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最悪な召集と最高の再会

 赤い光は『 特務隊召集(コール)』。女神・イリス様がSランク能力者を緊急召集する勅令だ。


 “Sランク”はギルドが判定するランクとは根本的に異なり、イリス様から直々に任命される。


 俺達が普段、冒険者や薬屋、武器商人とかをやっているのは表の顔で、真の仕事は特殊部隊としての活動だ。


 正式名称『第2特務隊シークレットパーティー』、コードネームは『パープル』――メンバーはブラーヴ王国のSランク能力者7人。


 Aランク冒険者でも倒せない魔物の討伐、王族の護衛、紛争時に最前線に立つなど、国を守る為に秘密裏に動いている。


 普段は国王・サヴァム様を通してイリス様の指令を受けているけど、緊急時にはイリス様から勅令が下る。


 要するに、 特務隊召集(コール)が発せられたってことは、今がとんでもなくヤバい状況だってことだ。


 そして、青い光は『ゼロ地点』であることを示している。つまり、“今この場所こそが、対応すべき緊急事態の中心地点である”ということ。


 これから戦う相手が誰なのか――特定は出来ずとも、限られている。


 マカナのことを知っているのは、師匠と国王陛下、それから……パープルの仲間達だけだ。


 俺達の存在はトップシークレット。勇者だけは情報公開され、王族に並ぶ存在として公務をこなしているけど、他の特務隊メンバーのことは国民は一切知らない。


 大陸合同の特務隊が大悪魔の魂を封印したという500年前の英雄譚が語り継がれているため、“特務隊ごっこ”は子供達の人気の遊びだが、俺達の存在は都市伝説みたいに思われている。


 それでも俺達は勇者を支えて国を守って来た。


 誰にも知られていなくても、俺達は英雄パーティーだろう?


「クソッ……英雄から国賊に堕ちようとしてるなんて、何考えてんだよ!! ハァ……」


 ってさぁ……ため息なんかついてたって、状況は何も変わらないよな……。


 ミスティックハートは俺が巻き込んだも同然だ。今頃、炎の馬と風の鳥に遭遇しているかもしれないアイツらを、俺は助けに行かないといけない。


 その為にはまず、マカナ無しで同格相手に戦える戦力を!


 俺は遥か上を見上げて尋ねる。


「俺はカノア・ルフェ。召喚師です。水竜さん、俺と契約しませんか」


『!?』


 俺の提案に、何故か水竜は慌てて水中に潜ってしまった。


 えーと……その想定外の反応は何? 水しぶきがこっちまで掛かったんですけど……。いや、しぶきってレベルじゃねえな、コレ。


「ゲホッ……。貴方をここから出す方法って、それしか無いと思うんです。俺の従魔として名を与え、使役する形になってしまいますが」


 あーあ。「ここから出す」とか、助けたいみたいに言っておいて、あわよくば戦力の補強に……なんて考えてる俺って最低だな。


「嫌、ですよね……。初対面の人間のガキに使役されるなんて……」


 池に向かって話し掛け続けると、『そんなことは無い』と水中から返事が返ってきた。


『無理を言っているのは我の方ぞ。従魔となることは構わない。ただ……我に名をくれると言うならば、欲しい名がある』


 え? 自分から希望を言ってくるスタイル? さっきのってもしかして、シンキングタイムでした?


 水竜は水面から顔を出すと、ぽかんとする俺に目線を合わせ、真剣な表情で言った。


『我が欲しい名、それは――“ 京香(きょうか)”』


「……え? 何を言って……」


 だって、その名前は――


 幼少時から身体が弱く、中学生の時に亡くなった涼太郎の双子の妹の名前だ。


 その巨体を震わせて大きな両目から涙をこぼす水竜を見て、俺の全身も震えた。


 水竜の感情が伝わって来る。

 何を考えているのかが分かる。


 まるであの頃のように――


「まさか、お前……」


 俺が水竜の頬に手を伸ばすと、水竜は大泣きして叫ぶように言う。


『そうだよ、私……京香だよ! お兄ちゃん!!』


 転生後の異世界で再会するなんて信じられない……


「京香……お前にまた逢えるなんて……」


 俺達は共に泣き崩れた。


 ◆◆


『京香』――この大切な大切な名を水竜に与え、俺の従魔として契約することにした。


 竜は、名を持つと力が増し、人型に変身出来るようになるらしい。人間と愛し合って名をもらい、旅立って行った仲間達が居ると言う。


 双子の妹と一緒に戦えることは、連携面でとても心強い。身体の弱い京香のイメージしか無いから、余り無茶をされると心配になってしまいそうだが……。


「それじゃ、いくよ」


『うん』


 俺は魔力を集中させ、水面と自分の足元に赤い魔法陣を展開した。


 水面も赤くて見えねええ!とか突っ込みたくなるけど、妹の前だぞ! 落ち着いたクールな兄の姿を見せるんだ、俺!


