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この世界は……

 話し掛けてきたのはパープルの魔法使い、オリバー・ハリスだ。


「まさか君が、あんな下級の奴ら相手に油断して置き去りにされるなんてね」


「そんな前から見てたってことは、召集された訳じゃ無さそうですね……」


「そうだね~」


「……っ」


「色々訊きたいことがあるだろうけど、今から来る奴もきっと知りたいと思うから、ちょっと待ってね~。同じ話、2回もしたくないしさ~」


 こんな時でも普段通りの軽いノリで話すオリバーにイライラする。


 彼は飄々としていて食えない奴だ。俺より10歳も年上で、涼太郎の行年(ぎょうねん)と同い年なのに、何だかちょっと子供っぽくて、可愛らしさすらある。


 そんな彼だから……一体今何を思ってこんなことをしているのか、何をしようとしているのか――さっぱり分からない。


 ここは霊獣2体を封じる為に彼が創り出した空間。涼太郎がやってたサッカーで言えば――アウェイだ。とりあえず皆を待つしかない……。


 ん? 女神の指輪がまた光ってる。


「……水色?」


 指輪の光には、治癒に使う時の黄緑、メンバー同士で連絡を取り合う時の紫、王城に繋ぐ時の黄色とかがあるけど、水色は初めて見る。


 オリバーの指輪はどうだろうと彼の手元に目を遣ると、指輪は外されている。


 本当にもう、そういう気持ちなんだな――


 感傷の波に呑まれそうになっていると、俺のすぐ右隣に、指輪の光と同じ水色の魔法陣が映し出された。


「眩しっ……。この術式は――転移陣!?」


 初めての展開に思わず息を呑んだ俺の目に映ったのは、何故か祈るような姿で涙を流しながら転移して来た――


「リアン!? えっ、泣いてる? 何で!?」


「カノアぁぁッ! ああ……良かった……」


 リアンは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら俺を強く抱き締めた。うえぇ……苦しい……。


 ゼロ地点の現場に俺が巻き込まれたとは言え、この反応はちょっとオーバーじゃないか?


「ってか、何で1人? 皆は?」


「あー……」


「どーもどーも、勇者様。ここに来られたってことは、やっぱり君は知ってるってことでOK?」


 オリバーが俺達の会話を遮ると、リアンの顔は途端に青ざめた。


「そんな恐い顔すんなよぉ~。(なん)も話してねぇし、手も出して無いって~。……まだ、ね」


「……っ! 王城の転移システム破壊もお前の仕業か!?」


 リアンはわなわなと身を震わせて、オリバーに掴み掛かった。


 王城には巨大な転移陣を設置した部屋がある。


 転移陣は最大20人まで転送可能なデカさで、そんな規模の転移魔法を発動するには相当な魔力が必要だ。普通なら魔法使い複数人で行うけど、あの部屋には魔石のマナを利用する為の特殊システムが構築されていて、宮廷魔導師1人でも対応出来るようになっている。転移陣を使う時って、俺達みたいな国家機密が絡んでたりするから。


 っていうか、そのシステムが破壊された? アレが無いと皆が……。


 愕然とする俺に、オリバーがニヤニヤしながら言う。


「そうゆー訳だからさ~、パープルはすぐにはここに集まれないんだよ。じゃあ、何でリアンだけ、来ることが出来たのか……って話だよね~」


「やめろ!!」


 リアンは必死に何かを隠そうとしている。


「ハァ……。敵に塩を送る義理は無いんだけどさ……この状況で隠す必要ある? カノアの表情、見てみろよ」


 オリバーの言葉にハッとして、俺はリアンから目を逸らした。信じ切れない気持ちが顔に出てしまっていることは自分でも分かっている。


 気まずい雰囲気の中、リアンがオリバーに向かって声を張り上げた。


「カノアは絶対に俺が守る! その為に俺が居るんだ!」


 は……? 何だよ、それ。


「おい、リアン! 勇者のお前が守らないといけないのは俺なんかじゃ無いだろ! そりゃ俺は最年少だけど、俺だってパープルの一員だ! 互いの命を預けることはあっても、守られたくなんか無い!」


 俺は本気で怒ってるっていうのに、リアンは何故か俺の前に跪き、更に訳の分からないことを言う。


「カノア……いや、我が(あるじ)・カノア様――」


「何、言って……」


「先程の水色の転移陣は、私をカノア様の元へ直接導く転移陣です。貴方様の危機に駆け付けられるように、イリス様より特別に賜っております」


「……」


 ああ……これって――


 純粋なこの世界の人間だったら、もっと違う反応をするんだと思う。だけど生憎、今の俺は前世の記憶持ちだ。


 この世界がラノベみたいなストーリーなのだとしたら、主人公は勇者のリアンじゃなくて、俺なんだろう。


 10歳でパープルに加入する前にも、リアンとは王城で会ったことがある。当時6歳だった俺は、まだレアスキルを発現していなかった。


 王城に招かれ、陛下に案内されたのは結界で守られた秘密の部屋。一部の王族と勇者・リアン、そして何故か俺の家族・ルフェリア伯爵家が入室した。


 扉の向こうは全く別の空間で、そこには空があり、風が吹き――墓がいくつかあった。


 大昔の王様達の墓らしくて、皆は真剣に手を合わせていた。幼かった俺は、興味も尊崇の念も皆無だったけど、退屈しのぎに目の前の墓の文字をぼんやりと眺めていた。


 何て書いてあったっけ……あの墓石の名前――


「勇者である私の一番重要な仕事は、貴方様をお守りすることなのです。この国の真の王の末裔、カノア・ルフェ・ブラーヴ様」


 そうだ……あの墓石の王の名は――


『アクア・ルフェ・ブラーヴ』

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