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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大切なことを思わせてくれたあたたかな君を想う

作者: 白澤さひろ

・暗い塞がりにいたわたしの救い

さみしいよ

かなしいよ

でも、うまく伝えられない

誰かに伝えたいのに、自分の気持ちがわからない

くるしい

くるしい

くるしい

かなしい

だれかたすけてほしい

さみしいよ

ママ……

もっと、おはなししたかったよ

おでかけもしたかった

ママと、パパといっしょに、しあわせながもっとほしいのに

ママ

ママ……

おねがい、やだよ

いやだよ……


わたしは、それから暗く、深いところに心を閉ざしてしまった

感情がなんだか重くて、友達と呼べる関係も、わいてきそうな楽しい気持ちも

なんだか、私の表面の気持ちだけでしか、私を感じられなくて

なんだか、苦しくて、悲しい

そんな毎日ばかりだった

周りのみんなが楽しそうで

なんだか、普通にしているだけで幸せそうで

私も幸せを感じたいのに

優しかったママと

お医者様で忙しいながらも頼りになるパパがいて

そんな一緒にいる幸せが続いてほしかった

素直に感じられなくて

いつも、ママがいてくれたらいいのにって気持ちばっかりで

もうだいぶ前のことなのに、離れられなくて

暗く、深い海の底にいる

そんなパパが私を見かねて、塞ぎ込んでいる私を元気づけるために、君を見つけてきてくれた

わたしはなんだか戸惑ったけど、私の心のよりどころになるように、パパが見つけてくれたから

その日からいつも私を見てくれていて

あたたかいよ

ぬいぐるみだなんて思えないほど

優しい瞳で私を見守ってくれていた



・いつも見守ってくれている君

それからは、ママがいないという悲しみを、ふと思い出してしまっても

なんだか大丈夫って思えた

いつもわたしを見ていてくれるから

その温かいまなざしが、私の心を癒しくれた

パパもいるし

家政婦さんも、わたしのことを気にかけてくれる

それでも、学校での嫌なこととか

パパがわたしのことをどう思っているか分からなくなることとか

そんな、小さなこと

ママがいれば、ママに話していることを、いつの間にか君に話していた




・君を台無しにしてしまう

ママがいないことを、バカにされた気がした日があった

周囲のみんなは、なんだか幸せそうでいて

普通にしているだけなのに、なんだか、わたしだけ取り残されている世界を感じた

なんてことない

わたしのことが、かわいそうって、だから優しくしたいって

ナニ、それ

なんだか、上から見てる感じがした

自分にはママがいるからって、なんか自分は大丈夫で安心できるところにいて

見下してきてない?

かわいそうだから、優しくしてたの?

かわいそうだから、一緒にいるの?

かわいそう「だから」なの?

なんだよ、その目線は、考えは

友達だから一緒にいる、じゃないの?

一緒にいたくて、一緒にいて楽しくなるんじゃないの?

なんで、なんで、せっかく普通になれる感じがしたのに

また、黒くなっていく

黒く、暗い気持ちに、落ちていく

わかってる

ささいな言葉で、そこまで深い意味じゃないってことを、わたしはわかってるのに

すぐ黒い気持ちに侵されてしまう

何かを恨みたい気持ちなのに、わたしにはその相手もいないし、恨み方もわからない

ただ、自分は不幸なんだって、みじめなんだって思うくらいしか、自分の心を認められない

だから、誰かに押しつけるかない

自分の中で抑えつけておくには、わたしの身体では大きすぎる感情で

このままでいると、わたしがひねくれそう

わたしが少し壊れそう

だから、吐き出したい

何となく、暴れ倒したい

誰かはけ口になって

お願い

そうして、わたしは辛くこどくな気持ちを自分の部屋で吐き散らかした

みじめで、醜い

パパにも見せられない

心配かけたくないし、自分の心の中を、なんだか見せたくない

こんな醜くて、なんだか、なんだか汚い

そんな時、優しい目で見守っていてくれる君が目についた

いつも笑顔で優しくで、こんな愚痴が聞こえても嫌にならないのかな

わたしを落ち着かせてくれるような、優しい瞳だった

だからね、その瞳を持つ君になんだかあたりたくなって

だって、このわたしの苦しみをぶつけるあてがなくて

ごめんね

ごめんなさい

わたしがわたしのままでいるために、この憤りを受け止めて

理不尽な怒りを受け止めて

壊れてほしい

わたしのために

わたしの理不尽を受け止めて

でないと、わたしが壊れてしまいそうだから

きれいなその顔に、その笑顔に

そのつぶらな瞳も

なんだかうざったくなって

わたしは、理不尽な八つ当たりをして

君は、いつの間にか壊れてしまった




・パパが治してくれた

ごめんなさい

パパがせっかく連れてきてくれたのに

いつもわたしを、見守ってくれてるのに

わたしのせいで、君を壊してしまった

優しい君を壊してしまった

ごめんなさい

本当にごめんなさい

わたしがこんな酷いことするなんて

かわいい瞳も

キレイな身体も

透き通るような白さも

わたしがズタズタにしてしまった

パパ……

パパなら治せるかな

ぬいぐるみだけど、お医者様のパパならきっと

君も治してくれるはず

そうして、わたしはパパにお願いした

こんなに傷つけたことを伝えるのが怖いし、とても恥ずかしかった

怒られると思った

醜い自分のことを叱ってほしかった

だけど、そんなことは言われず

パパのこと大好きかい?

