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お嬢様は言葉にうるさい!  作者: はるか
第1部 お嬢様、漁船に乗る
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side シーナ : もうすぐ初めての夏

ブリンス帝国に来て、もうすぐ初めての夏が押し寄せていた。


今日はいつもより装いに気を遣って、領主邸に一人で来ている。

なぜかって?

もちろん私が、ラリサお嬢様の有能な侍女、そして右腕だからよ。


私としては、せっかく妃教育やらの煩わしいことから離れられたんだから、ラリサお嬢様にはゆっくりまったり静かに、時にはっちゃけて過ごしていただきたかった。移住というよりは、しばらくはバカンス気分でいてほしいくらい。

でも、ラリサお嬢様の魅力がそれを許さないんだから仕方ない。

ブリンス帝国での生活の当面の方針が、あれよあれよと決まっちゃったのだ。


それは、ラリサお嬢様が語学を教えること。


お嬢様も、


「まさか、ここで妃教育が役に立つなんてね。無駄なことって、人生にないものね」


などとおっしゃっていた。


王太子に裏切られたのに、妃教育にかけた膨大な時間と労力が無駄にならなかったなんてね。

それもこれも、ラリサお嬢様が真摯に妃教育と向き合ってきた成果よね。私はずっと傍でそれをお見守りしてきたのだ。


ラリサお嬢様は、どうやら語学教室を開くご様子。

そこで、敏腕侍女の私は、この帝国での語学教室の開き方と言いますか……手続きを調べようと思ったわけなのです。


まずは、役所へ。

どうすればいいかうかがってみましたが、このベリーでは語学を習うなら家庭教師が一般的らしく、語学教室はないんだとか。

確かに、語学を習うなんて経済的に余裕のある家の者ぐらいだろうし、うなずける。


「領主邸のガスパル様にご相談してはいかがでしょう?」


私が以前、領主様と伴って身分証発行のために訪れたことを覚えてらっしゃった役人の方は、そう言ってニッコリ笑った。

これは……やっかいそうだと思われてしまったみたいね。


というわけで、領主邸にやってきたのだ。

ガスパル様というのは、領主邸の執事長だそう。


本当は、ラリサお嬢様が知らないうちに全てを整えておきたかったのだけれど、こればかりはどうすることもできず、私はお嬢様に領主様宛に一筆書いていただいた。ガスパル様をご紹介いただきたい旨を。


「シーナ嬢ちゃん、来たな」


領主邸の門をくぐってしばらく歩き、使用人用の玄関に向かおうとしたら、遠く離れた野菜畑から、声が。


もしかしなくても、領主様!?


なんで手ぬぐいを首にかけて、つなぎを着て布袋を持ってるんですか!?


「何をなさってるんですー?」


聞かなくてもわかることを聞いてしまった。


大領主が農作業。

でも、なぜだか驚かない私。

初対面が、漁船の上で、船長としての会っていたからかもしれない。

笑顔が、まぶしいなぁ。


「トウモロコシ、でっかく育ったんだよ!」


領主様が、重そうな布袋を背負いながら近付いてきた。


「帰りに持っていけ。うまいぞ」


なんだか笑いが込み上げてきた。

我慢しなきゃ。

我慢しなきゃなんないのに、もう、無理。


「そんなににやけて、どうした。トウモロコシ、好物なのか?」


なんとか笑うのを抑えるため、私は何度も首を縦に振る。


その時、背後から声がした。


「ダニエル様、あなたはまたそんな!」


見るからに執事といった格好の男性が、走り寄る。領主様ががっしりした体格だからか、とても細身に見える。木登りする子を見る母親のような目だ。


「ガスパル、ちょうどおまえを呼ぶとこだったんだ」


「お客様、いらっしゃいませ」


ハシバミ色の瞳が、私を見据え、すぐに執事の顔になった。あわてて私もお辞儀する。あ、いつもの癖でリホン式でしちゃった。


「シーナ・サーマンと申します。今日はご相談したいことがあり、まいりました」


取り繕うように笑顔を見せてみる。

見慣れない礼のせいか、ガスパル様は一瞬戸惑ったようだ。まばたきの後、領主様と視線を合わせている。


「ガスパル、大切な客人だ。頼んだぞ」


「かしこまりました」


領主様が、また畑の方へ戻っていく。

今日はいつものダークブラウンの髪を、一つに結っているのが見えた。


「シーナ様」


「は、はい」


この方が、執事長のガスパル様だったのね。

勝手に年配の人を想像してたから、しげしげと見つめてしまった。領主様より少し年上くらいだろうか。



「応接室にご案内します」


「よ、よろしくお願いします」


なのに、ガスパル様はこちらをじっと見るばかりで動かない。


「ガスパル……様?」


「あ、いえ、あの」


「どうかなさいましたか?」


「シーナ様の御髪が、とてもきれいだなと……あ、いや、失礼いたしました」


クルリとこちらに背を向け、歩き出すガスパル様。


私の赤い髪がきれいだなんて。

そんなこと言われたの、初めて。

これも文化のちがいだから?

リホン王国では近所の子どもに「トマトみたい」だなんて言われて地味に傷付いたこともあったのに。


なにんにしろ私の顔は、今きっと髪のように赤くなってることまちがいなしだった。


熱くなる頬をおさえながら、私は彼についていった。

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