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今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第三章・本気と書いてマジ卍
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第三章・本気と書いてマジ卍 / 5

 開始から二時間が過ぎ、アリエスがダントツのチップリーダーのまま、トーナメントはいったん休憩時間に入った。敗退せずに残っているプレイヤーは、すでに半数以下に減っている。


 その時間帯、イベントホールのロビーでは、商魂たくましい商工会議所が、大檜の物産を売る屋台を出していた(ゆかりが来ていたのは、その出店に協力するためでもある)。テツとジョーは、そこでいくらか菓子を買い付けた。アリエスに差し入れようと考えたのだ。


 ふたりが、休憩用に準備された会議室の片隅にアリエスを見つけたとき、彼女は独りではなかった。


 彼女と差し向かいに、三〇代後半の主婦と見える、乳飲み子をおぶった地味な服装の女性が座って、何か話し込んでいる。声は聞こえなかった。アリエスは、ペットボトルをぎゅっと両手で握りしめていた。どちらにも笑顔はなく、ただただ事務的に何かをこなしていた。


 やがて、女性が封筒をすっと差し出した。アリエスは小さく頭を下げてそれを受け取ると、リュックにしまい込んだ。


 女性はすぐに席を立ち、会議室から去っていった。すれ違いざま、テツとジョーはその女性をちらりと横目で見た。化粧っ気がまったくなく、生真面目に生きる日々の暮らしの重荷が、深いほうれい線に表れていた。───娘に亜璃江州と名付ける人物とは思えぬ。対話の様子からしても、母子ではなかった。母親でなければ、誰だろうか?


 気にはなったが、ともあれふたりは知らぬふりをして、無表情にぼーっと天井を見上げるアリエスに近づいた。


 「よっ、いい調子じゃねぇか」


 「まぁ食え、差し入れだ」


 アリエスは無言でイヤそうな顔をしたが、逃げはしなかった。


 今の彼女は、休憩が最優先だった。座っているだけだからぱっと見には楽そうだが、ポーカーは囲碁将棋と同様、想像以上に頭脳を酷使する。加えて、たった今行われた対話は、朝方の一悶着の続きで、逃げるも避けるも能わず───思春期近い少女にとって、ストレス以外の何物でもなかった。脳の疲労を、より重くしていた。


 会議机の上に広げられた大檜銘菓の中から、ラムネ菓子を選んで手に取って、パッケージをゆっくり開いた。


 「お、〝大檜清流ラムネ〟か、お目が高いな。そいつは商工会議所のコンペで一等取って商品化された、新作のみやげ菓子だ」テツが満足げに言った。「檜川のせせらぎをイメージした爽やかな風味。軽いし日持ちするし万人受けの味で、参詣客向けのみやげにゃあ理想的だ」


 「ナニソレ知らないよ、そんなの」アリエスは大人の都合をバッサリ斬って捨てた。彼女がそれを選んだのは、糖分の塊と理解できたからだ。脳の疲労回復にいちばん効果がある。


 少女は目を伏せ、小声で、こう付け加えた。「……でも、ありがと。買えなかった(・・・・・・)からさ、助かった」個包装のフィルムを剥いで、口の中に放り込み、ぽりぽりとかじり、ペットボトルの水で飲み下した。


 テツとジョーは顔を見合わせた。感謝の言葉が素直に出てくるのはいいことだ、しかし、『買い忘れた』ではなく『買えなかった』とは? その言葉は、お金がなくて買えなかった、というニュアンスに聞こえた。


 不思議なことだ。みやげ物ならともかく、ラムネ菓子というだけなら、コンビニで一〇〇円出せば買えるものだろうに。


 よく見ると、アリエスが握りしめるペットボトルには、ラベルがない。少し汚れていて古いものだ。捨てるはずのボトルに、水道水を詰めてきたように見える。


 昨日から服は替えているようだが、相変わらず丈が短い。皺めいていて、洗濯はしているがアイロンはかけていない……。


 テツとジョーはなんとも反応に困り、傍目には、菓子を頬張る孫を買い与えた爺が黙って見守る、よくある構図が出来上がった。


 「……うまいか」


 「うん」


 と、そこに。


 「お孫さんだったんですか。道理で強いわけだ」


 勘違いして現れたのは、市原である。彼もアリエスを探していた。


 「おぉ、これはどうも」


 立ち上がったジョーと握手を交わす。カジノシトラスの顧問である縁で、彼とジョーは顔見知りだった。顧問契約の際、社長の富市とともに顔を合わせたきりだが、揃ってハデな親子を忘れようはずもない。


 「それが、孫ではないんですよ」


 「違うんですか?」


 「私らも知り合ったばかりですが。この歳で、カジノシトラスのハイローラーだとわかりましてね。海千山千渡り歩いた爺どもに向かって、いっぱしのバクチ打ちを自称してますよ。面白い子だ」


 「なるほど───まだ同卓できてないのですが、実にいいプレイをしていると聞いてます。手合わせするのが楽しみでして」


 事前の打ち合わせでは、光恵の実況は原則として市原のテーブルにつき、プロのプレイを解説する手はずだった。それをそっちのけで、彼女は隣のテーブルで金切り声を挙げ続けた。いやでも聞こえてくるから、どんなものかと横目でちらちら見てみれば───その姿は鮮烈だった。


 まだ小学生と見える少女が、恐れ知らずのアグレッシブスタイルで並み居る大人を翻弄していた。ぬるいプレイに辟易していた市原の目に、泥中の蓮、掃溜に鶴、玉石混淆の中のひときわ輝く玉に見えたとして、何の不思議があろう。


 この新たな才能を、見逃す手はない。


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