、悔しくて、心を掴まれた。

一ノ瀬という天才への羨望と嫉妬が胸を去来したのを、今でも覚えている。

僕は僕の分野で、これほどのことができるのか。

そう思わせてくれた映像だった。


「俺、覚えてる、めっちゃ好きなCMでしたから。ORCA TECHのスマートグラスのCMでしたよね」


「スマートグラス?あれ悠真さんの映像だったんだ」


「お前知らずにうちに入ったのか?信じられん」


「悠真さんのだとは知らなかったけど、俺あれはっきり覚えてます…


映像は朝のスクランブル交差点。

すれ違う多くの人々。

カメラは一人の男性を追い、その視線の先には一瞬だけ目が合った女性。


ここのカメラワークがめちゃくちゃやばくて、かっこよかったんですよね…」


別な奴が語り継ぐ。


「ここでナレーションが入る。

──もし、この出会いに気づいていたら?


映像は人波に消える女性。

画面には“LYNX prediction overlay” の文字が浮かんで透ける――それから別の道で再び二人が出会う映像が、淡く重なる。


ここ、男性が見てるスマートグラスに写る未来予測の映像なんだけど、めっちゃいいんだよ…」


「再びナレーション、

──未来は無数にある。けれど、その一つを選ぶのは、あなた自身だ。


だっけ?だよな?


映像は男性の目の前に浮かぶデバイスのUI。

未来予測はフェードアウトして、ただ彼の手に残るスマートグラス」


「男性は未来の出会いを待つか、不確かな未来を待たずに今追いかけるか。

でもどちらを選んだのか見てる側には分からない。セリフがないけど僅かな映像でその迷いが分かるんすよね…」


「最後にナレーションと画面にロゴが入る。

ORCA TECH × LYNX

 ――可能性を、あなたの手に。


悟さんが傑作っていうのわかります」


「これORCA TECHの日本版だったけど海外でも使われたんですよね。受賞歴ないですけど、なんでですか」


「エントリーしなかったからな、それだけのことさ。一ノ瀬は自分らしくないものを作ったって後悔さえしてるから」


一ノ瀬自身は結月さんに振られた時からLYNXを使っていない。

悪い未来を変えられなかったし、そんな未来なら知りたくないし、淡い期待を持つのも嫌だし、二度とLYNXは使わないと言った。


誰かがしみじみと言った。


「悠真さんはまた出会う未来を待ってたんですかね。振られた時は想像もしなかったでしょう、ペアルックでスイーツ食いに来る未来があるなんて。」


女に執着しない。

甘いものが嫌い。

そんな一ノ瀬を知ってれば今日の一ノ瀬に会ったやつは間違いなく仰天する。


「ペアルック、これかな?」


僕がスマホの画面を奴らに見せる。


「そうそうこれ!この彼女!なんだ悟さん、会ったんすね?」


「君らからメッセージもらって探し回ったんだ。珍しく走り回ってしまったよ、この僕が」


スマホは奴らの手にわたり、スクロールしてもしても出てくる二人の写真をきゃーきゃー言いながらみんな見ている。


「どんだけ撮ったんすか、隠し撮りしすぎですよ…」


「ん?いい顔してるだろ、二人とも」


またこんな二人を目にする日が来るとは思ってなかった。

一ノ瀬のこんな柔らかい表情は何年振りか。

揶揄ってやろうと思う気持ちはあったけど、それだけじゃない。


「めちゃくそ絵になる二人ですね」


「まあみんな、一ノ瀬のことは今日ここにいたメンバーだけの秘密にしといてくれ。まだ付き合ってないらしいからさ」


まあ、社内報には載せるけどな。


一ノ瀬、君は今はどうなんだ?

悪い未来を恐れながら彼女の隣にいるのなら──


僕がしてやれることなんて何もない。

ただ、君らしくないじゃないかと背中を押す以外には。

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