第7話 形勢逆転
戦闘が激化していく中、ルヴィンは十数本のナイフを矢継ぎ早にモルドーに向かって投げていく。
モルドーは鎖を放ち、飛んできたナイフを全て弾き返す。弾かれたナイフは瞬く間に地面へと落とされ、無効化された。
と、アシェルが背後から現れ、氷剣を振り下ろす。
だが、鎖の穂先で受け止められ、鎖が手首に巻き付いたかと思えば、遠くへ飛ばされる。空中で鎖から解放されたアシェルは地面を滑りながら着地。
前を見上げると、ルヴィンが炎を纏ったダガーでモルドーへ斬撃を入れていた。援護しようと、氷の矢で追撃。鎖と衝突し、へし折られる。
「爆ぜろ!」
ルヴィンがルーンの刻まれた数個のビー玉を投げると、モルドーの目の前で爆破。視界が塞がれた直後、氷剣がモルドーに向かって降り注ぐ。と、黒煙の中から2本の鎖が射出された。
「ぐぅっ……!」
避ける暇なく、ルヴィンの腹部へ鎖の穂が突き刺さる。モルドーが鎖を振るうと、彼は勢いよく壁に打ち付けられた。
「ルヴィンッ!」
アシェルが咄嗟に振り向けば、打ち付けられた衝撃で壁がひび割れ、瓦礫に埋もれて動かなくなったルヴィンの姿があった。額から血が流れ、すっかり元気を無くしたかのように狐の耳が垂れ下がっている。
アシェルの目が見開かれ、顔が強張る中、モルドーは手に鎖を出現させた。
「残るはお前1人。速攻で片をつけてやる」
「そう簡単にやられてたまるかよっ!」
鋭い目つきでモルドーを睨んだアシェルは、両手両足を獣化させ、降り注ぐ無数の鎖を走って回避。一気に距離を詰める。
「はあああっ!」
モルドーの腹部に向かって拳を振り上げる。が、素手で受け止められ、いなされた。
今度はモルドーが拳を振りかざしてくるが、アシェルは腕でガード。続けて回し蹴り、鋭い爪で引っ掻き、どんどん前へ攻める。
「遅い!」
モルドーはアシェルの攻撃を全て回避。瞬時に体術を駆使して攻撃を繰り出し、地面に手をつき、後ろへバク転。足先でアシェルの顎を蹴り上げる。
「っ……!」
(こいつ、接近戦もできるのかよっ!)
苦戦を強いられる中、アシェルは左手に氷のナイフを逆手に持ち、空いた脇腹へ突き刺す。
モルドーは痛みに顔を歪めながら、アシェルの懐へ蹴りを入れて吹き飛ばした。
道路へ転がったアシェルは拳を地面に着いて、立ち上がり、跳躍。モルドーの顔面に向けて立て続けに足蹴りを喰らわすが、足首を掴まれ、投げ飛ばされる。
「はっ……?」
受け身を取り、立ち上がろうとした瞬間、ぐらっと足の力が抜けた。その場に何が起こったのか一瞬、理解できずに呆然とするが、すぐに思い当たる。
(やられた……遅効性の毒か)
今になってセリアを庇って受けたナイフについた毒が効いてきたようだ。どうするか考えている間にも、モルドーが迫ってくる。
と、その後ろ、もっと言えばモルドーの足元の地面でキラッと光る何かが動いた。
「っ?」
一瞬、眉を顰めるも、モルドーの背後で地面に転がった十数本のナイフが人知れず宙に浮くのを目にし、アシェルはギリギリ残った力で手のひらを前に向ける。
「何っ⁉」
モルドーも違和感に気づいたようで、咄嗟に振り向く。
が、時すでに遅し。モルドーを囲うように十数本のナイフが展開され、爆発。と同時にアシェルは自らの前に氷の盾の展開させ、巻き込まれるのを防ぐ。
モルドーの周囲が黒煙で包まれる中、背後から瓦礫に埋もれ、行動不能になっていたはずのルヴィンがモルドーに飛び掛かる。
「隙あり!」
気配に気づいたモルドーが振り向いた瞬間、ルヴィンはモルドーの首筋に麻酔針を発射。モルドーは意識を失い、その場に倒れる。と、モルドーに向かって氷が放たれ、全身氷漬けにされるのだった。