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Reunion~俺達の物語が始まる~

「《回復(ヒール)》」――


 少女の体力が落ち着くのを待ち、出口を目指して歩き出した。


 耳と尾、髪の毛などは茶系で、瞳は黄緑だ。少年の方が全体的に少し明るい色味かな。今は全身汚れているけど、2人とも綺麗な顔立ちだと思う。身なりを整えたら、より一層アイツに似そうでちょっと怖いな……。


 今はまだ、詳しい身の上を語る気にはならないだろうけど、互いの自己紹介くらいは……いいよね?


「改めまして、俺は冒険者のカノア・ルフェで、彼はリアン・メナール。よろしく」


「「よろしくです……」」


「君達の名前は? 今いくつ?」


「僕はシャオで、妹はシャル。6歳だよ」


「双子、なのかな……?」


「うんっ!」


 満面の笑顔で答えるシャオ。隣でシャルもこくこく頷いている。


「仲が良いんだね。ここを出られたら、俺も双子の妹を紹介するよ」


「えっ」


「はっ!?」


 シャオとリアンがほぼ同時に驚きの声を上げた。


「カノア(にい)ちゃんも双子なんだ!」


「なっ、何を仰ってるんです!?」


「あー、えーと……」


 急に妹が出来たなんて説明するのは面倒だけど、やっぱり京香には『お兄ちゃん』って呼ばれたいしなー!


「リアンがここに来る前に、ちょっと色々あってさ……あははは……」


 苦笑いしながらも口元は緩む。


「……ん? 何だ、これ」


 俺は足元に落ちている1枚の紙を拾い上げた。


 関係者の落とし物か? だとしたら、超重要機密文書だよ……な……


 ――!?


 折り畳まれたその紙を開いた俺は、まさにそこに描かれているモノで脳天を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。


 拳銃の構造図……


 こんな武器、この世界には存在しない。


 ――俺達以外にも“転生者”が居る?


 想定外の状況に一瞬呼吸を忘れ、冷や汗が流れる。


 ……って言うか、銃の仕組みをこんなに詳しく知ってるって、一体どんな前世だったんだよ。いや、ネットでも調べられるんだろうけど、普通ここまで細かく描けるほど記憶してないだろ……


 恐怖に身を震わせながらも、俺は必死にその図を読み解く。


 薬莢(やっきょう)に詰まっているのは――火薬じゃなくて魔晶石の粒……?


 ――ま……さか…………


 横目でシャオとシャルを見遣る。


 目と鼻の奥がツンと痛い。目の前が滲んでいく……


 自分の子供達だから殺せなかったって言うんなら、まだ人の心は残ってるのか? いや……何考えてんだか分からなくて怖いよ…………


 震える俺の手をリアンがそっと包んだ。


「……っ……リアン……」


「深呼吸を」


 リアンに促され、ひとまず心を落ち着けようと、深く息を吸って吐いた。


「さあ、早くここを出ましょう」


「うん……」


 ◆◆


 それから先は特に何も起こらず、俺達は無事に地図の端まで歩き着いた。


 最後に階段を2階層上がると、錆びた鉄扉があった。これをオリバーから預かった鍵で開ければ、トリアド地下迷宮の外に出られるらしい。通常の出入り口とは真逆の位置っぽいな。


 出られたところで物語は始まったばかりなんだろうけど……まあ、とりあえず――


「やっと出られる……」


「ご無事で本当に本当に良かったです。では、開けますね」


「ああ、頼む」


 カチャン――


 扉が開き、光が射し込んだ。


「「わああっ!」」


 外に出たシャオとシャルが周囲を見渡して目を輝かせている。


(リアンは号泣しながら俺を抱きしめている。く、苦しい……)


