ユーベの置き土産とマイペースな仲間達
「ユーベの野郎……」
戦闘好きならコイツも倒してから行けよ……。
「まさか一角猪っ!? こんなレアキャラに出会えるなんて〜」
エミリーがその邂逅に感激しているのは、虹色の美しい角を持つ猪の魔物、一角猪だ。
オリバーは「綺麗だね〜〜」と能天気な感想を述べながら、シャオに魔力補給をしてもらっている。
「角、欲しいです! ちょうど先日、先生と話していました!」
ジェシカの言う『先生』とは俺の魔法学の師匠のことだ。彼女は師匠の助手をしている。
「立派な角だな。傷付けないようにしないと師匠に怒られるね……」
俺の言葉にジェシカが苦笑する横で、ラミィがニヤけながら言う。
「ドロップ……武器だといいなぁ〜」
「ラミィって本当、武器愛が凄いわよね」
「また欲しい武器を想像して遠い世界に行ってる顔だな……。おい、ラミィ。帰ってこーい」
リアンがラミィの頬をつまむ。2人は幼なじみで、リアンは聖剣のメンテナンスをラミィ以外には頼まない。
アサシンで錬金術師でもあるラミィは、自分が使える小型武器のドロップをいつも楽しみにしているほか、中型以上の武器であっても普段の仕事(武器職人)の参考になるから大歓迎らしい。
武器全般の造詣が深い彼女は、まさに武器マニアって感じ! 日本刀とか見たら大興奮するだろうな。まあ、日本でも一般人が見られる代物じゃ無いけど。
――拳銃のこと……後でラミィに相談してみるかな。
っていうか、S級魔物を前にして、これだけマイペースな会話を繰り広げている俺達って一体……。
オリバーは既に結界を整え、リーダーのシュルツが呆れ気味に指揮を取る。
「そろそろ……カノア、頼む」
「了解です!」
一角猪は独特の動きで素早く移動するため、攻撃を命中させるのが難しい。
「《召喚》、マカナ!」
『ふニャッ……!?』
――可愛くパン咥えて出てきたッ……!!
「その甘いパン、最近食い過ぎ!」
『ニャ……にゃう……』
「ほら、さっさと食べて……一角猪を追い込むぞ」
『……りょっ、了解ニャ!』
俺とマカナが 従魔同体した直後――
突然ガバッと俺のリュックを開けたユリアは、「うるさーーい!」と怒鳴ってまたすぐ閉めた。
トーマスが中でじたばたと暴れていたのだろうか。普段のユリアからは想像できない強烈な姿に、俺は思わず吹き出してしまった。
そんなおかしなテンションのまま、俺は土壁を立てまくり、マカナの牧羊犬のような追い込みで一角猪を狭小空間へと誘い込んだ。
オリバーが足4本を《結糸》で押さえる。
「京香、あの角を綺麗なまま持ち帰りたいんだ。傷が付かないように、水で頭部を保護してくれないか」
「まかせて、お兄ちゃん!」
京香が水の塊をコントロールし、ジェシカが足の1本を呪いで弱らせてバランスを崩させると、オリバーは結糸を思い切り引いて、一角猪を横向きに倒した。
その腹に、エミリーが魔法矢を撃ち込む。
「ここが貴方の弱点でしょ?」
一角猪は煽るようなエミリーに苛立ちを見せる。腹部の痛みにもがいているが、絶命には程遠いだろう。
サイズはそれほど大きくなく、攻撃力もS級の下位だけど、異常なまでの生命力が一角猪をS級たらしめているのだ。
「ラミィ……皆に任せるしか無いのがもどかしいな。我々物理攻撃陣が関わると、角が変色してしまうからなぁ……」
シュルツがため息をつく。
「そうですねぇ〜。レインボー系素材の鮮度保持に、出血は御法度ですからねぇ〜」
「魚の血抜きは得意なんだが」
「シュルツさんのお魚料理、好きですよ〜」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「……あっ!」
「どうした? ラミィ」
「逆に、さっさと角だけ取っちゃえば良いんじゃないですかねぇ!!」
「はっ?」
次の瞬間、誰の目にも映らない速さで――
一角猪の角は、既にラミィの手の中にあった。