 しかし、こんな超級と契約するのは久しぶりだな。俺は少し緊張しながら詠唱を始めた。


「名を授けて契りを結び、我が従魔とする。名は“キョウカ”――《従魔契約(チェイン)》」


 それぞれの身体に灯った光が一つとなって消えた後、水竜の身体に契約紋が浮かび上がった。


「これで契約完了だ」


 俺がそう伝えると、京香は『ちょっと待ってて』と言って目を閉じた。


 次の瞬間――


「マジかよ……」


「制服、どうかな? お兄ちゃん」


「あっ……ああ……。似合ってるよ」


 どうやら思い描いた通りの姿になれるらしい。人型に変身したその姿は、ずっと逢いたかった妹そのもので、涙が止まらない。


 赤ん坊なりに、一緒に生まれて来た奴がいつも隣に居るような感覚はあったように思う。


 でも、俺だけがどんどん大きくなって、京香は小さな身体のまま、入退院を繰り返して……中学1年生の春――中学校に一度も通えずに死んだ。


 俺は結構な長い間、京香の死を受け入れられず、仏前でも墓の前でも、あいつが好きだった公園の赤いブランコを見ても泣いていた。父さん達だって辛かったはずなのに、本当に迷惑を掛けた。


 父さんと母さんにも見せたいよ。目の前の京香の、元気な姿を。


 ――って、俺も早死にしてんのにな。


 本当に親不孝な兄妹だよなあ……。


「ねえ、お兄ちゃんも同じこと考えてるよね」


「多分な」


「でも……もう、あの場所に戻ることは出来ないから……」


「この世界を全力で生き抜いてやろうぜ!」


「うん!!」


 ◆◆


「それで……さっきのあの人達を助けに行くの?」


 京香が明らかに不満そうな表情で尋ねた。


「ああ」


「お兄ちゃんを置いて行った酷い人達なのに?」


「……そうだな。水竜がお前じゃなかったら、俺は喰われて死んでたと思うし、トーマスに殺されかけたんだってことは分かってる。でもやっぱ……感謝もしてるんだよ……。最初の頃は本当にたくさん世話になったから。アイツらに関わるのはこれで最後にしたいけど、このまま見捨てることは出来ない」


「そっか。お兄ちゃんらしいね」


 そう言って柔らかい表情を見せた京香に、俺も微笑み返した。


 何だかんだで俺の考えに理解を示して付き合ってくれる妹、そして加恋――ふと昔のことを思い出し、俺は感謝と共に少し気恥ずかしくなった。


「じゃ、行こっ!」


 京香は水面を凍らせると意気揚々と俺の前を歩き出したが、池の端で結界に弾かれて尻もちをついた。


「イタたた……」


「京香、大丈夫か? 結界が張られてるみたいだ。やっぱり召喚状態のままじゃ出られなさそうだよ」


「えー。せっかくこの姿になったのに……」


 京香は不満そうにむくれるが、こればかりは仕方が無い。


「一旦召喚を解除して、俺の中の亜空間に移す。状況を見てまた()び戻すから待っててくれ」


「んー……むぅー……。まっ、でも、お兄ちゃんの中に(はい)れるのは良いかも。ドキドキするね~」


「何、アホなこと言ってんだよ……」


 俺は苦笑しながら京香の召喚を解除し、1人で池を渡り切ると、弾かれること無く『池の部屋』を出ることが出来た。


「霊獣を閉じ込める結界か……」


『パープル』のメンバーは俺以外に6人。その中で、こんなことが出来るのはただ1人――


 重苦しい気持ちを振り切るように、無我夢中で先へと急いだ。迷路みたいな道を駆け抜けながら、戦う準備を整える。


「《召喚(サモン)》、レイラ!」


 俺は青魔鳥(ブルーバード)を召喚した。水属性、S級の魔物だ。


「頼んだぜ、レイラ」


『あのー、中でキョウカさんが「まだかまだか」ってブツブツ言ってましたけど、私で良いんですか?』


「うっ……。あっ、いや、今は君の能力が必要なんだよ……」


 すぐに喚ばず申し訳ないが、京香、お前も狙われている一柱だし、妹だと知った今となっては……『守り抜きたい』ってのが正直、本音だ。


 まあ、レイラの能力を使いたいのは本当。


「《開門(ゲーテ)》――《 従魔同体(シンク)》!」


 レイラの水の羽を纏った俺は、次の部屋の扉を見つけた。


「よしっ、行くぞ」


 重たい扉を力いっぱい引く。


 さて、炎の馬か、風の鳥か――


「って、両方かよ……。風やばっ……」


 たてがみが燃える美しい馬が俺を睨み付け、緑色の鳥が竜巻を起こしている。


 あまりの風の強さに手で顔を覆うと、レイラが氷のシールドを張ってくれて、辺りを見渡せるようになった。


「トーマス!!」


 竜巻の近くにミスティックハートの3人が倒れている。


 彼らに駆け寄ろうとした俺だったが、炎馬が炎を吐きつけてきて、先に進むことが出来ない。


 霊獣2体の相手はキツいけど、さっき 特務隊召集(コール)があったんだ。すぐに皆が来てくれる。それまで耐えるしか無い。


 竜巻の風に煽られて勢いを増す炎に、水魔法と氷魔法で応戦していると――


「やあ、カノア」


 聞き覚えのある声が俺を呼び、同時に霊獣達は攻撃を止めた。


「オリバー……」

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