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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第五章・あたりまえだのやばたにえん
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第五章・あたりまえだのやばたにえん / 6 (ポーカープレイシーン有)

 数日が過ぎて、再び藤倉邸。


 土曜日の朝だった。道場での特訓で、ついにアリエスがテツから一本を取った。


 ライブポーカーでおっさんどもに揉まれたことが効いたのか、アリエスの呼吸を鎮め操る技術は、格段に向上していた。意図的に不自然な呼吸を混ぜながら、テツとの間合いを詰め、しかし仕掛ける直前の呼吸は、普段の呼吸となんら変わらなかった───テツは完全に虚を突かれ、突きを手の甲に受けた。


 「やった……!」


 「うん、合格だ。たいしたもんだ」


 テツは、手の痛みがまるで快いかのように顔をほころばせた。弟子の上達は、素直に嬉しいものだ。


 「合格したら、次は何する?」アリエスは前のめりに尋ねた。


 「……おまえさん、別に武道そのものを習いに来たわけじゃなかろう」


 テツはやおら竹光を床の間に戻すとその代わりに、違い棚に置いてあった文箱から、いつかアリエスに要らないと言われた〝BICYCLE〟の箱───一揃えのトランプを持ち出した。ふっくらと陽光を吸った座布団と合わせて、窓辺の、直射日光が当たらないほどの場所に置く。それから、ひんやりとした籐茣蓙(とうござ)を二枚並べる。


 ふたりは、座布団をはさんで向かい合い、籐茣蓙にあぐらを組んだ。


 「今のがポーカーでできなきゃ、なんにもならんだろ?」


 「できるかな」


 「できるさ。動きながら呼吸の調節ができたんだ、座ってできんはずがねぇやな───俺も、ポーカー(こっち)の腕がどれだけ上がったか、ちょいと試したかったとこだ」


 床にすべてのカードをぶちまけ、しゃかしゃかと混ぜ合わせる。それを素早くひとつにまとめ、幾度かカットする。爺さん手際いいなとアリエスは驚いたが、花札で鍛えたとは知る由もない。


 「チップどうすんの?」


 アリエスが尋ねると、テツは何やらずっしり詰まった革財布を投げ渡した。開けてみると、……渋沢栄一氏がずらり鎮座してござる。


 「ちょ……」


 さすがのアリエスも色をなした。


 「うちにはチップなんてシャレたもんはねぇんだよ。本当なら、てめぇの懐を痛めねぇバクチなんざ面白くねぇから、そいつは〝貸し〟ってことにしときたいんだが……」テツは不満げに言葉を切った。「シトラスのトッププレイヤーしかも未成年を、賭博でしょっぴかれてはかなわんと光恵がうるさくてな。あくまでチップの代わりだ。今日の一勝負を終えたら回収するから、ちょろまかすなよ」


 「……まぁ、シトラスのチップの画像(グラ)には〝$〟って描いてあるから、普段から一万$単位で動かしてるっていえばそうなんだけど……」


 「やっぱり現生は違うだろ。俺はこうでないと気分が出ねぇ。……いいか、札一〇枚ずつ束ねるんだ。ズクといってな、それがミニマム・ベットの世界がある」


 アリエスは、どうにもドキドキしてしまう札束の重みを、何度も深呼吸してこらえた。


 「……うん、それでもあたし、呼吸を乱しちゃダメなんだ。動じずにできるようにならなきゃ。これも、メンタルの修行と思うことにする」


 スモールブラインド一万円、ビッグブラインド二万円でヘッズアップが始まった。


 畳の上のポーカーだ。二枚の手札は手に持った。交互にディーラーとなり、シャッフルして手札を配る。ボードは座布団の上に並べ、賭けるとなれば、ズクをつかんで放り出す。


 アリエスは、アプリ画面にもライブ配信映像にもない、想像もしなかったポーカーのやり方───というより、こうも無造作にお金を扱う初めての経験にシビレた。本当ならこのお金は、負けたら失って、二度と返ってこない。


 親戚にもらったお年玉は毎年、管理の名目で母にすべて吸い取られている。娘の貯金まで享楽に使い果たす放蕩の母がいったい何に翻弄されるのか、少しだけ理解できた。だけど自分は、顔色ひとつ変えてはならぬのだ。何にも呑まれぬセルフコントロールを、肌で覚えるべく、夏の日差しのもと、ひりひりとした駆け引きを夢中で続けた。


 「だーかーら、ふたりの勝負のときはレンジを緩めてブラフもどんどん打ってかないと、ジリ貧になるんだよ、もっと攻めていいんだよわかれよ」


 「何言ってやがる、さっきから口の端がちょこちょこ動いてんの、気づいてねぇと思ってんのか。いい手札に応じてもらえねぇからってイキってんじゃねぇや」


 テツはといえば、これで徳利と猪口があれば、さながらジョーと花札勝負をしたあのときのようだなぁと、相好を崩した。時代は変わったと承知しているが、こいつはやっぱりいちばん楽しい〝遊び〟なのだ。


 〝遊び〟は、年長の誰かが年少の誰かに教えて伝わる。生きるのに何の役にも立たなくても、楽しくってしょうがないから、教える馬鹿がいて、教わる馬鹿がいる。どうしょうもないガキどもが、清廉を気取る大人たちの目を盗みつつ、世代を超えて、姿を変えて、連綿と続く。


 甘露、甘露。


 テツの口から、ほろりと言葉がこぼれた。


 「楽しいな。実に楽しい」


 すると、アリエスは意に反する反応をした。「楽しい……かな?」


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