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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第五章・あたりまえだのやばたにえん
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第五章・あたりまえだのやばたにえん / 5 (ポーカープレイシーン有)

 店の最奥に、ポーカーテーブルはあった。


 アリエスが席に着くと、おっさんどもがずらりと待ち構えていた。元藤倉一家や、一家とつきあいのあった連中ばかりで、ひげ面、角刈り、傷痕と強面が揃っていたが、体型は共通して顎に贅肉たっぷりの中年太りだった。


 ディーラーを務める、雇われ店員の中島だけが年若く痩せている。チャラめ茶髪男子で、店長と違い白シャツ黒ベストの制服を着こなすものの、普段は強面どもにイジられ通しらしく、ずいぶんと疲れた顔で清涼感はない。店長の〝カワイイ子〟の言葉に何やら期待していたようだったが、小学生を見てがっくりと肩を落とした。


 テーブルが開き、プレイが始まると───初めてのアミューズメントカジノに興奮していたアリエスも、次第に冷静になった。小学生プレイヤーのもの珍しさに、おっさんどもの視線がびっしり集まったからだ。その上、鵜の目鷹の目でテルを探されては、やりづらいことこの上なかった。


 ネット上の勝負や、ほぼ素人だった先日のトーナメントとは異なり、そこそこに技量の高い熟練プレイヤーとのライブテーブルでのリングゲームは、今までアリエスが知らなかった緊張感に満ちていて、まるで思うようにならなかった。苦しい立場に追い込まれると、修行で学んだ平常心を忘れてしまい───呼吸が、乱れた。


 アリエスは悟った───これが、本物の鉄火場というヤツだ。テツがこの場を用意したのは、バクチ打ちの先行きがいかに茨の道か彼女に思い知らせるものなのだ。なら、なおさら逃げ出すわけにはいかない。修行と割り切って、アリエスは勝負を重ねた。



 一一歳のアリエスには、午後六時までの時間制限がある。その日、彼女は五時四五分にはプレイを切り上げ、頭を下げて卓を辞した。


 店を出るとき、アリエスは最大限の注意を払った。盛り場を巡回する八滝PTAの監視員に見つかると、厄介だからだ。まだ日暮れ前だが、気をつけるにこしたことはない。


 細い急階段を、きしませないようにゆっくりと下り、しゃがんで出口の扉をうっすら開けて、右左に顔を振って外を確かめる。


 と───そうして内側から握る扉のノブが、突然外側から強く逆回転した。非力なアリエスがひねり倒されそうになるほどの力だった。


 見上げて驚いた。彼女の倍以上の背丈と肩幅がありそうな、筋肉質で巨躯の男が、ぬっ、と立っていたのだ。日焼け以上に黒い肌と縮れた短髪は、一見して日本人ではない。サングラスにTシャツにカーゴパンツというなりで、米軍基地の軍人が休暇にふらりと遊びに出てきたかのようだ。横須賀も横田も、大檜からは遠く離れているのだが。


 アリエスの背筋を、冷たいものが駆け上がった。一一歳の少女が直感した恐怖を、どうかポリコレだなんだで責めないでいただきたい。差別心ではなく、突然デカいのにでっくわしたら、おっかないに決まっているのだ。


 身長差としゃがんだ姿勢が相まって、黒人の男はまだアリエスに気づいていない。ノブを回したときの微かな抵抗に戸惑って、しばし足を止めている。その間に、彼女はあたふたと階上に逃げ戻った。


 やがて男も店に入ってくる。巨体が狭い空間を塞ぎながら、階段をきしませて昇る音を背後に聞くのは、アリエスにはさながらお化け屋敷だった。店内に駆け込み、杉野のいるカウンターの内側にしゃがみ込む。


 杉野の、落ち着き払っていわく。「あぁ、あの人ね、普通にお客さん。最近、ポーカーしにウチに来るんだよ」


 「誰?!」


 「さぁ───会員登録の住所は神社裏のアパートになってたけど、細かい素性はわかんないねぇ。でも日本語ペラペラだし、日本の礼儀も知ってる人だから、特には困らないよ」


 やがて男は階段を上り切り、カウンターの前に立って、杉野に小さく頭を下げ、肩をすくめながら財布を広げ、よれた千円札三枚と会員証を差し出す。……まったくもって、普通の客の所作である。


 「コにちわ、てんちょサン」


 「こんにちは、トニー」


 トニーという名であるらしい。杉野から預かり置きのチップを受け取って、数分前にアリエスが離れたポーカーテーブルに向かった。アリエスの存在には、気づかなかったようだ。強面連中も顔なじみなようで、諸手挙げて迎え入れ、彼女が去った席に座らせた。


 「……あの人、ポーカー強いの?」アリエスは尋ねた。


 「メチャクチャ強いよ。たぶん、ラスベガスとかの本場に通ってた人じゃないかなぁ。ただ、夜にしか来ないから、アリエスちゃんは対戦できないよ。さ、もう六時だから帰った帰った、でないと僕が怒られる」


 「ふぅん……」


 強いポーカープレイヤーというなら、見た目の怖さを押しても一戦交えてみたいと、興味は少なからず湧いたのだが───八滝のPTAの方がよほど度し難い。アリエスは素直に引き下がることにした。


 黒人男性の正体は思いがけないものであり、後にアリエスは彼と関わりをもつことになるのだが、それはまだ先の話。


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