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ユーべ・ペリフという男

 騒ぎを聞き付けた他隊の魔導師や騎士団もやってきた。


 広場に遊びに来ていた人々の中にも冒険者や戦闘経験者が何人か居て、皆で協力して魔物を倒していく。


 ところで、さっきからリュックの中がうるさい。


 トーマスとガルクが目覚めたのだろう。


「ハァ……」


 激しい戦闘で揺れるリュックの中で酔われたら最悪だ。リュックごとユリアに預けよう……。


 最後まで皆を支えたいと決心してくれたユリアには、主に騎士団の後方支援をお願いした。


 俺は彼女にもシャオ達同様の加護を与え、この混乱の中で危険を感じたら俺の名を唱えるように伝えた。


 魔物達は大半がD級、たまにC級といったところで、倒すこと自体は容易だが、数が異常だ。最初に一斉に出てきたものだけでも50体を超え、倒せど倒せど次のが出てくる。


 俺達7人はそれぞれ5体ほどを瞬殺していき、他の皆も限界以上の力を出して懸命に戦ってくれている。


 ユーベはどうだろうかと彼の方をみると、何故か魔法を一切使わず、恍惚の表情で魔物を滅多刺しにしている。


 は? 何で魔導師が短剣オンリー? ってか、あんなヤバい顔で戦う奴、初めて見た……。いやもうアレ……戦闘狂とかいうレベルじゃなくて、何か……殺すことを楽しんでいるぐらいの――


 異様な様子にぞっとしていると、ユーベが魔物数体を一気に倒しながら物凄い勢いで近付いてきて、俺の目の前で止まった。


 リアンが俺の元へ来ようとしているが、魔物に囲まれた人々を勇者として救わぬ訳にはいかない。


 ユーベはニヤニヤしながら片膝を突く。


「お見掛けしたことはありますが、お話するのは初めてですね。こんなに近くで御尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。“ブラーヴ”様」


 コイツ……!!


「そんなに構えないでくださいよ。あっ、私の仲間からもご挨拶させてください」


 ユーベはそう言って、人形を1体呼んだ。


『カノア! ダメだ! 人形と握手をするな!!』


 オリバーの声とほぼ同時に、パーカッション役の人形が強引に俺の手を取る――


「……っ!?」


 とりあえず慌てて手を振りほどいたけど……


『どういうこと? 痛みとかは何も無いよ?』


『いや、攻撃されるとかでは無いんだ……』


 ほんの数秒しか握られていなかったが、どうやらユーベには十分な時間だったらしい。


 彼は、貴族然とした雰囲気を突然捨てた。


「へえー。まさかのアンタも? いいじゃん」


 ――!?


 俺達は周囲の魔物を倒しながら話を続ける。ユーベは相変わらず魔法を使わない。


 短剣を振り回しながら彼は言う。


「“あー、楽しすぎてヤベェわ。戦闘ってのは、やっぱこうじゃなきゃなァ”」


 なっ……!?


 今、日本語で話しやがった!! しかも何かガラ悪ッ!


 ……と言うか、間違いない。さっきのは『アンタも転生者?』って意味だ!


 まさか……俺の中の――


『あの人形達は、握手した相手のこの数時間の――』


『記憶を読まれた!?』


『うん……その通り』


『……犬だったお前が気付けてるか分からないけど、ユーベの前世も日本人だ。今、わざわざ日本語で話してきた』


『……ッ!?』


「なあ、黙ってっけど、理解してんだろ? 日本語」


 この人に……動揺を見せちゃダメだ。オリバーだって、そうしてる。


「“ええ。理解してますよ”」


 俺は冷静に、日本語で返した。


「“アンタ、中身の年齢は?”」


 中身? 涼太郎の?


「“26ですけど”」


「“ふーん。その可愛いらしい見た目の割に落ち着いてるもんなぁ。ま、どっちにしてもガキだけどな!”」


「“貴方は?”」


「“俺は45で死んだんだ。俺のこと、知りてぇか?”」


「“はい”」


「“侯爵家も魔導師もさ、やってらんねーんだわ。こんな真面目くさった生活! 俺はな、小さい組だったけど、ヤクザの幹部をしててよ”」


 ――やっ、ヤクザ!? じゃあ、あの拳銃の図はやっぱり……。もしアレが完成したら、この人は本当に使ってくるだろう。


「って、お前……ガキのくせにビビりもしねーし、つまんねーなぁ」


「家の都合ですか? 魔導師団に入ったのは」


「まあ、そうだな。うちは魔法使いの家系だからな。5年前までは……全ては家のためにと、周りから心配されるぐらい休まず真面目にやってたし、そんな生活に疑問も無かった」


「でも、思い出してしまったと――」


「ああ。ってか、見たんだろ? チャカの図」


「はい」


「魔法なんてファンタジーなもんは性に合わねえ。また、ドスとチャカで()りてぇんだ」


 だから、今も短剣で……。って言うか、そんな願望のために宝玉狐(ジェム・ルナ)達を――!


「……っ」


「全く罪悪感が無いとは言わねえ。だから、アイツらには手を出さねーよ。後は頼んだ」


 ユーベはシャオとシャルの方を見ながら言った。


「やっぱり貴方が父親なんですね」


「ああ。人間みたいに偽装してても、魔力で分かった」


「彼らの母親は?」


「アイツらを産んで、すぐ死んだよ」


「……っ……そう……ですか……」


「ハァ……。元ヤクザを前にしてヒビらねえのに、仲間の可哀想な話には動揺するのな。流石は心優しい――」


「黙れ」


 近くの魔物20体ぐらいが一気に消滅した。


 何も詠唱していないのに。


 俺の中の神力(しんりき)が暴走しかけている。


 一般人の避難は完了しているみたいで良かった――


「《 聖盾(ホーリー・シールド)》! ……ッ!!」


 騎士団に当たりそうになった所で、間一髪、リアンが間に入ってくれた。


 勇者スキルでも受けるのがキツそうだ。申し訳ないな……。


「異国語で……あなた方同士でしか分かり得ない話をしているようだったので、一歩引いて見ていましたが……いい加減、カノア様から離れてもらいましょうか! ユーべ・ペリフ!」


「はいはい、言われなくても。……ってかそろそろ魔力がヤバいから、召喚陣の方を解除して……転移陣を発動ッと!」


 短剣で戦って、魔力は召喚陣に全振りだったのか。そりゃ次々出てくるはずだ……。


 ってか、転移陣で逃げる気か!!


「残念、ハリス! お前には負けるけど、俺だって結界の研究者だぜ?」


「その指輪! 魔力()けのアーティファクトか!」


結糸(フィル)》を弾かれたのか……。数回繰り返せばアーティファクトは効力を失うけど、オリバーも魔力チャージが必要だろうし、もう間に合わない……。


「“じゃーな、涼太郎くん! 次会う時はマジでチャカぶっ放すから、準備しといてな!”」


「……っ! ユーベ!!」


 奴は転移陣の光の中へと姿を消した。


 最後にS級の魔物を残して――

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