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創国の神話

 神が “王”をお創りになった――


 ランジェット大陸全土に語り継がれる創国の神話。大陸がまだ神による直接統治だった太古の昔、これからの統治を任せて行く者として自ら2人の人間をお選びになった神は、儀式によって彼らに特別な力をお与えになった。


 2人は東西に国を築いて王となり、それはそれは立派に治められた。やがて彼らの子孫達が国を増やし、大陸全体を発展させて行った。


 大陸の国々が本当にこのようにして創られ、神の如き力は今の国王様達にも受け継がれているのだと信じて崇め奉る宗教や研究団体がいくつか存在している。


 他国や歴代の王様達がどうなのかは分からないけど――少なくとも、ブラーヴ王国の現国王であるサヴァム・ブランツ様にはそんな摩訶不思議な力が無いことは良く知っている。あの人はただの筋トレマニアの陽気なおっさんだ。不思議な力どころか魔法が大の苦手で、全てを物理でぶちのめしたいタイプだ。大好きな筋トレに時間を使い過ぎて、側近の美女に「公務をなさってください」としょっちゅう怒られている。


 と、まあ……そんな感じではあるんだけど……儀式自体は本当に存在していた可能性が高い。


 国王陛下は多分何かを知ってはいるし、儀式が行われた場所だとされる洞窟も遺っている。


 その洞窟の壁に、水の竜・炎の馬・風の鳥・土の虎の霊獣4体が描かれていることから、この霊獣達を柱にした儀式なのだろうと、様々な書物に書かれている。


 儀式執行者は、“王”になれる程の強大な力を手に入れることが出来る……のかもしれない。


 神による力の供給というものは、実際にこの身に存在しているしね――


 ってか……太古の昔と違って、この現代の大陸で新たに国を興そうとするならば、土地や人民を奪って手に入れるしか無い。誰だか知らねえけど、戦争でも起こす気かよ……。


「あのさ、あの道の先って……」


『見たことはないが、恐らくは我のような存在があと2体いるはずだ。気配は常に感じている』


 その2体が馬と鳥ならば、残るは『虎』――


「……マカナっ!」


『ニャア?』


「《召喚解除(アンサモン)》!!」


『ニャァッ!?』


 俺は嫌な予感がして、慌ててマカナの召喚を解除した。


 第一解放では小さな黒猫みたいで可愛らしい彼だけど、全解放した本来の姿は立派な黒虎(こっこ)――霊獣だ。


 部屋の魔物に襲われた時、余りの数の多さにBランクのアイツらでも苦戦していた。


 俺もオリビアを守りながら戦うのは限界があったから、こっそりマカナを召喚して手伝ってもらったけど……普段からマカナには特殊な隠蔽を掛けている。


 だから基本的には視えない存在だし、俺が黒虎を使役していることを知る人は限られている――


 ◆◆


 魔法学の師匠に召喚と契約について習っていた7歳の頃、俺は霊獣であるマカナを偶然召喚してしまった。あまりに強すぎる力は危険だからって、召喚能力とマカナのことは隠して生きて行くようにと師匠から忠告を受けた。


 学ぶこと自体が好きだから、その他の魔法も、更には武術も一通り習った。あらゆる基礎を身に付けて、その過程で様々なスキルも得たけれど、結局召喚魔術以外は伸び悩んだ。


 冒険者登録可能年齢の15歳になり、ギルドが開催しているレベル判定試験を受けに行った俺は、もちろんそこで召喚魔術を披露することは無く、剣と補助魔法で戦うDランクの戦士となった。


 ――表向きは、ね。


 同じ会場で判定試験を受けた人は50人くらいだった。その中の同い年の数人と「同期でパーティー組みたいね」なんて試験前に話したりしたけど、試験後にDランク判定だった俺を誘ってくれる人は誰一人として居なかった。


 既存パーティーの大半は、せっかく良いバランスで回っているところに、わざわざ新人を入れるのは面倒だと思っている。年下の幼なじみの冒険者デビューを待っていたりとかはするけど。


 引く手数多(あまた)なのはAランクだけ。B・Cランクの人達が頭を下げてやっと入れてもらえるような状況の中で、更に低いDランクの俺は、パーティー所属は諦めて1人でやっていく決意を固めた。


