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お嬢様は言葉にうるさい!  作者: はるか
第2部 護衛騎士、素性がばれる
32/42

十、 なんでばれてるのー

「皇太子殿下、勝利おめでとうございます!」


 道の向かいの女性も、声を張り上げた。


「皇太子殿下!」


 周りの人々も、口々に叫び始めた。

 あちこちから、いろとりどりの花びらが舞う。


 皇太子殿下。

 つまり、俺の兄上。

 兄上が、来る。


「レオン、皇太子殿下って、帝国の皇太子殿下、よね?」


「え、はい、そう、ですね……」


 いきなりのことに、ぎこちなくなってしまった。

 どうしよう。

 こんな形で再会することになるとは。


「皇太子殿下、無事のご帰還、おめでとうございます!」


「勝利をありがとうございます!」


「皇太子殿下、万歳!」


「皇太子殿下!」


 こんなにも人気だとは。

 歓声が大きくなってきたことで、凱旋パレードが近付いてきたことがわかる。


「レオン、見て! 先頭が見えてきたわ」


 シーナさんが指さす方向に、見えた。

 リホン国では毎日鏡で見ていた、俺と同じ色の髪色。

 青みがかった白髪。

 豪奢に着飾った白馬に乗り、ゆっくりと近付いてくる。

 「白悪魔」の名にふさわしい、圧倒的な存在感。

 蘭々とした、瞳。


 シーナさんと俺の前を、騎士達が通り過ぎる。

 頭をたれながら、感じる。

 これは、これはまさに、覚えのある兄上の気配。


 そんなことより、どうしよう。

 シーナさんも、兄上の容姿を見たはずだ。

 足元に落ちた花びらが、風に吹かれてそろりと動く。


 ラッパの音や音楽が遠くなる。

 パレードが、通り過ぎていく。

 周りは歓喜の声であふれているけれど、俺の額には脂汗がにじんでいた。

 兄上とは、こんな形で顔を合わせたくない。

 目も、合わせたくない。

 視線が合ったところで、兄上は俺に気づくことはないだろうけれど。

 頭を下げていれば、このミルクチョコレート色の髪が目立つことはないだろう。

 とはいえ、今回は俺が見つからなくても、シーナさんは見るのだ。

 兄上の姿を、顔を。

 あぁ、これで見つかってしまう。

 気付かれてしまう。


「レオン……」


やっと長い行列が過ぎ、俺達は顔を上げる。



「皇太子殿下って、めちゃくちゃかっこいいね……」


 って、えっ?


「えっ、そこですか?」


「そこ以外、何かある?」


 シーナさん、もしかして、皇太子と俺の共通点に気がついてない?


「えーっと……。シーナさんって、領主様がお好きだったんじゃ……」


「えっ⁉」


 顔を真っ赤にするシーナさん。


「なんでばれてるのー」


 ばれてないと、思ってたのか。


「見てればわかりますよ」


 そんなに顔を隠しても、気持ちは隠せてませんよ。


「お嬢様には、内緒にしてくださいね。あこがれてるだけなんですから―」


 パレードが遠くなり、人がばらけていく。

 ホッと息をつき、空を見上げた。

 今日は、風がない。


「わかってますよ。それでは、帰りましょうか」


 シーナさんはまだ顔を赤らめながら、少しムスッとし、うなずいた。


「そういえば、皇太子殿下の御髪の色、レオンの元の色と同じできれいだったわね」


 動揺を隠すように、俺は笑顔を見せる。


「光栄なことに、そうでしたね」


 背筋が、冷たくなった。


「レオンの髪色って、珍しいんじゃないの? もしかして、レオンは皇族の遠い親戚だったりしてっ!」


 楽しそうに笑い返してくれるシーナさん。


「そうだったらよかったんですけどね」


 遠い親戚どころか、俺は血だけはがっつり色濃い皇族だ。


「だから、レオンは帝国に来てから染めたのね。皇太子殿下と同じ髪色だなんて、誰にやっかまれるかわからないしね」


「ですよね」


 シーナさんは、ラリサお嬢様に今日見たことを話すだろうか。

 ……話すだろうな。

 とはいえ、お嬢様も、今、何か問題が起こっているわけではないのだから、聞き流してくれる……だろう。ただわかることは、ラリサお嬢様なら、気には留めなくとも忘れはしてくれない、ということだ。



 それから数日後、俺の社交界デビューが決まった。

 明確に言うならば、ラリサお嬢様のエスコート役として選ばれたのだ。


「レオン、いいのか?」


 ダニーはお嬢様やシーナさんの前で、俺に念を押す。

 例え嫌だったとしても、言えないのをわかっていて言ってるだろ。


「ラリサお嬢様が望まれるなら、喜んでお引き受けいたします」


 ラリサお嬢様は、リホン王国ではまだ社交界デビューしていなかった。

 いつかデビューする日が来たら、エスコートは王太子がしたことだろう。お嬢様と王太子の婚約はリホンの貴族なら誰もが知っていることではあったが、二人そろって公の場に出れば、それが確固たるものになる。


