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第9話 事情聴取

 数時間後、時計塔に護送されたモルドーの治療がイルマによって行われ、取調室で事情聴取が開始。


 まず初めにモルドーは殺し屋としての名前で、ワグナーが本名とのこと。普段は世界九大国の1つであるサバナ国を拠点としているらしい。

 

 手始めに今回の一連の事件の背景についてワグナーから聞き出した結果、2ヶ月前にアルカナという組織に雇われたらしく、幹部の1人から諜報部の奴らを殺してほしいと頼まれたそう。


 諜報部の暗殺についての詳しい理由は聞かされてないようだが、恐らくアルカナにとって邪魔だったとかそういうことだろう。


「アルカナの内情について何か知っていることは?」

「ねぇよ。そんなこと依頼を受ける上では関係ないからな。受けた依頼に関すること以外は聞かないのが俺の主義だ」


 ワグナーの向かいに座ったイルマが質問するが、彼はきっぱりとそう告げる。


 イルマはその様子からこれ以上問い詰めても、本人からは情報は出てこないだろうと判断。他に捕らえたアルカナの構成員に聞けば済む話だと割り切り、再び口を開く。

 

「では次だ。ワグナー、お前が殺し屋になった経緯はなんだ?」

 

 肘を机に立てて両手を組み合わせたイルマが尋ねると、ワグナーは一瞬、目を見開いて固まった。

 

「……どうしてそんなことを訊く?」

「いや、何。単純な興味という奴さ」

「へぇ、変わってんねぇ」

「よく周りからは変人だと言われているよ」

 

 イルマは自嘲気味に笑いながら、壁際で話を聞いていたルヴィンとアシェルの方へチラリと目を向ける。と、二人は困ったように笑う。

 

「それでどうなんだ?」

 

 イルマは視線を戻して、再度尋ねる。

 

「殺し屋になる前は、戦争で孤児になったり移民してきた子供たちを養うために孤児院を経営していた」

「戦争と言えば、シャルミア戦争か」

「あぁ、そうだ」

 

 シャルミア戦争は、10年前にブリテンとサバナの国境・シャルミアで起きた戦争で、死傷者が多数発生し、両国共に大きな被害が出たことで世界的に知られている。

 

 それ故、孤児や難民が増加する事態に。ワグナー孤児院にも多くの子どもたちが流れてきたおかげで、経済状況が悪化。


 取り立てにやってきたやつから殺し屋になったらどうだと言われ、ワグナーは元々、自分の獣化スキルが嫌いで封印してきたが、このまま子供たちを見捨てるわけにはいかないと手を汚すことを決意。


 孤児院を経営する傍ら、殺し屋モルドーとして活動をすることになったようだ。

 

「けど、正直なところ捕まって良かったよ」

「ほう、それはどうしてだ?」

「人を殺した手で無垢な子供たちに触れるのは、野暮ってもんだろ?」

「ははっ、それはそうだな」

 

 ワグナーの言葉を聞いて笑いを溢すイルマ。


 粗方、事情聴取を終えたところで、ルヴィンとアシェルと同じく壁際で話を聞いていたレイヴが、今までの情報をまとめてパソコンに記録する。

 

「さて、こいつの処遇についてだが、お前たちはどう思う?」

 

 レイヴから記録を終えたとの報告を受けたイルマは、ルヴィンとアシェル、レイヴの3人へ尋ねる。3人は唸り声を上げながら考え出す。

 

 と、少ししたところ、ルヴィンが手を挙げた。イルマは彼に話すように促す。

 

「ワグナーさんをインベスターに入れるのはどうでしょう!」

 

 ルヴィンがそう口にすれば、アシェルとレイヴは唖然としたように口をポカンと開いた。突然の提案にワグナーも戸惑いを見せる。

 

「ほ、本気かよ? 坊主」

「もちろん、本気に決まってますとも!」

 

 ワグナーに訊かれ、ルヴィンは意気揚々とした表情で返す。

 

