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涼太郎とカノア

 前世に続いて今世までも、長生き出来ないどころか特殊な死に方をするなんて…………


 今更になって鮮明になる前世の記憶に複雑な感情を覚える。


 涼太郎だって決して楽に死ねた訳では無かったけれど、愛する人が側に居てくれた。そのことを想うだけで、胸がじんわり温かくなる。


 涼太郎と加恋は高校1年生の秋から付き合っていて、大学生の頃には将来を意識していた。……正直羨ましい。俺は今朝、幼なじみと大喧嘩してきたばかりだって言うのに。ま、男なんだけど!


 そいつと仲直りすることも叶わぬまま、僅か16年の生涯を1人孤独に終えるのか。


 ……つーか、前世の自分への羨望って! 今際(いまわ)(きわ)に何考えてんだろ……。余りにも不毛でやり切れない。


 涙があふれ、真っ赤な水に溶けて行く。水竜はそれをすすりながら、ゆっくりと俺に近付いて来た。


 ――喰われる!!


 まだ違和感が残る顔の筋肉に可能な限りの力を入れて目を閉じ、覚悟を決めた次の瞬間――俺の身体は高速で上昇し、水しぶきを上げて水面を突き破った。


「へっ?」


 目を開けると視界は水竜のうろこで埋まっていた。改めて水竜の巨大さと人間のちっぽけさを思い知らされるけど……そのあまりにも優しい咥え方に、俺は恐怖どころか安心感さえ感じている。しかも、その唾液には治癒効果があるようで、俺は身体を動かせるようになっていた。


 水竜は巨体をかがめて、俺を池のほとりにそっと置いた。


「何で俺を……」


『この味を忘れる訳が無かろう』


 水竜は俺の呟きに応え、念話が使える俺は、その言葉を理解することが出来た。


「え……?」


『あ、いや……。助けたいと思ったから助けた。ただそれだけだ』


「えと……ありがとうございます……」


『ところで、そなたに頼みがあるのだが』


「頼み?」


『……我をこの迷宮から出してはくれぬか』


「はい!?」


 何、言っちゃってんの!? アンタみたいな危険な存在を外に出せる訳がないでしょう!! 大体さ、水は要らないの!?


 この『トリアド地下迷宮』は地下100層まである大規模ダンジョンで、我が国ブラーヴ王国の5大ダンジョン『アビスフォース』の1つだ。


 他の4つの大ダンジョンは冒険者レベルによって入場制限をしているけど、ここは誰でも入ることが可能だ。第2層より下に進むには特定のモンスターを倒して鍵を手に入れる必要があるから、超初心者が危険な目に遭うことは滅多に無い。


 下層では命を落とすこともあると聞くけど、中層まではそれほど難しくないダンジョンのため、日々のトレーニングや小遣い稼ぎとして潜る冒険者も多い。ちなみに、ミスティックハートは中層・第43層まで攻略済みだ。


 冒険者のレベルには、下からE~A、そして最上級のSランクがある。Sランクはレアスキル持ちで、国に数人しか居ない。


 俺は下から数えた方が早いDランクの戦士だけど、Bランクである魔法使いのトーマス・剣士のガルク・治癒師のオリビアと一緒なら楽勝だった。


 だけど、今日、ワープポイントから第44層にワープしようとしていた俺達の前に、普段は存在しない道が突然現れた。


「あれ……絶対ヤバいやつだよな……」


 そう言ってガルクが警戒したのに、トーマスは興奮気味に言った。


「面白そうじゃないか。お宝が眠ってるかもしれないぞ! 行ってみようぜ!」


「ねえ、やめようよ。何が起こるか分からないよ……」


「そうですよ。危ないですよ」


「おい、トーマス! 待てって!」


 ガルクの制止を振り切って強引に進むトーマスを、俺達は渋々追い掛けた。


 ――その道の先が、この隠し部屋だった。


 トーマスは躊躇(ためら)うことなく重い扉を開けて中に入った。俺達3人もため息をつきながら彼に続くと、そこには空と大地と巨大な池が広がっていた。


「おお……」


「すげえな……」


 予想外の景色に思わず感嘆の声を上げた俺達は、周囲の状況を把握する間も無く、いきなり大量の魔物に襲われた。


 入り口の扉は何故か開かなくなっていて、もう戻ることは出来なかった。


 魔物の数を約半数に減らした頃、扉は霧に隠れるように消えて行った。俺達はそれに焦りながらも、わずかな希望を信じて必死に残りの魔物と戦った。


 何とか全てを倒し終えた時、池の向こうに新しい道が現れた。


「道だ! とりあえず進むしか無い。行こう」


 入り口は消えてしまったし、トーマスの言う通り、先に進むしか道は無い。


 全員が目を合わせて頷いた直後――


 この水竜が立ちはだかったんだ。まるで門番のように。


「ヒイィィッ!」


 巨大な水竜にトーマスは震え上がり、ガルクの後ろに逃げ込んだ。俺はオリビアを背中に隠しながら、必死に考えた。


 霊獣なんか、このメンバーで勝てる訳が無え。普通に戦ったら、生きて帰れない。


 どうする、俺……


 あの時みたいに、スキルを解放……する?


 けど……そしたら、またっ…………


「……いや、そもそも――」


 こうやって人と組んで冒険者やってること自体が、やっぱり間違いなんだよな……。


「決めた」


 ここを出ることが出来たら、このパーティーを抜ける!


 誘ってもらって嬉しくて、つい加入してしまったけど……さよなら、ミスティックハート――


 そう決心した所から記憶が飛んで…………今に至る。


「畜生、トーマスの野郎……」


 結局、この水竜と戦うことは無かったけど――


「あなたはこの池の主ですよね?」


『……』


 俺が尋ねると、水竜は悲しそうにうなだれた。


『確かに我はこの池の主だが、この池自体は本来違う場所にあった。……1年程前、何故か池ごと転移して来てしまったのだ』


「えっ……どういうこと……」


『人為的かもしれないニャぁ』


 人為的って……。迷宮を操ってる人間が居るかもしれないってことか? 誰が何のために、そんなことをする必要があるんだよ!?


 いや、待てよ……水竜って確か、あの神話の一柱じゃねーか……?

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