表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第四章・重いコンダラ天元突破 修行編
37/67

第四章・重いコンダラ天元突破 修行編 / 7

 しばらく風に吹かれて───少し頭が冷えたアリエスは、気になっていたことを尋ねた。


 「ねぇ」


 「ん?」


 「欽太さんに聞いたんだけど。───人、斬ったの」


 楽しい質問ではないから、答えてもらえないかと思っていた。しかしテツの返答はあっさりしたものだった。


 「斬ったよ」


 「……死んだの?」


 「いやぁ、人はそんなに簡単に死なんもんさ。病院送りで……五〇針ってとこだったか」


 テツのその返事は、悪びれた風もなかった。しかし、その後に続いた言葉は、少し声のトーンが下がった。


 「でも、死んだかどうかが問題じゃないだろう。俺は、人に刃物を向けて、斬った。傷つけるつもりで、死ぬかもしれないとわかっていて、斬った。俺はそういう人間だ。……怖いか」


 アリエスはしばらく黙り込んだ。ふたりの間に、また夏の風が吹き抜けた。蝉時雨は変わらず騒がしい。


 「……怖くないって言ったら、嘘になるよ」アリエスが導き出した答えは、こうだった。「でも、怖いから、傷つけられてしまうから、罪深いから、だから逃げて何もなかったことにする、っていうのは、バクチ打ちの発想じゃないよね。今まさに刃物を向けられてるわけじゃなし、ちょいワル気取る爺ぃのイキリブラフってことにしといて、本当に危ないかどうかは、これからよぉく見極めるよ」


 「こんなことでも駆け引きか。だが、その方が気が楽だ。……俺はいいバクチ友達を持ったみたいだな」


 やはり賢い子だとテツが相好を崩したところに、アリエスは忌憚なく次の言葉を突きつけた。


 「で、見極めるために訊くけど、刑務所ってどんな感じ?」


 「イキリブラフにすんじゃなかったのかよ! 行ってねぇよ!」


 テツは思わず反駁して、それからまた声を落とした。


 「いや、……痛いところ突かれたな。本当は、どこかで報いは受けなきゃいけなかったんだ。今となっちゃあ、親の因果が子に報い、ってヤツだ」


 「なにソレ?」


 「親が悪いことすると、子供が不幸になるってこと」


 アリエスの顔が曇った。「フッザケんなよ、なんなのソレ」


 「いや、さ」ごくつぶしの親の存在をアリエスに思い出させ、気に障ったと勘づいたこともあろうが、今まで凜と応じていたテツの態度が、このときはひどく歯切れが悪かった。「たいがい欽太やゆかりに報わせちゃってるし……それに……、うーん、……まぁ、それでも、あの頃のヤンチャの分きっちり報いを受けたかって言われると、正直心許ないな。悪いとは、思ってんだが」


 言えないことがあるらしく、照れ隠しをするかのように、話を打ち切った。


 「もういい頃合いだ。シャワーを浴びて、メシにしよう」




 その日はソーメンだった。


 大ざるに積まれた細い麺の山を見て、アリエスは驚嘆した。それを、七人でちゃぶ台を囲んで銘々に周りからつつくなど、食事をお呼ばれすることさえレアケースの彼女には異世界の風習だった。


 それに、ちらと見てしまったのだ。この家のソーメンは、ゆでる前、きれいに木目のそろった白木の箱から、貴重な家宝ででもあるかのように取り出していた。木箱! 何で食べ物が木箱に入ってるの?! アリエスにとって木箱入りの品といえば自分の臍の緒くらいで、それもどこにしまったやらまるで記憶にない。


 そしてこのめんつゆだ。アリエスは美食家とはほど遠いが、その底辺レベルの舌をもってしても、今まで使ってきた出来合いの品が、どれだけ平板で雑な味であったか理解できた。ふくよかなだしの香りが鼻を甘く通り過ぎる、なんという夢心地。そのまま飲めば、大人のように酔えるのだろうか。


 そこに麺をちょいと入れて、つるつるとすする。歯ごたえしっかり、のどごししなやか、空きっ腹にたまる感覚すら美味に変換されていく。


 藤倉家はなべて、アリエスの知らない好奇をそそる世界だったが、その感慨はここに極まった。食事とは、これほどまでに快感であるものか……!


 とにかく、今まで食べていたあらゆる麺類と、グレードが違う。手を止められず、喜んでほおばっていると、


 「うちのおそうめんおいしいでしょ」


 陽菜が朗らかに言った。


 「うん、おいしいね」


 アリエスは素直に答えた。食べ物の味について会話したなんて、いつ以来だろうか。


 しかしそれ以上会話は広がらなかった。陽菜以外の藤倉家の面々は、黙々と麺をつゆにつけてはすすり、つけてはすすりを機械的に繰り返している。───みんな楽しそうでないのはなんでだろう?


 もちろん、藤倉一家にとっては、その日()ソーメンだったからである。


 ───三日後、アリエスは翔太とともに、せーのと声を合わせて、「またソーメン?!」と絶叫することになるのだが、それは別の話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