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第3話 調査結果

 セリアから依頼を受けて3日が経った。あれから進展はなし、平和そのものと言っても良いだろう。


 現在、セリアには1階にある工房の店番をしてもらっている。ルヴィンとアシェルは2階にある事務所のデスクで他の案件書類の整理。


 レイヴは事務所のソファーに背を預けながら、ぐうたらパソコン画面と睨めっこしていた。


 と、工房で作業をしていたイルマが事務所に入ってくる。


「レイヴ、例のUSBの解析はどうなってる?」

「もう終わってるっすよ~」

 

 手に持っていた荷物を下ろしたイルマが問うと、レイヴは軽く手を振って応答した。ルヴィンとアシェルは書類整理の手を止め、向かいのソファに腰掛ける。

 

「流石、情報部に所属してるだけはあるね」

「さっそくで悪いが、報告頼めるか?」

「はいっす」

 

 イルマが遅れてレイヴの隣に座れば、彼女はパソコンにUSBを差し込み、ファイルからデータを引っ張ってくる。

 

「まずは1本目の数字の文字列が書かれたものから」

 

 タブをクリックしてルヴィンとアシェルにも見やすいようにパソコンを移動させる。


 そこには数字や英字がびっしりと記されたものが表示されていた。何がどうなっているのかまるで分からないルヴィンは、眉を顰める。

 

「これは、トラスト銀行にある金庫の解除キーっす。おおよそ、強盗犯たちが金庫の中の物を取り出すために持って来ていたものっすね。あっしから見るに、本件との繋がりはあまりないので、重要度としては低いかと」

 

 ただの解除キーならば、確かに今回の殺し屋との件には関係が無いに等しいだろう。

 

 パソコンを回収したレイヴは、1本目のUSBを抜いて2本目のUSBを差し込み、再びパソコンを見やすい位置に置く。

 

「次に2本目の名簿についてなんすけど、これが結構厄介でしてね……」

「というと?」

 

 唸るように声を上げたレイヴに、アシェルが首を傾げる。

 

「調べて分かったんすけど、この名簿はブリテン諜報部のものなんすよ。で、この名簿に赤線が何本か引かれてるっすよね?」

「そうだね。全部で7本かな」

 

 たくさんの人名の書かれた名簿の上から赤い線が七本引かれている。一見すると、ただのメンバーリストのように思えるが、赤線の引かれた七人の名前には見覚えがあった。

 

 隣で見ていたアシェルも気づいたようで、顔を上げてまっすぐレイヴへ目を向ける。

 

「おい、この赤線の引かれた7人って……まさか」

「そのまさかっす。ここ1カ月で起きた連続殺人事件の被害者なんすよ」

 

 連続殺人事件の被害者は全員で7人。そして、名簿にはテレビで公表されていた七人の名前が載っていた。


 ということは、USBを所持していた強盗犯を含む奴らが何らかの形で事件に関わっている可能性が高い。

 

「つまり、例の強盗事件と連続殺人事件は繋がってるってこと?」

 

 ルヴィンの質問にレイヴとイルマが揃って頷く。すると、イルマが懐から針の入った袋をテーブルの上に置いた。

 

「加えて今回、セリアから受け取った針についていた毒を調べた結果、連続殺人事件で使用された凶器と同じものだいうことが分かった。恐らく、モルドーがやったものと見て良いだろう」

 

 報道では毒の塗られた針が凶器と言われていた。そして、セリアを襲った凶器からも同じものが検出されている。


 尚且つ、相手は諜報部のメンバーだ。モルドーほどの腕の立つ者でないと当然殺すようなことはできない。そうなればイルマの言う通り、モルドーも関わっているに違いないだろう。

 

「規模感と実行速度的に、2つの事件は組織規模の犯行の可能性が高い。事実、フレア捜査局も組織的犯行として捜査しているからな。モルドーはその組織の仲間、或いは一時的に雇われたのかもしれん」

 

 アシェルは新聞を開いてテーブルに乗せ、連続殺人事件に関する記事の中の一文を指差しながら言った。

 

 この1か月という短期間で、連続殺人事件を7件も起こすには相当の準備が必要になってくる。いくらモルドーとはいえ、一人で全てこなすのは不可能に近い。


 加えて、強盗犯たちも関係しているとなれば、より大きな組織が後ろにいると見るべきだ。

 

「モルドー1人ならまだしも、組織規模となるとここも絶対安全とは言い切れん。彼らを捕まえる意味でも、そろそろこちらから動いた方が良いだろうな」

 

 イルマは腕を組みながら、窓の外に貼られている結界へ目を向ける。いくら強力な結界であろうと、力押しで迫られては対処できない。一刻も早く策を考えるべきだ。

 

 ここで、テーブルに並べられた資料をじっと眺めていたルヴィンが何かを思いついたように声を上げる。


 みんな一斉にルヴィンの方へ顔を向ければ、彼は笑みを浮かべてこう言った。

 

「だったら、例のメール文の返信として、USBを引き渡す日時と場所を書いて送っちゃわない? その方がこっちも色々と準備しやすいし」

「そうっすね」

 

 セリアの返信を向こうも首を長くして待っているはずだ。メール文なら筆跡を辿られることなく、こちらでメールの文面を作成できる。

 

「時間に関してっすけど、相手は殺し屋。まず夜は避けた方が良いかと」

「加えて、人気の多いところならそう簡単には襲えないだろう」

 

 レイヴとアシェルがそれぞれ口にする。

 

 取引を破棄して、闇に乗じて襲って来ないとも限らない。人気が多ければ、狙われにくくなるのは勿論、周りの目もある。リスクはできるだけ排除した方が良いだろう。

 

「ここから比較的、近場で昼間に人が多いところといえば……」

 

 イルマが戸棚からアクロス市内の地図を取ってテーブルに乗せる。

 

「ウェストフォルド・セントラル!」

「だな」

 

 ルヴィンの言葉に、アシェルは納得したように首を縦に振った。すかさずレイヴが、パソコンでウェストフォルド・セントラルと検索をかける。

 

「ふむふむ、ショッピングモールっすか。そこなら今挙げた条件に当てはまってるっすね」

 

 ウェストフォルド・セントラルは地下1階、地上6階の8階建てと市内でも有数の大型ショッピングモールだ。


 ここ、ウィアード諸房や時計塔からも近く、利便性があり、ルヴィンたちも暇さえあればよく訪れている。あそこなら何かあった際でもある程度構造を把握しているので、逃げやすい。

 

「それにセリアさんはここ数日ウィアード諸房に篭りっきりだからな。いい気分転換にもなるだろう」

 

 アシェルが付け加えるようにして言えば、3人は揃って頷いた。

 

「なら、決まりだな。レイヴ、メール文の作成を頼む」

「了解っす!」

 

 イルマに言われ、レイヴはさっそく文面の作成に取り掛かる。その間、1階にいるセリアを呼び出し、ルヴィンとアシェルが事情を説明。セリアが理解したところで、完成したメール文を見せる。


『8月17日の午後13時。ウエストフォルド・セントラル5階広場で落ち合うのはいかがでしょうか』

 

「はい、これで大丈夫です」

「なら、送信するっすね」

 

 セリアからの了解を得られたレイヴは、送信ボタンを押すのだった。

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