第二章・君の名は 君の名は。 / 5 (テキサスホールデムルール説明③)
6・ベッティングラウンド4 リバー
○ディーラーが五枚目(最後)の共通札を開く
それを見て、各プレイヤーはチップを賭けるか勝負から下りるかを宣言する
光恵は、さらにもう一枚カードを開いた。♠7。
「五枚目の、そして最後の共通札よ。リバー、と呼ばれるわ。手札と合わせて七枚、そのうち五枚を選んだとき、一番強い手は何か考えて。これ以上共通札は増えないから、それで勝負手は確定よ。
ちなみに、テキサスホールデムでは、手札と共通札をどう組み合わせてもかまわない。場合によっては、共通札五枚がいちばん強いこともありうるから、間違えないでね。
さて、またテツさん。〝ベット〟〝チェック〟〝フォールド〟から選択よ」
「じゃあ……」
テツは、12$分のチップをつかんで、ベットした。
すると、「レイズだ」ジョーが倍の24$を出した。
「おぅ、強気できたな」テツはうなった。「てことは、おまえは相当にいい手なのか」
「さぁ、どうかな。嘘かもしれんぞ」ジョーは白々しく言った。
「ポーカーでは嘘はアリアリよ。はったりで相手を脅すの。〝ブラフ〟という英語が使われることが多いわ」光恵が付け加えた。「そして、ブラフで相手を下ろして勝った場合、自分の手札は見せなくていい、嘘つきっぱなしでいいのよ。そうして相手の行動をコントロールするのは、ポーカーじゃ基本戦略と言ってもいいくらい」
「ふむ……かといって、相手が何を持っているかは見えるわけでなし……ここんとこは手本引きの駆け引きにも通ずるな。いや、これは将棋盤のやりとりの方が近いか。なるほどな……」
「さて、テツさん。今度はお義父さんがベットしているから、〝コール〟〝レイズ〟〝フォールド〟の選択よ。コマを揃えるか、吊り上げるか、下りるか」
テツは、ジョーの様子を幾度も伺いながら、しばし考え、やがて結論を出した。
「これは負けてるな。だが、勉強代だ。勝負を受けて、おまえさんが何を持ってるかはっきりさせよう。えぇっと、〝コール〟、だな」
元々あった12$に加え、双方から24$ずつベットされ、ポット総額は60$となった。
7・ショーダウン
○勝負に残っているプレイヤーは手札を開き、役の優劣を決する
「リバーまで終わって、まだ下りずに残っている人が二人以上いたら、そこで初めて、作ったポーカーの役で勝負となるわ。最後にレイズしたプレイヤーから手札を見せるルールだから、お義父さんから開いて」
「俺の勝ちだよ」
ジョーの手札は♣8♠10だった。手札二枚と共通札五枚で最も強い役ができる組み合わせは〝♠10♡9♣8♠7♠6〟で、ストレートが完成している。
テツは肩をすくめた。「やっぱりいい役ができてやがったか」
「まぁ、今回は基本に忠実にな。いい手ができたから賭け金を積み上げた、ってことだ」
「テツさんには、〝マック〟といって、カードを見せない選択肢もあるわよ」
「まぁ、見せておくよ」
テツの手札は♢9♢6だった。手札二枚と共通札五枚で最も強い役ができる組み合わせは〝♢9♡9♢6♠6♠Q〟で、ツーペアとなる。
ストレートとツーペアではストレートの勝ち。60$を、光恵はジョーの手許へと押しやった。
「これが、テキサスホールデムポーカーの一勝負。この細かい勝負を、何度も繰り返して、やったりとったりしていくわけね。ちなみに、一般的なカジノでは、一勝負ごとにディーラーがポットから数%ずつ、寺銭を抜いていくの。それがカジノの稼ぎ。一勝負の時間が短くて回数が多いから、数%でもチリツモで大きな額になる」
「そこは盆と同じか。客が夢中になるほど儲かるようにできている」と、テツ。「雀荘みたいに表向き場所代だけだと、儲けを出しづらいんだよな」
「稼ぎ方はもうひとつあるわ。さっき世界大会があるって言ったでしょう。あれは、トーナメント方式で競うの。参加者それぞれに同じ量のチップを配り、使い果たしたら負け、全員からチップを奪い取ったら勝ち、ってルール。じゃあ一五億の賞金はどこから出るかって、参加費を徴収するのよ。参加費が高額になるほど賞金を高く設定できて、運営側が抜ける利益も大きくなる」
「そりゃ競馬……いや、宝くじか。宝くじの一等二等を、ガラガラポンじゃなく、勝負で決めるわけだな。なるほど、胴元側が少しずつ長く稼ぐしくみと、一気にデカく稼ぐしくみが揃ってるのはうまいな。カジノ特にポーカーの稼ぎは継続的なビジネスになる、だから欽太も欲しがるわけだ」テツは、大きく頷いた。「うむ、これでテキサスホールデムもわかったし、カジノを賭けて勝負する意味も理解できた」