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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第六章・空前絶後のォォォ! 全員集合!
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第六章・空前絶後のォォォ! 全員集合!/3

 ───そのとき、茶の間の入り口で別の声がした。


 「まったくですね!」


 相変わらずよれよれの背広で、甲高い神経質な声を発しながら現れたのは、大檜市地域振興課課長の竹森である。その後ろには、ゆかりがほくそ笑みながら控えていた。


 「IR法におけるカジノは、自治体が民間業者を入札で選定するんです。選ぶのは我々です。わ・れ・わ・れ・が、権力者なのです!」


 「いや自治体ったって、重要なのは議会の承認であって、役所の課長がどうこうする話じゃ───」


 テツのツッコミも聞く耳持たず、竹森はまくし立てた。ゆかりは掃き出し窓に背をもたせかけて、彼が能書きを並べるにまかせている。


 「なのに、そっちで勝手に藤倉興業かタチバナシステムに決めてしまうかのような物言いは、慎んでもらいたいですな! それぞれの、ご提案を、私がゆーっくり吟味して、吟味して、袖の下からなーんか出てくるまでゆーっくり吟味して、そうしてわーたーしーが、決めるものなんですよ!」


 ひとしきり言い募ると、竹森はずかずかと座敷に上がり込み、みゆきの隣にささっと座り込んだ。そして何かを待ち始めた。しかし何も出てこないので、不思議そうに首を傾げた。


 「グラスは……」


 「要るかそんなもの」みゆきが怪訝な顔をした。


 「お酌は……」竹森はみゆきににやにや笑いかけた。


 「なんだおまえ気色悪い! ───ゆかりさぁん、なんなのコイツ!」みゆきの訴えを聞いてか聞かずか、窓際のゆかりは肩をすくめるばかりだった。当然ながら、在校年次は重ならないものの、ゆかりとみゆきは先輩後輩の間柄で、子供の頃からの知己である。ヤクザの仕切っていた町であるから当然に若年層の女愚連隊、いわゆるレディース集団が存在し、誰が君臨してたかって、そりゃ語るまでもないだろう。


 竹森は結局、つまらなそうに自分でビール缶を手に取って、プルタブを起こした。とはいえ、そこにあるものはすべて自分のものという認識で、テツにもみゆきにも了解など取らなかった。


 ちろり一口で耳まで真っ赤にすると、竹森の舌の回転速度はさらに上がった。


 「土地建物の所有権やカジノの施行権だけでなく、運営自体も公社なり第三セクターなりで自治体が引き受ける方式だって、研究は進んでるんですよ。その方が収益がダイレクトに市に入りますからね。その研究事例に乗っかる方が、コッチとしてはラクなんですよねぇぇぇ」


 「このご時世に、営利事業をハナっから役所が持ってくってか。民業圧迫だそりゃあ」テツがどうにか口を挟んだが、


 「知ったことかー! 役人だってカネ欲しいんじゃー! 面倒ごとや苦情ばっかり持ってきやがって、見返りなきゃやってられっかー!」


 口角泡を飛ばす竹森は、良くも悪くも、欲望に忠実な輩であった。否、公務員なんだから〝良くも悪くも〟でなくて全部悪いのだが、藤倉一家はその悪徳な欲を断罪できる立場にない。テツは、ニヤニヤしているゆかりを睨みつけた。うまいこと煽り立てやがったな、くそぅ。我が孫ながら実に悪知恵が働く。藤倉家を出て独立したい気持ちは知っていたが、まさかこういう手で来るとは!


 ゆかりはゆかりで、自分がいかに生き抜くか、ソロバンを弾いた結果の参戦だ。彼女は企業としての藤倉を信用していない。家族としての心情はあれど、それはそれこれはこれ。カジノを仕切り、金を稼ぐ手管を自分の手中に収めるのだ。もしかしたら、大富豪とおつきあいするチャンスも巡ってくるかもしれぬ。そのためにはまず、このアホ課長を気分良く舞い上がらせておくことだ。


 「ま、私らも、市の発展に貢献してきた両社を敵に回したくはない」利用されているとはつゆも思わぬ竹森が、偉そうな態度で言葉を続けた。「このバクチで後腐れなく決めるって話なら、市役所も参加させてもらいたいってだけですよ。私らが勝ったらカジノは市が運営します。しかし負けた場合は、勝ったところを指定業者に選定するよう議会に提言すると約束しますよ。仲良くやっていこうじゃないですか」


 なるほど、と再びテツは頷いた。


 手もみしながら言う竹森の〝仲良く〟が何を意味しているかはともかく、面構えは全然違っても、話の要点は神社も役所も同じだった。藤倉一家・タチバナシステムの立場とも合致する。みなカジノ自体には大賛成で、その実利を最もおいしくいただけるところに我が身を置かせろ、と言っているのだ。


 「だがお前ら、バクチなんてやるのか。何も知らん素人が、鉄火場で俺らと張り合おうてんなら、ずいぶん人をナメた話じゃねぇかい」


 主導権を取り戻そうと、テツが肘をぐっと突き出して少しばかり凄んで見せると、竹森はひっと背筋を伸ばしたが、みゆきには通じなかった。


 「無理すんなご老体。こないだの大立ち回りじゃあ、すぐ息切らしてたくせにさ」松鶴堂の顛末をどこで知ったのだか、からかうように、ビール缶の底で肘をヒンヤリ突いて返す。「聞いたところじゃ、ポーカーの勝負ってのは長い時間がかかるっていうじゃないか。朝から晩までやって、日をまたぐのもあるんだって? それはしんどかろう」


 ポーカーのトーナメントが長時間にわたることは既に述べたとおりだ。数人だけが参加の小さな勝負だとしても、決着までに数時間はかかると見積もってスケジュールを組むのが普通だ。その間のコンディションの維持も、勝敗を分ける重要な要素となる。


 「だから、縁戚にある家族(・・)なら誰を立ててもいい、って条件はどうよ。あたしは直接参加しないが、身内から見繕って選手を決める。爺さんは、疲れたら家族の誰かと交代すりゃあいい」


 「わ、私もそれでかまいません、というかそのつもりでした」竹森も応じた。「代わりに出てくれる親戚に、心当たりがあるんです」


 「なるほど、家族なら代理を立ててよし、交代してもよし、か……」


 テツは、子、孫、曾孫と、藤倉家の面々の顔を思い浮かべた。自分以外は、バクチとは無縁に生きてきている。


 今回のバクチは、自分のワガママだ、家族を盾にしたくはない。しかし体力勝負では分が悪いのも確かだ。交代という手段を封じて、わざわざ不利になりに行くのは悪手に思える。


 ふむ、とテツは腕を組んだ。この期に及んで、どう立ち回るべきか。


 欽太に見せられた覚書の草案を思い出す。勝者が初代社長の座に就くのだ。もともと、〝どちらが勝っても〟カジノができて大檜は潤う、という話だった。それが、〝四人のうち誰が勝っても〟に変わるだけ、と言えなくもない。なら、問題はない……か?


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