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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第四章・重いコンダラ天元突破 修行編
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第四章・重いコンダラ天元突破 修行編 / 11 (ポーカープレイシーン有)

 言われたとおりに、表と画面を見比べながら、何度も、何度もハンドを繰り返す。

 ビッグブラインドで♣2♠7。ミドルポジションがレイズしてきた。「これは下りだな」「うん、下りていい」


 ディーラーポジションで♣A♡J。ひとりがコールして回ってきた。「強い手だ。これはこっちからレイズしていいんだな」「うん、それがいいね」


 そんなふうに、アリエスにアドバイスを請いながら勝負を繰り返した後に。


 ミドルポジションで♠6♢6を引いた。他のプレイヤーは全員フォールドして、手番が回ってきた。


 「ペアを引いたぞ」テツは壁の表を見た。「これは、攻めていいところだな」


 「そうだね。でも、先が難しいかもね」アリエスは意味深に答えた。


 テツは3$にレイズした。すると、丸いサングラスをかけた左隣のがコール。さらに、尖りサングラスのBBもコールして、三人が残った。


 フロップが開く。♡2♣J♣Q。


 テツの持つ6のペアとは、まったく噛み合わなかった。BBはチェックで、すぐにテツの手番が来る。


 「うむぅ……」テツはうなった。左隣のキャラクターを指さして、アリエスに尋ねる。「こいつがJかQを持ってるか、ってのは、どうやったらわかる? 画面越しじゃ、相手の癖は読めんぞ」


 「だから、相手はコンピュータだったら」アリエスは答えた。「テツはそういうの得意かもしんないけどさ、それは最後の手段だよ。別のやり方で相手を読むんだ───ほらほら、時間がないよ」


 テツの操作は間に合わず、自動的にチェックとなった。左隣もチェックでチェックアラウンド。ターンに♣7が出ると、BBが10$のポットベットを繰り出してきた。


 「ぐぅ……」


 再びうなるうちに、時間切れが来る。テツの手札は自動的に捨てられ、負けてしまった。


 「じゃ、今の少し解説」アリエスはマウスを手に取ると、画面上のテツのキャラをクリックし、トーナメントの進行にポーズをかけた。練習モードでのみ可能な操作である。そしてハンドリプレイの画面を出し、先ほどの勝負を再現させた。復習というわけだ。コンピュータならこんなことも簡単にできるのか、とテツは感嘆した。


 「この数値見てみ」


 アリエスが左隣の丸サングラスのキャラをクリックすると、そのキャラのステータスが表示された。……VPIPが九〇%を超えている。


 「説明したね? VPIPはフロップへの参加率。つまりこのプレイヤーは、ほぼなんでもコールしてフロップに参加する。こういうのをコーラーって言って、ポーカーじゃいちばんのカモなんだ」


 「数字で見るのはどうも苦手だが……わかった、覚えておこう」


 「まだ納得しないで、もうひとつ数字を見るよ。今度はこっち」


 続いて、BBの尖りサングラスをクリックすると、VPIPは三〇%台なのに対し、勝率が二〇%台となっている。


 「一〇人いて、全員の腕が同じだとしたら、勝率は平均で一〇%になるはずだよね。何でこいつは二〇%───五回に一回も勝てるわけ?」


 「? 強いから? ……いや待て、強いったって、毎度強い役で勝てるわけがないな」テツはハタと膝を打った。「ブラフか! こいつは相手を脅して下ろして勝ちたがる、そういう敵なんだな。なるほど、そうやって相手を読むのか……」


 「そういうこと」


 「……だが、なんでこいつが勝率二〇%ってわかった? いちいち計算してたのか?」


 「それをやってのけるスゴ腕もいるけど、だいたいわかればいいよ。強気か弱気か、正直者か嘘つきか、ざっくり判別できれば充分」


 本当は、サングラスの形で判別できるのだが───尖りサングラスはルースアグレ、四角は普通、丸いのはタイトパッシブ───続けてればすぐに自分で気づけるだろうと、アリエスは、そこは流して話を続けた。


 「どんな手札を持ってるか、よりも、どれくらい脅してくるか、を確かめる。そして6のペアって手札は、フロップでセットができれば強いけど、さもなきゃただの弱いワンペアだ。ムリに脅しに立ち向かうのは危険が大きい。そういう考え方が、ポーカーで相手を読むってことだよ。……今回の場合、最初はコールで入るのがベターだったと思う。ブラフでスクイーズを仕掛けてくるなら、コールしてセットを期待するセットマイニングか、振り払うためにさらにリレイズか……」


 「……待て、野球じゃなくてポーカーでスクイズって何だ」


 「……え、ポーカーじゃなくて野球にスクイーズってあんの?」


 とまぁ、ときにトンチンカンになるやりとりもあったが。


 やがて、テツには腑に落ち始めた。とにかく手を動かせば、なんとかなるものだ。


 土曜日にルールを覚えてからプレイを重ねる間に、なんとなくわかっていたことが、少なからずある。


 2や3を含む手札は弱いから、すぐフォールド。AやKなら強いから、レイズする。逆に、レイズされたら下りる。ストレートやフラッシュに発展しやすいスーテッドコネクターならば、下りずに積極的にコールする。


 掲げられた表や、画面に表示される数字は、そうした〝なんとなくわかること〟を、曖昧さを排して〝セオリー〟に高めるためのものなのだ。


 何のことはない、ゲームには必ずセオリーがある。囲碁の定石、将棋の定跡、こういうカジノゲームでも言葉があったな、確かブラックジャックで、───そう、ベーシックストラテジーだ。覚えなければ勝負にならない、基本戦略。


 麻雀と性質が似ている。麻雀ができなければ大人扱いされなかった時代を、テツは思い返した。自摸(ツモ)牌を見てから対処を考えるような打ち手には、さっさとしろとイヤミが飛んだものだ。何が来てもすぐ不要牌を切れるよう、セオリーを学んで初めて、まともな相手として認められる。


 ポーカーも、視野を広くして状況を観察しつつ、手番が来たときにはセオリーに基づいて素早く判断するのが、良いプレイヤーの第一条件だ。そして時にセオリーからずらした手を打って相手を眩惑する。逆に、相手の行動がセオリーからずれていないか確かめる。相手の様子を直に見なくても、行動ひとつひとつを吟味すれば、突くべきキズを見極められるのだ。───ここでテツが思う〝キズ〟とは、主に手本引きで使う古いバクチ用語で、相手の癖のことだ。ポーカーのテルと同じ意味である。


 バクチはどれも、根っこは同じ。かつて培った勝負勘と、噛み合い始めた。


 真剣に画面を凝視し、考えを巡らせて判断を下すことを繰り返すうち、やがてマウス操作にも慣れ、アニメ絵や派手なエフェクトも気にならなくなった。時間切れを知らせる警告音は、もう鳴り響かない。


 サングラス相手ならば勝ち越せるようになるまで、時間はかからなかった。


 「さすがバクチ歴五〇年、飲み込みが速いや。じゃあ、練習モードはやめて、対人戦に移ろっか。ここからは、相手は確率通りに動いてくれないし、手札に何持ってるかも教えてくれない。一筋縄ではいかなくなるよ」


 アリエスも、心なしか満足そうだった。


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