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第1話 レイヴとの出会い

 ブリテン大国の中心都市・アクロス。太陽の日差しが照り付ける街の一角にその店はあった。


 名をウィアード諸房。5階建ての赤い煉瓦造りの建物の1階部分が工房兼売り場となっており、ガラス張りの窓からは魔石の嵌められた杖や水晶、緑の液体の入った瓶などの魔導具類が見受けられる。

 

「お買い上げありがとうございましたー!」

 

 毛先の跳ねた金髪ショートに赤の瞳の青年・ルヴィンは、笑みを浮かべながら店を出ていく老婦人を見送る。白シャツに茶色のベストとズボンを纏った彼は、老婦人が出て行くと、店の天井に釣られたテレビへ視線を移す。

 

『昨夜未明、アクロス市内の路地で四十代の男性が殺害されました。凶器は針と見られ、先端に毒が塗られていたことから、例の連続殺人事件と関連していると思われます。今回を含め、ここ一ヶ月で七件もの同様の殺人事件が発生していますが、未だ犯人は捕まっておらず、フレア捜査局はその頻度の高さから組織的な犯行と見て足取りを追っています』

 

 男性キャスターが手元の原稿を読み上げているのをボーっと見ていると、奥の工房からセミロングの白髪を後ろで1つ括りにした蒼眼の青年が出てきた。白シャツにグレーのベストとズボンを身に纏った彼はアシェル。ルヴィンと同じ17歳で、ウィアード諸房のスタッフだ。

 

「どうやら今日も繁盛してるようだな、ルヴィン」

「お疲れ、アシェル。朝からずっと店番してるけど、今のお客さんで16人目だよ」


 ルヴィンがカウンターに背を預けて後ろにいるアシェルへ笑いかける。

 

「もうそんなに来てるのか」

「おかげさまでね。物騒なればなるほど、この店の売り上げが上がるのはどうかと思うけど」

 

 この店では、主に古今東西至る所から収集した魔導具や魔導書、工房主お手製の薬品を販売している。かなり人を選ぶ商品しか置いていないため、普段は物好きな常連客しか来ない。しかし、昨今は連続殺人事件やら強盗事件などで物騒になっているので、守護魔法の付与された魔導具を買い求める客で溢れかえっているのだ。

 

「アシェル、工房内の整理はどんな感じ?」

「あらかた終わったところだ。本当、物が多くて困るよ」


 ここの店主兼工房主は物を片づけない。一度出したものは魔導具や薬品の制作が終わるまでほったらかし。床には魔導書も散乱しているので、いつ爆発という名の巻き込み事故が起こってもおかしくないのだ。


 すると、工房の扉が開いた。

 

「ふわぁぁぁ……」

 

 工房から20代後半ぐらいの女性が出てきた。緑の長髪を団子にした金眼の彼女はイルマ。このウィアード諸房の店主だ。黒のシャツとズボン、その上から白衣を羽織った彼女は姿を現して早々、眠たそうに欠伸をする。

 

「全く。繁盛するのは良いが、調合するこっちの身にもなってくれ……。こっちはここ数日、工房に篭りっきりでまともに寝れやしないんだ。一刻も早く例の殺人事件を起こした連中が捕まってほしいものだよ」

「あはは……お疲れ様です、イルマさん」

 

 身に着けていた金縁の眼鏡を取り外し、眉間を抑えながら愚痴を吐くイルマに、ルヴィンは苦笑を浮かべる。度重なる事件のおかげで、店内全ての魔導具を1人で制作しているイルマは寝不足気味のようだ。

 

『続いてのニュースです。一週間前にトラスト銀行にて発生した強盗事件についての続報が――』

 

 テレビからキャスターの声が聞こえてきたかと思えば、入り口のベルが鳴った。カウンターに凭れかかっていたルヴィンは慌てて姿勢を正す。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

 老婦人の次は、毛先の跳ねた腰までの黒髪に黒い瞳の少女がやってきた。ルヴィンとアシェルと同い年ぐらいだろうか。少女の背中には大きな長方形のケースを背負われており、左手にはこれまた大きなスーツケースが握られている。

 

「ほう、お前が新たなインベスターか」

 

 ルヴィンの横に立ったイルマが、少女を見て感心したように呟いた。

 

 世の中にはベスティアと呼ばれる獣化能力を持った人間が一定数存在する。獣化能力を持つ獣捜官であるインベスターもベスティアの一部だ。


 インベスターは警察機関の1つであるフレア捜査局に属し、ベスティアに関する事件、事故など幅広い案件を取り扱う。


 ここ、ウィアード諸房もフレア捜査局の一端であり、そこに属するルヴィン、アシェル、イルマの3人は全員漏れなくインベスターというわけだ。

 

「にしても、イルマさん。この人が新たなインベスターって、どういうことです?」

 

 ルヴィンが横にいるイルマへ問いかけると、アシェルが代わりに口を開く。


「もう忘れたのか? ルヴィン。 昨日イルマさんから聞いただろう。今日新しく配属される情報部のインベスターがいるって」

「あ、そうだったね」

 

 すっかり記憶から抜け落ちていたようだが、アシェルの言葉で思い出したようだ。と、店内を興味深そうに見回していた少女が顔を上げた。

 

「ども~。本日付けでヒノワ支部からブリテン本部ウィアード班へ臨時配属になった、レイヴ・ハワードっす」

 

 レイヴはそう言いながら、黒の指貫グローブを纏った手を軽く振って来た。ヒノワは極東にある島国のこと。ブリテン同様、世界九大国に数えられる国だ。

 

「僕はルヴィン・カーヴェル! ウィアード班の1人だよ。よろしくね~!」

「俺はアシェル・フリーデンだ。よろしくな」

「私はイルマ・グーテンベルク。ウィアードの班長兼ここの工房主だ。よろしく頼む」

 

 順番に自己紹介を終えたところで、ルヴィンがカウンターに手を着いてレイヴに詰め寄る。

 

「それにしてもヒノワってあの!?」

「はいっす。生まれはリベルタなんすけど、ヒノワはあっしの地元でして。数日前までそこに所属してたっすけど……それがどうかしたんすか?」

 

 顎に人差し指を当てたレイヴは、最後にコテンと首を傾げる。

 

 リベルタというのは空に浮かぶ国のことで、ヒノワは極東にある島国のこと。どちらもブリテン同様、世界九大国に数えられる国だ。


「実は僕の母親がヒノワ出身でね。ヒノワのことについてはよく聞かされてたんだけど、実際に行ったことなくってさ。良かったら色々聞かせてくれない?」

「勿論、良いっすよ! まず、ヒノワはここブリテンとは生活様式も文化も違って――」

 

 レイヴが意気揚々と話し始めていると、カウンター奥の電話が鳴った。レイヴは開いていた口を閉じる。


 電話の近くにいたイルマが受話器を取り、何やら相槌を打ち始めた。ルヴィンたちは静かにイルマの電話が終わるのを待つ。

 

「はいはい。分かりました。ご連絡ありがとうございます~」

 

 いつもより一段高い声で受け答えするイルマは要件を聞き終わったのか、電話を切る。と、顔を上げてルヴィンたちの方を見た。

 

「レイヴには来てもらって早々悪いが、依頼だ。依頼者は本部の応接室で待っているらしい。行くぞ」

「「「分かりました!」」」

 

 ルヴィン、アシェル、レイヴの3人は揃って返事をする。4人はそれぞれ出かける準備を整え、ウィアード諸房を出るのだった。

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