表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第二章 近づく 2030年8月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/47

2030/8/17 悠真 (5)


その時は、結月さんの表情が気になりつつも、それ以上踏み込むこともできずに俺は頷くしかできなかったけれど。


30分くらい歩いてちょうど家に着く頃には日が変わっていた。


すると着信があり、見ると──結月さん?


マンションの植え込みのブロックに座りながら電話に出た。


「一ノ瀬さん、すみません、もう…寝てましたか?」


「いや、歩いて帰ったから、今着いたとこだよ。どうした、何かあった?」


明日を待たずに電話をしてくるというのが気になる。


「さっき……言えなかったんですけど」


うん、とだけ返事をして続きを待った。


「BとDが何者か、多分分かると思います」


「え…?!」


外で話してるにしては、結構大きい声を上げてしまった。その俺の反応が不信感から出たように伝わってしまったのか、

「すぐ言わなくてごめんなさい」

と、彼女は小さく謝罪の言葉を口にした。


「いや、攻めるつもりなんてないよ。言えなかった、ってことは何か迷いがあった、ってことだよね?」


はい、と結月さんが答えた。

少しの沈黙。それから結月さんは話し出した。


「はい、今も迷ってます。でも…術があることを一ノ瀬さんに言わないのはフェアじゃない気がして、電話してしまいました」



「迷ったってことは、君の研究者としての矜持が許さないってことだと思うけど、違うかな」


危ない橋を渡ろうとしてるなら止めなくては──


「はい……、でもさっき、一ノ瀬さんが、少しの可能性も手放すべきじゃないって言ったのが胸にずしっと来ました。

私には知る術があるのに知らんぷりするのか、って…」


俺はスマホを握ったまま天を仰いだ。

今こそタイムリープできないもんかと心底思った。

何気なく言った言葉が彼女を迷わせることになるとは。


「俺の言葉が君を惑わせたなら謝るよ、でも君の矜持を秤にかける必要ない、そんな意味で言ったんじゃないよ」


「分かってますよ、でも…、むしろやらなきゃいけないって腹が決まったというか」


何をしようとしているのか分からないけど、ますます良くないんじゃないか?


「今から行くよ、少し話そう」


「いえ!せっかく帰宅したんですから……。一ノ瀬さん、ありがとうございます。大丈夫です、今日何かしたりしませんので」

 

彼女は、何でもできてしまう人だ。

普通の人が持っていないものを持っている。

それが魅力でもあり、不安にもさせられる。


「無謀なことはしないでほしいと思はうよ」


電話は顔が見えない分、ニュアンスが伝わりづらい。また攻めているように受け取られないといい。


「でも──もし、その術を使うことで君が何かを背負うなら俺も背負うし、咎められるなら俺も一緒に罰を受けるよ」


この不可思議な状況を共有している関係は、恋人や友達という名前はなくても特別なものなんじゃないか。

彼女のしようとしていることが倫理的にアウトなことでも、その切実さは俺だけは理解できるのだから。


「だめですね私……、一ノ瀬さんに迷惑が及ぶかもしれないことを考えてませんでした」


結月さんの声色が柔らかくなった気がした。

やらなきゃという責任感や不安から少し解放されたのかもしれない。


「月曜か火曜まで時間を下さい。正規のルートで正面突破します」


そう言った声は空元気だとしても完全に明るさを取り戻していた。

正規のルートで、か。

やっぱり何か無謀なことをしようと考えていたのだろうけど、正規のということは会社に申請をするとか手順を踏むことにしたのだろう。


安心した俺は、つい、迷いもせず、誘ってしまった。


「結月さん、ちょっと気晴らししようよ。5年後の流行りのスイーツでも巡るとか」  


「わあ!いいですね、スイーツ巡り行きたいです!」


行き先は明日会った決めようということになり、電話を切った。


電話で話している間、結月さんは何をしようとしているのか核心を語らなかった。万が一にも盗聴されている場合を警戒したのかもしれない。

タイムリープした日、ほぼ初対面だった俺を、信用できる人間かどうか、値踏みする前に家に招き入れた。それほど外で会話することを警戒していた。


LYNXが社会インフラとして受け入れられている現状は、さまざまな情報網に繋がっていることを意味する。国家機密とまではいかなくても、結月さんが使おうとしている“術”はその領域に近いのかもしれない——だからこそ、肝心なことを口に出さずにいたのだろう。


それにしても、咄嗟に出たとはいえ、スイーツで釣るなんてなかなか卑怯だな……。

コンビニでアイスを買うことはあっても流行りのものなんて仕事で関わる以外口にしようと思ったこともないのに。


前にタピオカが流行った時、付き合っていた子が、2時間待ちという大行列に並んでも買いたいと言い張るから馬鹿らしくて喧嘩になり別れたことを思い出す。

でも今ならわかる。あの子はタピオカが欲しいだけじゃなくて彼氏と共有したかったんだ。並んで待つ時間も、期待感とか全部を。


今なら分かる。

だって俺、明日は結月さんが並んでも買いたいと言うなら3時間でも並ぶと思うから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