「おい待て、何言ってる。相手は犯罪者だぞ。インベスターに引き入れるなどどうかしている」

 

 状況がいまいち吞み込めず、呆然としていたアシェルが気を取り直してルヴィンを説得し出す。

 

「本当にそう思うか? アシェル」

「……どういうことです? イルマさん」

 

 イルマに問われ、アシェルは訝しげに彼女を見つめる。質問の意図が読めずにいると、イルマは人差し指を立てて口を開いた。

 

「フレア捜査局が絶賛人手不足というのはアシェルも知っているだろう? ワグナーの獣化スキルは確かに危険なものだが、事とやり方次第では十分正しい方向に使える。加えて、彼の殺し屋としての知識と経験は私たちが今後、捜査する上でも有用なものとなり得るはずだ。違うか?」

「ふむ。確かにそれはそうだ」

 

 アシェルはイルマの考えに同意を見せる。

 

 事件の捜査を行う上で、フレア捜査局に捜査官としての視点はあれど、元殺し屋としての視点など早々ない。


 殺し屋として約8年間生きており、裏社会にも精通しているワグナーが加入することで、新たに判明することもあるだろう。

 

「レイヴはどうだ?」

「あっしはどちらでも。報酬さえもらえば何でもいいんでね」

 

 レイヴはワグナーがインベスターへ加入することにそこまで興味が無いようで、肩をすくめながら意見を述べる。

 

「殺した分だけ己がスキルで人々を救う。それがワグナー、お前にとっての償いの道となると私は考えるが、どうかね?」

 

 ワグナーへ向き直ったイルマは、彼にそう問うた。机へ視線を下げたワグナーは少しの沈黙の後にこう語る。

 

「そう……だな。この獣化スキルを人を救うために使えるというのなら、俺としてもその方が良い。それに孤児院を畳むようなことになれば、子供たちに申し訳ないからな。そちらさえ良ければそうさせてもらおう」

 

 ワグナーの返答にイルマを含めた4人は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「では、決まりだな。これからは同じ仲間としてよろしく頼むぞ」

「あぁ、こちらこそ」

 

 イルマとワグナーは互いに手を取り合い、握手を交わす。


 その後、事情聴取を終えたワグナーは一時的に牢へ拘留されることになった。


 一方、ルヴィンたち4人は取調室を出てロビーで待っていたセリアと合流する。

 

「皆さん、この度は本当にありがとうございました」

 

 セリアは深々と頭を下げる。

 

「いえいえ~! セリアさんが無事で良かったです!」

「また何かあったら相談に来ると良い」

「いつでも待ってるっすよ!」

 

 ルヴィン、アシェル、レイヴが微笑みつつ、順番に声をかける。

 

「はい、それでは失礼します」

 

 すっきりした笑顔を浮かべたセリアは、ルヴィンたちに再度頭を下げ、ロビーを後にする。


 4人が彼女を見届けていると、ロビーの奥から足音が聞こえて来た。ふと、後ろを振り返れば、フレア捜査局上層部の中年のインベスターが恐ろしい剣幕で、1枚の書類を手にこちらへ向かってくる。

 

「おい貴様らぁ! 市街地並びに時計塔を荒らしただけでなく、犯罪者をインベスターに入れるなど一体、何を考えている⁉」

 

 報告を受けた上層部のインベスターが、ルヴィンたちに向かって怒鳴り声を上げる。


 と、イルマは面倒くさそうに目を細め、こう告げた。

 

「別に良いだろう。それが私たち(ウィアード)流儀(やり方)であり、決定事項だ。今更とやかく言われる筋合いはない。こちらも案件が片付いたばかりで疲れている。その後の応対はまた後日にしてくれ。ではな」

 

 イルマはまくし立てるように言うだけ言って、入口へと歩き出した。インベスターの怒号が背後から聞こえてくるが、ルヴィン、アシェル、レイヴの三人は無視してイルマの後を追う。


 4人は時計塔を出て、ウィアード諸房へと戻るのだった。

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