うん

治したらもっと好きになってくれるかい?

うん

そうして、優しく頭を撫でられただけだった

治すために少しの間連れて行くって

ぬいぐるみの病院に行くんだって

戻ってきたら

君に謝りたい

君がいてくれたことに安心していた

わたしは、なんてみじめで、酷い人だった

悲しかった

わたしがこんなに悲しい人になっていっていたことに

ママがいないことの劣等感ばっかりで

君に謝れれば、何か変わるのかな

ごめんなさいって、素直に伝えたい





・黒くなった君

いつ君は戻って来てくれるんだろう

ね、パパ?早く連れて帰ってほしい

また、君に話しかけたいよ

一緒にお話したいよ

ママの代わりにと連れてきてくれた君のことが

いつしか大切になっていた

あんなことをしなければよかった

いつも見守って、話を聞いていてくれるだけで十分だった

傷つけた後で、大切なことに気づくなんて

早く、君の姿を見たいよ

自己満足だけど、それでも、いい

ある日に寝ていると、いつしかベッドの近くに君がいた

戻ってきてくれた

よかった、本当に

わたしのこと、なんて思うようになるのだろう

もうね、いい

見ててくれればいいよ

わたしの話を聞いてくれるぬいぐるみ

いてくれないと、とても不安になる

わたしの話を聞いてくれる君がいないと、わたしが壊れそうになる

だから、いてくれるだけでいい

これで落ち着ける気がする

これで、わたしが救われる

ごめんね

ごめんなさい

パパ、ありがとう

おやすみなさい





ね、いつも話しかけてくれる

動けない僕に

笑顔を見せるしかできない僕に

なんだか僕も救われた

それで、僕でもよかった

よかったのに

なんか、僕の気持ちも知ってほしい

笑顔を見せるだけじゃないんだよ

本当はもっと、もっと知ってほしいよ

僕は、動けないぬいぐるみだけど

こんなに汚いからだで、つぎはぎだらけだけど

あなたを見ていたら、変な男につかまってほしくないよ

僕が何とかしない

僕がいるから

僕が、ぬいぐるみのままでもできることあるから

そうして僕が動き出す

重いからだを、自分の腕だけを使って必死に動かす

なんとか伝えたい

この気持ちを伝えて、なんとか救いたい

僕の、気持ちに気づいてほしい

早く

少しでも早くあなたに

僕の気持ちを教えたい




・大切な想い

何かが迫ってきてる

その物音でわたしは目を覚ました

音がする

気持ちの悪い音が

はいずって来ている

この部屋には、わたしと君しかいない

君なの

なんで?

君は、君はぬいぐるみじゃないの

パパが用意した、わたしの話し相手じゃないの?

なんで、なんでわたしに迫っているの

なんで、わたしを求めようとするの?

やだ、なんで

これから優しくする

頬をはたいてごめんなさい

お腹を蹴ってごめんなさい

ハサミで肩を突き刺してしまってごめんなさい

股間を踏みつぶしてごめんなさい

ほんとは、ほんとはそんなことしたくない

わたしは、そんなに悪い子じゃない

だから、来ないで

わたしは悪くない

ママがいなかったから

ママがいてくれたらこうならなかった

来ないで

お願い

なんで、そこまで必死に迫ってくるの

お願い

思わずわたしは目を閉ざす

何も気づいてないフリをした方がいいと思ったから

だけど、わたしの耳元でささやかれる

ネェ、オキテル?キコエテル?

必死に、絞り出すような声で

わたしに声をかける

やだ、すごくやだ

気持ち悪い

このまま、起きてること気づかないでほしい

あいつは、わたしが起きてないと思って、もっと近づいてくる

ネェ、オキテルヨネ

キイテホシイコトガアル

オキテ

起きない

なんで、こいつは動くの

なんで、動けるの

脚は切られて、ただ座ってるしかできないのに

ただ笑ってわたしの話を聞いていればいいのに

わたしの何がいけないの

わたしに恨みがあるの?

恐怖が勝り、あいつを起きると同時にあいつを突き飛ばした

突き飛ばしたあいつは、笑っていた

わたしの話を聞いているような顔をして

気味が悪かった

こんな気持ちになるなら、パパにずっと守ってもらいたい

ママがいない今

パパにずっと守ってもらう

こんな怖い気持ちになるなら

もう、パパと一緒にいる

ママもそれでいいよね

パパに守ってもらうね

キヲツケテネ

その最後の言葉が一番嫌だった

そうして、そいつはパパに処分してもらった




・私が望む君に

いつも、見ていた

いつしか、私の方を見てくれないかと想っていた

大好きで大切な君は

やっと、私のものに

あの人形に代わって

君は私を愛してほしい

私という存在に依存してほしい

私を見てほしい

私が君を見るように

私のことに愛を示してほしい


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