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2030→2024 渋谷スクランブル交差点で二人が出会うまでの物語  作者: Haruno
第二章 近づく 2030年8月

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2030/8/15 美咲(3)

一ノ瀬さんは腕を組んで言った。


「俺はタイムリープの原因も理由も皆目見当が付かない。ただ、交差点の途中で人にぶつかった後に目眩がして。すぐ治ったんだけど、目眩が治ったら景色が変わってた」


「私も目眩がして、すぐ治ったんですが広告や自分の服が変わっていたので……あの瞬間、ですよね」


「不確かなことばっかりだと話が進まないから、タイムリープの瞬間を眩暈がした時に固定しよう」

一ノ瀬さんはそう言ってから、PC画面に目を向けた。

「このデータは?」


私は毎日家に帰ると日が変わる前に LYNX の未来予測データを保存していて、この5年間も習慣は変わらずに日々のデータがクラウドにちゃんと保存されていた。

私が確かにこの5年を生きて存在していた証のように。


モニターには2025年8月14日と翌15日のデータを並べる。

──タイムリープする前日と当日。

体感では昨日と今日なのに、記録上はもう五年前のものだ。


「これは毎日のLYNXの未来予測のデータです。今日、といっても日付は5年前ですけど、2025年8月15日とその前日のデータなんですが…

私たちがタイムリープしたことに関係あるのかわかりませんが、無関係とは思えないんです」


一ノ瀬さんは画面に身を乗り出した。

「これは……経済、産業、環境、人口動態、文化トレンド……多岐にわたってるな。英語だから分からない項目もあるけど、要するに『足し算の答え』ってことで合ってる?」


一ノ瀬さんは「分からない単語もある」と言ったけれど、読み上げる発音は驚くほど流暢。

私はその中から、一つの数値をグラフ化して示した。


「──これは各国政府も把握していますが、2060年代にウイルス性のパンデミックが世界を襲う予測があります。ウィルスそのものが何か分からないからどこまで対策できるか分からないですけど、時間的なアドバンテージもありLYNXは収束まで3年以内と予測していました。でも15日のデータになると…」


14日までのグラフは確かに3年以内、そう示している。

だが、15日──タイムリープした日を境に、曲線は鋭く跳ね上がっていた。


「over 10 years……収束まで10年以上、か」


一ノ瀬さんが声に出すのを聞いて背筋が冷えるような気がした。

本来、あり得ない変動だった。首相交代や株価暴落など、どんな政治経済の揺らぎでもこれは説明できない急変だ。


「一日だけの誤作動みたいなものかと思いましたがこの日以降、今日までずっと同じです。これはあり得ない変動です。」


「変動するなら必ず理由がある。ってわけだ」


一ノ瀬さんがスマホをいじり、

「この日は世界的にも未来に関わるようなニュースはなしか」と言った。


「はい、これはなんというか…

世界そのものの進み方が、別の道に切り替わったとしか考えられない変化です」


私は自分で言ってぞわっとした。世界線が変わったのだと私は今言ったのだ。


「ニュースにならないけど、何か重要なことがあった、だから数値が変わった、ってことだよね」


そう言ってから黙り込んだ一ノ瀬さんが、低く言った。


「広すぎるな。」


「え?」


「いや、何十年先の未来とか、世界とか、そんな規模で原因を探しても当てがなさすぎる。でも俺たちがタイムリープして、同じ日に未来のデータが変わった。」


一ノ瀬さんの目が画面から私に向く。迷いのない、真実を射抜くような目はまるでLYNX─オオヤマネコ─のようだと思った。


「結月さんが言う通り無関係じゃないと俺も思う」


私はただ頷いた。

一ノ瀬さんが同意を示してくれただけてとても心強かった。


「交差点でのこと、いや、交差点に来るまでを一つ一つ洗い出そう。答えはそこにあるんじゃないかな」


「……はい」


私が頷くと一ノ瀬さんの表情が少し和らいだ。

今、一ノ瀬さんがいてくれて良かったと心から思った。


──気づけばもう23時を過ぎていた。


「すみません、時間……遅いですね。」


「ほんとだ、ごめん、時間気にしてなかった。気づいてると思うけど、2030年の8月15日は木曜だからね、明日仕事だよ」


2025年の今日は金曜日だった。

まずい、完全に明日休みのつもりだった。


「うわぁ、今週損した気分…。助かりました、教えてくれて。やりたいことがあったので朝までPC作業してたかも…」


普段から夜更かししがちだけど、仕事なら多少は寝ないとという気にはなる。


一ノ瀬さんが玄関で靴を履

「結月さんが頼りだから無理しないように。労基より厳しく監督しないといけないかな」


一ノ瀬さんが優しい笑顔を見せた。

昨日までは知らなかった顔を今日はいくつ知っただろう。


「そんな、私の方が頼りにしてます。一ノ瀬さんがいてくれて心強いです、本当に」


一ノ瀬さんがスッと私に手を差し出した。


「じゃあ俺も過労で倒れないように気をつけるよ。

明日は帰りは遅い?」


「私、明日はクライアント先から直帰予定っぽいので、手帳によると。家で作業するつもりです。一ノ瀬さん、よかったらいつでもいらして下さい、今日の話しの続きができたら…明日とか週末とか」


言ってから何言ってんだと自分に突っ込んだ。

一ノ瀬さんが金曜の夜や週末に暇してるわけないでしょうよ。


「じゃぁ明日来ても?」


「もちろんです、でもうちに来るのも面倒ですよね、調べて分かったことがあったら連絡します


「いや、結月さんがいいと言うなら遠慮なくまた来ます、明日も定時目指して早めに帰るから」


「じゃあカレーくらいで良かったら作るので良かったら」


私は毎週金曜日か土曜ににカレーを作り、土日はダラダラしたり、仕事をしたり、時間気にせず過ごすから、作り置きしたカレーをお腹が空いたら食べる。

そんなわけでどうせ作るので良かったらという程度で申し訳ないのだけど。


一ノ瀬さんは目の間を指でつまんで数秒下を向いた。


「一ノ瀬さん…?」


「定時で上がります、絶対定時で上がります。会社出る時連絡しますね」


そう言うと、爽やかな笑顔を残して風のように去っていった。



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