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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第五章・あたりまえだのやばたにえん
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第五章・あたりまえだのやばたにえん / 3

 「まさか何もねぇのか? ふざけてんのか、おぅ」相手につけいるスキを見つけたときの理論派ヤクザほど、居丈高になる者はない。そこでいかに凄みを出すか、半世紀以上の経験を積んできた大新田の迫力は、変わらずハンパなかった。


 欽太やアリエスの前ではそこそこ偉そうにしているテツだが、逆に、こうして〝詰めてくる〟親父(・・)にはまったく頭が上がらない。いたずらを見つかった子供のように身をすくめ、歯切れも悪くなろうというものだ。


 「いやまぁ……また尻拭いさせちまうみたいで、申し訳ないとは思ってんですが……」


 尻拭い、という単語に大新田はぴくりとこめかみを動かした。何かが気に障ったのだろう、とテツは察した。その理由はわからなかったが、叱られ中の子供は、火に油を注ぐ言い訳だけは絶対にしてはならぬのだ。その禁忌に触れたと理解して、テツは鉄拳制裁を覚悟した。あぁ、いったい何回ぶん殴られたことか!


 「そうだ、尻拭いだ、こりゃあ。あんときさんざん尻拭いさせて。こうして老いぼれてまた、尻きれいにしようって話じゃねぇか。てめぇのクソだけ押しつけて、はいさようならが通ると思ってんのかい」


 再び、どんと杖を床にひと突きする音が、心の臓に突き刺さる。テツが泣きそうになって眉根をひん曲げたところで、すっと欽太が会話の矢面に立った。


 「義理の息子がいる前で、赤の他人で縁が切れたは、ちょいとご挨拶じゃあないですか。任侠の道はそんなものですかね」毅然と返す欽太の姿を、テツは涙目で見つめた。「それに、藤倉家の家長は、いまは自分です。状況の説明は、当事者である父がしましたが、ここから先、何らかの取引の話をするなら、自分が相手です」


 「ほぅ? それで、息子からはどんな話が出てくるね?」


 「こちらから差し出すものはありません。今は何も」


 欽太はさっぱりと答えた。火を噴きそうな眼光の大新田から反駁を受ける前に、続けて言葉を畳みかける。


 「今の大檜は貧乏所帯です。カジノができる見込みが立てば何か差し出せもしましょうが、できないのなら何も出ません。回状の撤回が先か見返りが先か、これは鶏と卵とは違い、どうあっても撤回が先です。───順序はこうです。回状の撤回が為される。撤回されれば大檜にカジノを作れるので、カジノ利権の主導権を賭けて藤倉興業とタチバナシステムがバクチを打つ。その勝者つまりカジノを手に入れた側が、得た利権をもとに見返りを用意する。


 バクチの勝敗がわからないうちに、稼ぎの使い途を考えるのは、そりゃあ捕らぬ狸というヤツです、実にみっともない。改正IR法案の中身もまだ不明瞭ですから、どんな規模でどんな計画が立つかも、まだ霞の中です。話などできようはずもありません。


 今の自分にできるのは、勝者との対話の場を必ず作る、という約束だけです。それでご納得いただけないのであれば、残念ながら我々は引き下がるしかない。カジノは作られず、大檜は貧乏なまま、あなたは稼ぎの種をひとつ逃す」


 まくしたてられて勢いを削がれた大新田は、ふむ、とあごひげをしごいた。眉の間に深く寄っていた皺は、今は薄れている。利がどこにあるか、考え始めたようだ。


 「その上で、ですよ。こういう大勝負をするには、立会人が必要です。是非それを御大にお願いしたい。決戦の場に、お招きしたいんですよ。ご観覧いただき、勝負の行く末を見届けたその場で、勝者と最初の話し合いを持つのがよいでしょう。なに、バクチに勝った後は、誰しも気が大きくなるもんです。そのときこそ、いい話ができるってものでしょう」


 大新田のあごひげをしごく手が止まり、何度か首肯した。どうやら腹に収めたようである。


 「なるほど。その方が、旨い話になる、か。えぇじゃろう、回状の撤回の件、立会人の件、心得た。───その代わり、つまらんものは見せてくれるなよ」


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