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僕の私の創る世界  作者: 十六夜 あやめ
第二章 役者は練習曲《エチュニード》を奏でる
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役者は練習曲を奏でる1

 第二章突入です!!

 校舎の中庭に白い鳥が何羽も羽ばたいているのが見える。芸創術げいそうじゅつ部の朝練習のようだ。身近に存在している鳥を創り出すのが毎日の準備運動ウォーミングアップとなっている。他の部活動の生徒も朝練習に来ている者はたくさんいる。部活動に入っていない生徒が登校してくるまでまだ半時間ほどある。



「あれ? 今日は部活の朝練習なかったのリィンス~?」


 しかし、例外の者もいる。アレルは部活動に入っていないにも関わらず、たまに誰よりも早く登校している。それはアレル自身が隠している秘密。1人で幻創術の練習をしているのだ。けれど、このことはクラスメイト(リオンを抜いて)、みんな周知の事実だったりする。



「この手じゃ朝練習なんて無理よ。だからさっき休みますって言ってきたの。それに、そろそろ創技会コンテストでしょ? わたしも何を創るか決めないといけないし、自分の力量も確かめておかなきゃ。授業だけじゃ足りないから練習しにきたの」



「そういえば怪我してたね~。それより、リィンスは何を創るの? そろそろ決めないとほんとうに大変だよ?」


「しってるわよ。だから朝練習を休んでまで教室に来てるんじゃない」



 時間がないことくらいリィンフォースも百も承知だ。怪我をしていなくても朝練習を休む予定だった。だがアレルに指摘された通り、本当に何を創るか決めないと大変なのだ。まったくいいアイデアが浮かばずにいた。



 ……鳥とか? でも、そんなのじゃ勝てないし。風景とかの方がいいのかなぁ?



 左手の人差し指を唇に当てながら考えていると、教室に生徒が入ってきた。

 淡紫色の髪の、柔和で幼い顔つきの少年。小さな背丈をすっぽりと覆うような黒いローブを羽織っている。そのローブの裾は地面に着いてしまっていた。



「おはよ~リオンくん」


「あ、おはようございます。アレルさん、リ……リィンスさん」



 リオンは頬を赤くして自分の名を呼んだ。



「おはよ。もっと気軽に呼んでいいんだからねリオンくん」



 首しか動かない人形のように小さく縦に振った。


 あっ、そうだよ。そう呟き、アレルは読みかけの分厚い参考書にしおりを挟んで閉じる。


「登校する途中なんだけどね、リオンくん、すっごく噂になってて有名人だよ~」



 その言葉にリオンはしゅんとした。そしてその表情のまま下を向き、


「……ですよね。実験室を壊しちゃいましたから……」



「あれっ!? なにか間違えた捉え方されちゃった!? あああ、ちがう違うんだよ!」


 思わぬ反応をしたため、思わずあたふたと手を振りながら苦笑するアレル。


「リオンくんって14歳でしょ? やっぱりね、その歳で高等部に入ってるのは珍しいの。それにね、学園長のスカウトなんて今までにない異例中の異例なんだよ!」



「そ、そうなんですか?」


 リオンは顔を上げ、きょとんとして声色を上げた。


「まぁ、もちろん昨日のことも有名だけれどね。ボクが聞きたいのはもうひとつの噂の方なんだよ!」



 何のことかさっぱりと言ったように、2人は顔を見合わせて首を横に傾ける。



「リオンくん! キミって〝人〝を創り出せれるってホント!?」


「えっ! どこからそんな噂流れてるんですか!? 僕がそんなこと出来るはずないじゃないですか!」



 ローブの下から両手を突き出してブンブンと腕を動かしている。


 リィンフォースにはリオンが嘘を言っているようには見えない。昨日の一件を至近距離で目撃しているからわかるが、彼は『超』がつくほど幻創術が苦手なように見えた。チャネルの同調シンクロがまだ完全にできていないのに無理やりこじ開けたような感じだった。あれは初心者がよくやる失敗例の一つ。高等部の生徒ともなれば、あんなミスはしないはずなのだ。



「やっぱりむりだよね。この噂はハズレかぁ~」


 アレルはちょっと残念そうにため息を吐いた。


「もし僕がそんなすごい幻創術を使えたのなら、もう使っていますよ……」


 戻りかけていたリオンの表情が暗くなり、声色トーンが低くなっていく。


「会いたい人でもいるの?」



 膝を軽く曲げてリオンの視線に合わせて尋ねる。リオンはローブを顔に押し当て、


「僕のお母さんとお父さん、もういないんです……」


 それを聞いた自分とアレルはきょとんとした。そしてすぐに2人は顔を見合わせ、視線を通して意思を伝え合う。



(聞いちゃいけなかった!?)