 2人にとって、一体どれくらい振りの外の世界なのだろう。彼らを助けられたことは心から良かったと思っている。


 しかし、それにしても――今日は酷い日だ。


 短時間で情報量が多すぎる。普通の16歳だったら、こんなの受け止めきれないだろ……。前世を思い出して26歳の経験値を得てからで本当に良かった。


 アンク王弟殿下とユーべ・ペリフ。一体どちらが首謀者で、そもそも彼らの目的は同じなのか? 他に仲間は居るのか、転生者は誰なのか――


 まだ何一つ分かっちゃいなくて、闇は深そうだけど……とりあえず神力を守り抜けたことは余りにも大きく、麦には感謝しか無い。


「本当にありがとう、麦……」


 真っ先に(オリバー)を召喚して思いを伝えると、彼の頬に涙がつたう。


「あの人達を欺く為とは言え、勝手に動いて本当にごめんね。4人とも無事に出られて良かった」


「オリバー(にい)ちゃんがお空から出てきた……」


 目を丸くするシャオにオリバーは優しげに微笑むと、俺に愛くるしい笑顔を向けた。


「ご主人様っ、あのね……あの頃の恩は今も忘れていないし、一緒に走り回って遊んだ思い出は、生まれ変わっても永遠に色褪せないよ。この世界でもずっと一緒に居たい!」


「麦ッ……」


「あのー、カノア様。“ムギ”とは何なんでしょう?」


「麦は……オリバーの前世での名前だ。俺達は前世からずっと一緒で、とても遠い世界から来たんだ」


「ぜっ、ぜん……せ……!?」


 声を上擦(うわず)らせるリアンに追い討ちを掛けるように、俺は「もう1人紹介させて欲しい」と京香を召喚した。


「もぉー、お兄ちゃん! やっと()んでくれたー!」


「えーと…………コチラガイモウトサンデスカ?」


 リアンの奴、心を無にしやがったな……。まあ、無理も無いか。


「ああ。彼女は俺の前世の双子の妹で、名前は京香。違う世界の名前だから発音しにくいかな……。ちなみに麦は、俺達の家で飼っていた犬だよ」


「前世の妹と飼い犬……」


 リアンは頭を抱え、シャオとシャルも唖然としている。


「理解を超える、現実味の無い話をしてごめんだけど……リアンに話せて良かった」


「カノア様……」


「てか、リアンが突然『我が(あるじ)』って言ってきた時さ……俺だって似たような感情だったよ。『何言ってんだ、コイツ』って」


「ハハハ……そうですよね……」


 俺の話にリアンが苦笑いする横で、京香がキョロキョロしながら動き回っている。


「ねえ、お兄ちゃん! ここって迷宮の外!? もう出られたの!?」


「ああ。ついさっき脱出した」


「むー! 私、出番無かったじゃん……」


 京香は不満そうに俺をポカポカと叩く。


「ごめんごめん。これから魔物退治をしに行くから、頼りにしてるぞ」


「えっ、魔物退治!? うん! 私、頑張る!」


「あのっ……京香(ねえ)……」


 意気込む京香に、オリバーがおずおずと話し掛けた。


 京香姉!? まさかの呼び方で、ヤバい、笑っちゃいそう!


 そっかー、麦は自分のことを末っ子だと思ってたのかぁー。俺達が小1の時に子犬だった麦を飼い始めたから……まあ、そうなるのか? あーあ、俺も涼兄(りょうにい)とかって呼ばれたかったなー。


「京香姉と涼兄(りょうにい)が無事に再会出来て良かったです」


 あっ……! 間接的だけど、呼ばれたー!


「うん、ありがと。時々あの部屋の様子を見に来てくれてた貴方は……麦だったんだね。麦との再会も嬉しいよ」


 京香はオリバーを見つめて静かに涙を流した。


 オリバーの奴……もしかして……京香って分かってて保護してくれてたのか?


「これから京香姉と一緒に冒険できるなんて夢みたい!」


「私もだよ、麦」


 段ボールの中で震えていた麦を見つけ、飼いたいと願ったのは京香だ。そんな京香の為に両親は麦を引き取る決心をしたけど、彼女の体調を考えて接触は最低限だったし、一緒に走り回ったことなんて無い。


 ……それがやっと叶うんだな――


 前世に思いを馳せて感傷に浸っていると、ハッとしたオリバーが慌てて俺の手を掴んだ。


「もうすぐ日が落ちる!! アンク様が予定通りに力を手に入れられるかどうかなんて、もともと団長には関係ないんだ! あの人は根っからの戦闘狂で、破滅的な状況が好きなんだ!」


「……っ……それって! 自ら撒き散らした魔物とのバトルを楽しめれば、街に被害が出ようが関係無いってことか!?」


「うん……。急がないと!」


「瞬間移動する! オリバー、頼む! 力をっ!」


「いちいち断らなくて良いって。これはカノアの力なんだから」


「ありがとう。――《 従魔同体(シンク)》!」


 さて……この人数でいきなり移動しても目立たない王都周辺の場所は――


 トフユナの森!!


 ――あのS級魔物・ 四眼象(シーグア)を倒した森だ。


 俺はオリバーの手を取ると、皆も輪になって手を繋いで欲しいと伝えた。


「行くよ! 《神の呼吸(ディア・スフル)――『転移(テレトラ)』》!」

第10話をご覧いただき、ありがとうございます。

ご興味ございましたら、星マーク⭐︎から評価をいただけますと大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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