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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第五章・あたりまえだのやばたにえん
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第五章・あたりまえだのやばたにえん / 12

 ちょうどその頃、ジョーに煽られてキレた名桑が、ついに殴りかかった。


 ジョーがひょいとその腕をかわしたところを、アリエスの後ろ姿を見送るように見つめていた、つまり少し離れて逆を向いていたテツが、振り向きざま腰を下げてバットで足を払う。名桑はもんどり打って鼻っつらから転んだ。


 奇襲に顔をしかめながらも、素早く跳ね起き、追撃を許さないあたりはケンカ慣れしている。素早く構えを立て直し、そして止まったままのバンに向かって叫んだ。


 「オマエラも出てこい!」


 残っていたふたりの作業着姿の男のうち、まず運転手役の男が下りてきて構えを取った。スマホ持ちの男は今度は電話でどこかへ連絡しているようだったが、やがてスマホを車内へ放り投げ、戦列に加わった。


 二対三か、とテツが思ったところへ───ケイワイ工務店のステッカーが貼られたバンがもう一台現れ、彼らのいる松鶴堂向かいの更地に飛び込んできたかと思うや、中から三人の男がてんでに飛び下りてきた。どうやら、複数の部隊がいて別々に仕事をしていたものが、先のスマホ男の連絡で参集したらしい。何の用途で準備していたのか、てんでに鉄パイプを持っている。


 ケンカに限らず、勝負事の鉄則のひとつは、数の優位を取れるならば取ることだ。二対六となるとさすがに劣勢だ。


 チッ、と舌を打ちつつ、テツとジョーは互いの背中を合わせた。着流し姿のテツがバットを構え、白スーツのジョーは両手に銀玉鉄砲を構える。かつては敵同士向かい合ったふたりが、今は背中を預け合う。一瞬、映画のポスターにでもなりそうなキリッとした立ち姿を見せて───。


 「よかた相手に後れをとりゃあしないだろうな?」


 「そこまでなまっちゃいねぇ。昔取った杵柄ってヤツよ」


 それから、それぞれ三人ずつを相手に、立ち回りを始めた。




 数の優位を取るのが鉄則ならば、数に劣る側は、優位を取らせぬよう、分散を試みるのもまた鉄則だ。


 しかるに、寄せ手のチンピラが三人まとめて突っ込んで来るのを見たジョーは、両手に持つ銀玉鉄砲を突きつけた。銃口を向けられたふたりが、すわ本物かと怯んで足を止めたところ、残るひとりの突進をさばいて首っ玉を抱え込み、───決してマネしてはいけません! ───銃口を眼球に押しつけて引き金を引いた。オモチャの威力とはいえ、これはたまらない。顔を押さえてのたうち回る男のケツを蹴飛ばし、崖際の金網柵へ叩きつけると、老朽化していた柵はぐにゃりとへし曲がり、あわれ男は崖下へ滑り落ちていった。


 実弾ではないと悟って再び突っ込んできたふたりのうちひとりに、二丁拳銃で引き金を弾きまくって銀玉を残らず撃ち尽くし───顔に連打されればさすがに行き足が鈍るので、もうひとりが鉄パイプを振り上げ振り下ろすところを、銃身をクロスさせて受け止めた。柔いプラスチック製の銃身は脆くも砕けたが勢いは削ぎ、逆にかち上げてから鳩尾に蹴りを入れて膝をつかせる。一対一ならなんとでもなる、前髪に絡んだ銀玉を払いのけようとしている残るひとりの顔面に、思い切りパンチを見舞った。


 テツにも、名桑を含めた三人が迫る。鉄パイプ持ちがふたりいて、ひとりが名桑にそれを手渡した。


 三人は目配せし合い、いっせいに襲いかかった……つもりであったろうが、呼吸読みの達人・人斬りのテツの前には、バラバラの単調な動きに過ぎなかった。


 パイプを持たぬひとりが羽交い締めを狙って背後に回ろうとしたので、まずはその動きの重心を見切ってバットの先で突く。相手はバランスを崩して大げさに転び、壊れた柵からやはり崖下へ滑り落ちていった。


 そのままバットを振り回し、襲ってきたもうひとりの鉄パイプを跳ね上げて弾き飛ばすと、最後の名桑の鉄パイプ攻撃をがっと受け止めた。一瞬つばぜり合いの形となり、ふたりは睨み合った、が、鉄パイプと木製バットではそりゃあ滑るに決まっている。少し力を緩めただけで名桑はバランスを崩し、その腰を軽く突いてやると、先に襲ってきた男とぶつかって絡まり合うように倒れた。




 かくしてテツとジョーは、昔の杵柄振り回し、襲ってきたチンピラどもに見事一太刀浴びせたわけだが、何しろ古希の打撃であるから、確実に仕留めるには到らない。若者の耐久力を甘く見ていた。加えて「そのジジィぶっ倒したらボーナスくれてやる!」と名桑が叫んだ日には戦意も衰えず、時代劇の斬られ役のごとく何度も立ち上がってきてキリがない。崖から落ちたはずの連中も這い上がってきて、泥まみれの腕を振り回す始末。何事もカッコよくはまとまらぬものだ。


 夏の暑さが堪える。手足が思うように動かなくなってくる。汗だくのへろへろになりながらの組んず解れつ、いったい何分経過したろうか───加勢が来るまで必死に持ちこたえんとするテツとジョーの前に、絶望的な光景が飛び込んできた。


 すなわち、先に増援が到着したのは小金山商事の方だった。バンにいたスマホ男はどこへどれだけ連絡していたのか───車が次々と更地に入ってきて、若い半グレどもがワラワラと飛び降りてくるではないか。テツとジョーはたちまち取り囲まれてしまった。


 ───万事、休すか。


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