 その日を想うだけで、俺は安易な気持ちしか生み出せなかった。

 悲しい。

 寂しい。

 悔しい。

 切ない。

 と思うのに、ラリサお嬢様が笑顔で幸せになってくださるなら、それでいい。というのも願いだった。

 子どもでもかんたんに表現できるような感情の名前を連ねたら、こんなに複雑で、死ぬまで癒えそうもない気持ちになるなんて、これまで読んだ本にも、師とも言えるお嬢様の兄、セドリック様にも教わったことはなかった。


 そんな気持ちが幾分薄れる事態になるなんて、人生何が起こるかわからないものだな。

 しかも、社交界デビューのエスコートに俺が選ばれるなんて。

 嬉しいことは嬉しいが、急なことに頭と心がついていかない。


 ダニーの言った「いいのか」は、おそらく「おまえの素性がばれるリスクが数段上がるが、いいのか?」だろう。

 けれど、しかたない。

 お嬢様がのぞんでくださったんだから。

 あくまでもエスコート役なのだから、最低限の挨拶をして笑みを浮かべ、目立たないようにしていればいい。髪は根本まできちんと染め直し、瞳は……目を合わせないようにすればなんとでもなるだろう。

 と言いつつも、少しばかり不安はある。

 宝姫そっくりのラリサお嬢様が、俺の美しいラリサお嬢様が、注目されないはずないのだ。


 さぁ、どうしようか。

 ダニーはお嬢様と、社交界デビューに向けての準備について話しこんでいる。

 じっと見ていると、ほんの一瞬だけ、ダニーの視線が飛んできた。

 ……笑いやがった。

 やられた。

 俺の社交界デビューは、ダニーの計画のうち、ということだ。

 俺に、これからの敵を感じてこい、知ってこい、ということだろうか。



 それから俺とラリサお嬢様は、ダニーのタウンハウスでダンスのレッスンを始めた。

 主に、俺のレッスンだ。

 お嬢様は、学園でダンス同好会に入っていたこともあり、完璧だった。

 どうせお嬢様と踊ることは一生ないと思っていたこともあり、今までダンスの練習を疎かにしてきたことが悔やまれる。


「レオン、上手じゃない」


 こうして共に踊ったことは何度かあったが、その時の背丈は二人とも同じくらいだった。


「ラリサお嬢様、今はレッスンですよ。お世辞を言ってくださっても意味がありません」


 今は、お嬢様の顔が俺の胸の位置にある。


「もちろん、オスカー様……」


 久々に聞く、王太子の名前。

 王太子と比べると、俺は劣ると言いたいのかもしれない。

 けれど、聞かなかったことにする方がいい。

 ラリサお嬢様も、うつむいてしまった。


「ラリサお嬢様?」


 少しだけ、つないだ手に力をこめる。


「ううん。何でもないの」


 今、手を握っているのは俺なのに。

 今、腰に手を回しているのは俺なのに。


「ラリサお嬢様」


 まだ、お嬢様の元婚約者の影が消えてくれない。


「なぁに?」


 まだ、お嬢様は忘れてくれない。


「本当はもう少しだけうまく踊れるんですよ、僕」


 一途なところも、ラリサお嬢様の魅力ではあるけれど。


「そうなの? じゃあ、どうして……」


 少しだけ、見ているシーナさんにばれないようにそっと、お嬢様に顔を寄せ、耳元で囁く。


「お嬢様と踊ると、緊張してしまいまして」


 これは、本当だ。


「えっ、そうなの?」


 俺に向かって、小首をあげる、ラリサお嬢様。

 こっちから近付けたというのに、キスできそうなほど顔が近くて顔が熱くなる。


「だから、たくさん練習させてください。お付き合いくださいますか?」


 ラリサお嬢様の腰に回した手に、少しだけ力をこめる。


「も、もちろんよ」


 ラリサお嬢様が、パッと顔を離す。

 少しでも、少しだけでも、俺を意識してほしい。

 おだやかに、俺の気持ちを知って驚いてほしい。

 ラリサお嬢様、一途なあなたをずっと見ている一途な男が、ここにおります。


「レオン、なぁに。そんなに笑って」


 そりゃ、笑いたくもなりますよ。

 こんなにあなたの近くにいられるんですから。


「いえ、楽しいなって思いまして」


「えぇ、そうね。すっごく楽しい!」


 満面の笑みのお嬢様。

 もうこれは、俺にとってはレッスンじゃないな。

 俺にとっては、立派なデートだ。


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