表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今昔悪童ポーカー狂騒曲  作者: DA☆
第二章・君の名は 君の名は。
19/67

第二章・君の名は 君の名は。 / 13 (ポーカープレイシーン有)

 少女は次第に、思ったようにチップを稼げなくなってきたことに気づいた。


 まずテツ、それからジョーも、バリューベットに応じず、適切にフォールドするようになった。バリューベットとは、その勝負に勝てそうなとき、賭け金の総額を増やすための誘い水のベットである。


 ポーカーは、強い役を作るのではなく、相手のチップを奪うゲームだ。どんなに強い役ができても、相手がチップを場に出さなければ、稼げない。勝敗を見極めると同時に、勝てそうなときは相手に高値を払わせるよう仕向ける(そして負けそうなときは自分からはなるべく払わない)、そういうテクニックも問われるのだ。


 素人のはずのテツとジョーが、いきなりそれを身につけた……?


 しかし、こちらが強く出れば適切にフォールドするのなら、ブラフをすればよいのだ。自分の手が弱くても、強いふりをしてベットする。


 だが。


 テツもジョーも、即ブラフに打ち返してきた。まるで手の内が読まれているかのようだ。これまでプレッシャーをかけ続けてきたのは自分だったはずなのに、いつの間にかかけられる側になっている。少女の額に、汗がにじみ始めた。


 そして、少女のセミブラフのレイズに、テツが大きくリレイズ、たまらず少女が下りると、ついにチップの量が逆転した。テツの方が多くなったのだ。



 その直後である。少女の手札に♠A♡Aが入った。ポケットエイシズあるいはロケットとも呼ばれる(エース)二枚の組み合わせは、最強の手札だ。


 この手札を喜ばないポーカープレイヤーはいない。小躍りしそうになるのを、少女は必死にこらえ、ポーカーフェイスの維持に努めた。


 少女は、レイズするときのいつも通りに、5$にレイズした。ジョーが下り、テツがコールした。


 フロップは───♣A♣Q♡8と開いた。


 少女の脳裏に電撃が走った。声を挙げそうになるのを必死で抑えた。三枚目のA! ペアの手札と同じ値のカードがフロップに出てトリップス(スリーカード)になった状態を、〝セット〟という。


 このフロップの時点では、いかなる手札と組み合わせても、ストレート以上の役が完成している可能性はない。Aのセットは、現時点の最強手、いわゆる〝ナッツ〟だ。


 少女は、ポーカーフェイス、ポーカーフェイス、と心の中で叫びながら思案した。♣️が二枚ある以上、フラッシュドローは警戒しなくてはならないが、一対一ならばバリューを取ることを優先すべきだ。チェックしたテツに対し、現在のポット11$に4$をベットした。これにコールしてこないようであれば、この先も勝負には出てこないだろう。


 テツはしばし無言で考え込んだ。


 少女が作るポーカーフェイスを、じろりと見据え、そして、───「オールイン」300$近いチップを、すべてポットに押しやった。


 もらった、と、少女は応じかけた───わずかな額のポットに対し、初心者がいきなりオールインしてきたら、それは捨てばちのブラフと相場が決まっている。たとえ何か役がヒットしていたとしても、今の彼女の手札はナッツなのだ。応じない理由はない。


 だがそのとき───少女の脳裏を、ちりちりっと電撃が走った。


 テツはこれが初めてのオールインだ。だのに、チップを差し出す手にも、刺すような視線にも、気迫だけがこもり、ためらいがなかった。捨てばちではない。不慣れな行動に怖じてもいない。彼の中にあるバクチ打ちの勘が、ここが勝負時、真っ向勝負を挑むべきときだと、告げている───。


 少女の背を震えが駆け上がった。冷や汗がにじみ出た。その気迫を伴う勝負勘と対峙すると、先ほどまでの自信は消え失せた。


 あわてるな、ポーカーは、気迫や勘で決まるゲームじゃないんだ。考えろ、考えて答えを導け。


 かつてないほどに、頭を巡らせた。ここでオールインできる手は何だ?


 こちらの手はフロップナッツ、相手がどんな組み合わせの手札を持っていても、ほぼ65%以上の勝率となる。


 だが、たったひとつの組み合わせの手札だけ、勝率は六割を切る。


 たったひとつだけだ。そしてポーカーで一対一の勝負になったとき、勝負に出る基準は、相手の手札の想定範囲(ハンドレンジ)に対して、勝率五割を超えるかどうかだ。ありうるすべての組み合わせに対して勝率五割を超えるのだから、ここは無条件に、諸手を挙げてコールすべきところなのだ。


 少女は考え、考え抜いて、最終的に、確率に順った。


 「コール」


 テツはにやりと笑った。その目は、少女を、ぎろりと射すくめていた。


 「ノってくると思ってたぜ。嬢ちゃんは正しい、確率ならおそらく俺は負けている。だが、これが、〝確率の向こう側〟ってヤツだ。嬢ちゃんは俺よりポーカーがうまい、俺にゃまだわかってない勝負の肝をよほど知ってる、そんな上手を相手に、全額引っ張り出せるチャンスは、そう多くは巡ってこない。───嬢ちゃん、Aを持ってるだろう? こちらが勝負に出れば、それを受ける手だ。だから俺は勝負に出た。さぁ、大勝負といこうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