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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第五章・あたりまえだのやばたにえん
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第五章・あたりまえだのやばたにえん / 4

 帰りの車上。テツは後部座席に深く座り、帯を緩め、ほうと大きくため息をついた。一度は親子の杯を交わし、実子同士を結婚させた間柄であるが、相変わらずの大上段、会話をして気が休まったためしがない。


 隣に座る、欽太の横顔を見た。まったく動じておらず、冷静だ。自分のせがれながら肝が据わっていて、経営者や組織の長と考えると、自分よりよほど才がある。大新田との交渉を任せたのは正解だった。


 まぶしく見えるその横顔を見ながら、彼は欽太に尋ねた。


 「……しかし、仮に俺らがカジノを作ったとして、見返りってどうする気だ。それと、タチバナはこれでいいって言ってんのかい」


 「いいわけないでしょう」欽太はあっさりと答えた。続いた言葉は、才があると評価したテツが思わずくじけてしまいそうになるものだった。「見返りの話は、ただの時間稼ぎとはったりです。ホントにやったら、指定暴力団への利益供与ですよ。カジノ認可取消に直結する爆弾です、そんなの仕込んだまま、カジノ開業なんてできるわけないじゃないですか」


 「じゃあ、どうすんだよ!」テツの声は悲鳴に近かった。


 「賽はもう投げました。回状の撤回をなさしめ、儀式の執行を確約できたのですから、最初の勝負はこちらの勝ちです───前も言ったと思いますが、必要なのは儀式です。儀式のついでにもてなして、いい気分にさせたところで、見返りは一回こっきり何がしか包んで渡すくらいで納得してもらう、で収まればいいんですけどね」


 「おまえさ───そんな腹芸が通じると思うか?」


 「ムリでしょうねぇ。それでも、後は丸め込むしかないです」


 「簡単に言うなよ。今さらあの親父を敵に回したくねぇよ」


 「最悪、勝子の手を借ります。あの人、末娘には甘いですから」


 「うまくいく気がしねぇぞ……」


 テツは頭を抱えるが、腹を括った欽太は落ち着き払ったままだ。スマホを取り出し、メールを打ち始める。


 「富市くんにこの話を伝えて、情報をタチバナと共有します。回状の撤回が決定したのですから、それは即ち、我々の大勝負も決まったってことです。僕と富市くんとで舞台の準備は進めてますからね、親孝行と思ってください」


 「……バクチ打ちの子が、親のバクチのためによそにバクチを仕掛けて孝行ってか」


 テツの嘆息は、いよいよ極まった。先が思いやられる。だが、少し割り切れもした。これもまた、断てぬ因果だ。


 そうだ───テツははっと思い出して顔を引き締めた───此度のバクチが因果の導きならば、つまり自分の過去の罪業の報いのひとつならば、断つべき因果、濯ぐべき罪はまだ残っているではないか。


 「欽」


 「なんです?」


 「すまねぇが、富市君に、もうひとつ頼みごと(・・・・・・・・・)をしといちゃあくんねぇか」




 さて一方、アリエスが向かった〝ある場所〟とは。


 かつて杉野に追い返されそうになった、ゲームセンターの二階である。細く薄暗い階段を上って、アリエスは念願のその場所を訪れた。


 ピーカン夏空の、真っ白く太陽光が降り注ぐ暑い屋外から、黒い壁紙に包まれた、遮光と空調が完全に為された人工的な空間へ。極彩色の電飾が明滅するスロットマシンがずらりと並び、ルーレット台がピンスポットに抜き出されている。本格的なアミューズメントカジノバーの体裁が整う中で、今いちばん売上がいいのは、カジノゲームではない壁沿いのデジタルダーツだという。


 本格的? いや、かつてが本物のカジノで、今がまがい物だ。違法であったその場所の、黒い壁紙の裏にやっぱり残っている弾痕を知るのは、店長の杉野くらいのものである。


 「いらっしゃい、アリエスちゃん。こないだはごめんねぇ」小学生が来た、と慌てふためいた前回とは一転、杉野はにこやかに出迎えた。アロハシャツにデニムのバミューダパンツという出で立ちは、アミュカジの店長としてはいささかラフすぎるが、それゆえ小学生が容易に突っかかっていけたのだから、痛し痒しである。


 「いいよいいよ、気にしないで」アリエスの表情も晴れやかだ。未知の世界に来て興奮を抑えられず、わくわく顔で辺りをきょろきょろ見回している。


 「大丈夫? PTAに見つかってない?」


 「うん、平気。クソ暑い真昼は、たぶんいないよ。見回りは夜になってからでしょ」


 「それならよかった。───ご隠居から、全部話は聞いたよ」杉野をはじめとする藤倉一家の元構成員は、先代家長のテツを〝隠居〟と呼ぶことが多い。「頼まれたとおり、うちでポーカーできるメンツを集めてあるよ。毎日暑くて仕事ほっぽり出してダラケたいところに、〝カワイイ子来るよ〟って言ってやったから、みんな鼻の下伸ばして待ってる。ライブ慣れ、したかったんでしょ」


 「ありがと。助かる」


 「でも、呼吸にテルがあるってことも、みんなにバラしてあるから。どんどんつけこめ、って、これもご隠居からの伝言」


 「望むところ! 今日はよろしくね!」

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