 ソロで冒険者デビューした俺は、悠々自適な1人旅を楽しみながら、採集や討伐の依頼をコツコツと受け続けた。


 トーマス達とはギルドで知り合い、「いつも頑張ってるな」と声を掛けられて仲良くなった。


 3人とも俺の3歳上。魔法使いのトーマスは貴族で、背が高い金髪のイケメンだ。タンク役も請け負う剣士のガルクは巨体でイカつい見た目に反して心優しく、治癒師のオリビアはほんわかした小柄な女性で、寧ろ年下に見える程に童顔だ。


 Dランク冒険者としての一定の評価を得られるようになってきた頃、「前衛でガルクをサポートしてくれないか」とミスティックハートに誘われた。


 弟のように可愛がってくれていた彼らの態度が変わり始めたのは先月のこと。王都近郊の森で、S級の魔物・ 四眼象(シーグア)に襲われた後からだ。


 四眼象はガルクの真正面に突然現れた。彼は鋭い牙で突き上げられ、動けないほどの重傷を負った。


「何でこんな所にS級……」


 俺達は身体の大きな彼を抱えて逃げることが出来なかった。トーマスは「ガルクの治癒が終わるまで何とか2人で凌ごう」と俺に言ったけど……S級の魔物を前に、BランクとDランクなんて無力だ。立ち向かった所で、ゴミのように散るだけだ。


 仲間達を死なせる訳にはいかない。


「《開門(ゲーテ)》」


 俺はレアスキルを解放するための特別な詠唱をした。


 女神・イリス様の祝福を受けし天界のアーティファクト『女神の指輪』に封じていた力が解き放たれ、俺の全身に満ちて行く。


 俺はSランクの召喚師だ。


 ここで全力を出さないで、何のためのSランクなんだと、そう思った。


 正直、四眼象なんてSランクでも1人じゃ挑まないけど……自分は死んでも構わないから、何としてでもトーマス達を守り抜くと天に誓った。


「コイツは俺が()る」


 決意した俺は、契約獣達の能力を借りることが出来るレアスキル《 従魔同体(シンク)》で強力な結界を創り出し、3人を閉じ込めた。


 戦うつもりで構えていたトーマスは、結界の中から壁を叩いて叫んでいた。


「おい、カノア! 何だ、これは! 出せ! 今すぐにここから出せっ!!」


 トーマスはあの時、相当イラついていたと思う。


 心から彼を守りたいと思う気持ちと同時に、足手まといだから閉じ込めたというのも事実だ。


 死闘を繰り広げた末に何とか 四眼象(シーグア)を倒した俺は、女神の指輪の力を使ってガルクと、血だらけになった自分自身を治癒した。


 目の前で一部始終を見ていた3人は呆然としていた。


 借りた力ではあるけれど、攻撃から治癒までありとあらゆる魔法を使った。Bランクの魔法使いである自分を優に超える俺の真の能力に、トーマスはショックを受けたようだった。


 誰がこの国のSランクなのか――それはトップシークレットである。女神の指輪の力をもって、この戦いに関する全ての記憶を仲間達から消し去った。ガルクが襲われた所から全てだ。それでもトーマスの心の中には、俺への嫉妬のようなものが何かうっすらと残ったらしい。


 それ以来、トーマスは俺に対して敵意剥き出しで、いつも嫌味を言ってくる。まともに相手をして揉めるのも面倒だから、ずっと受け流して来た。


 ガルクとオリビアはトーマスの言いなりで、「アイツと話すな」とでも言われたのだろうか、次第に会話が無くなっていった。3人は幼なじみだけど、そもそもパーティー結成もトーマスが勝手に決めたらしい。


 この1か月、荷物持ち同然の扱いだった。本当はずっと辛くて寂しかったこと、今さっきドン底に突き落とされたこと……。


 彼らに対する複雑な感情に涙がこぼれるけど、それでも感謝はしている。


 その時、女神の指輪が赤と青に光った。


「やっぱりか……ゼロ地点……」


 出来れば見たくなかったその光から、俺は思わず目を逸らした。

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