(わかんない! けど……)



 もちろん、彼が嘘をついているなんて思わない。けれど、あまりにも唐突過ぎて思考が停止してしまった。一時停止していた脳を再び回転させる。


「お父さんは僕が小さいときに死んじゃって……。けど、お母さんもいたし、レウがいたから悲しくはなかったんですよ。お母さんはもともと身体が弱くて、ずっとベッドで寝たきりだったんです。僕がこっちに来る三週間くらい前に天国に逝っちゃいました。それで学園長が僕を呼んでくれたんです。僕のお母さんがここの卒業生だったらしいので」



「その……ごめんねリオンくん」


「そんな! 謝らないでください。お父さんもお母さんもいないですけど、いまはリィンスさんとアレルさんがいるからすっごく幸せです!」



 彼のその笑顔は朝日よりもまぶしく輝いていた。だが、とてつもなく暗く深い悲しみの記憶が、心の奥深くに隠れているのがリィンフォースの目には視えていた。



「ボクもリオンくんが来てくれて一層楽しくなったよ~」


 アレルはいつもの調子でリオンの手を掴んでくるくる回る。黒革の手提げ鞄を片手に持ったまま、ふと、彼は笑顔から一層幼い顔になっていた。ふらふらとした足取りでアレルに付いて回る。その彼のまぶたは重たそうだった。



 ……なんだか眠たそう。もしかして寝不足?



 回るのを止めた彼らは焦点が定まらないまま、千鳥足で遠くに下がって行く。大きな音とともに綺麗に並べられていた机が見事に乱れた。さらに追い打ちを掛けられたリオンの顔色は少し悪くなっていた。

 そして、そんな彼をぼぉっとみつめていると、当の本人と視線が重なった。


「昨日は疲れちゃって……。ぼく、たっぷり眠らないとダメなんですよ……」



 いかにも眠たそうな糸目でリオンが恥ずかしそうに頬をかく。



「遅くまで付きあわせちゃったもんね~。メアリ教師はすっご~く優しいから居眠りしても怒らないよ~」


「さすがに怒ると思うよ……。まったく、アレルってば適当なことばかり言うんだから」



 憎めないほどにこやかな笑顔でさらりと言うところがアレルらしい。まだふらついているアレルの頭を軽くこづき、もとの位置にあったように机を並べ直した。



 午前の講義開始の鐘が校舎内に響き渡る。


 だが、教壇の上には教師の姿が見えない。間近に控えている創技会コンテストの準備や期末テストの作成などで忙しい教師の都合と、自習をしたいと思っているに違いない生徒のために自習の時間としている。何をするかは生徒達の裁量に委ねられている。


 外出の制限がないため鐘の音が鳴るなりすぐに教室外に大半が出て行った。教室に残っているクラスメイトの姿は数えられるほど。創技会コンテストに向けて幻創術を磨く者もいれば、期末テストに向けて必死に筆記具を動かしている者、机に突っ伏している者など様々。



 創技会コンテストまで残り二日。そしてそのさらに二日後が期末テストになっている。



 何気なく教室を見渡してみる。何をするでもなく、ただ、ぼぉっとしてるのは自分とアレルだけか。


「アレルは期末テストなんて余裕でしょうね。それで、創技会コンテストでなにを創るかは決まってるの?」


「余裕とはいえないよ? 勉強はしなくちゃね。創技会コンテストで創りたいものは決まったかなぁ~。あとはそれについてもっと深く調べなくちゃいけないよぉ~。見たことないから同調シンクロが難しいだろうね」



「え? 見たことのないものを創るの?」


「そのつもり~。でないとリィンスに勝てないでしょ~」



 見たことのないモノを創り出すのだから何かしでかす気だろう。

 ……アレルのことだからこれ以上聞いても答えてはくれないだろう。それに、誰もあなたに勝てるようなモノは創り出せないよ。



「図書室かどこか行く?」


「うん。けどさぁ~リィンスはまだ決まってないんでしょ? ボクにかまってていいの?」



「気分転換になるし、本からアイデアもらうから構わないよ」


「ならリオンくんも――」


 アレルが声を掛けた時には彼の姿は既になかった。自分と一緒に考えてほしいと思ったのが急に恥ずかしくなった。



「リオンくんいなかったんだ。どこいったのかなぁ~? いっしょに勉強してお昼も食べようと思ったのにぃ~」


「いこうアレル」



 すっと椅子から立ち上がり、廊下に向かうリィンフォース。急いで鞄を持ってアレルは追いかけた。


「あれ、どうかしたのリィンス? ちょっとクールだよ?」


「そう? リオンくんならきっと先に行ってるんだと思う」


 昨日の夜。リオンと寮に戻ってくる間に、明日は図書室に行ってみようと思います――と言っていた。試験も創技会コンテストも近いから勉強したいんです――っと。


 このことをアレルに言えば、容赦のない尋問が飛んでくるのは目に見えている。他には何を話したのとか、手はつないだのとか、得意な料理はなにかとか。間違っても彼との会話をおおやけにしないほうがいい。何を噂されるかわからないからね。

 隣の友人に気づかれないようにリィンフォースは歩幅を大きくし、足早に廊下を歩いて逃げるように階段を下りた。




 図書室は学園の地下一階と二階にある。一階のフロアは魔術と武術に関する本があり、二階に精霊術と幻創術についての本が置かれている。室内に保存されている本の数は都内にある図書館と同等かそれ以上と言っても過言ではない。定期的に蔵書の数は増え続け、今では棚に置ききれなくなった本は隅の方で平積みにされている。


 教室などとは違って冷房が効き、歩くたびに吹き抜ける空気に肌寒さを感じる。室内はとても広く、机と椅子もあり、文句のつけようもない環境だ。一階を素通りして二階に降りてすぐ。机の上に自分の座高よりも高く積みあげられた本を横に、黒いローブを纏った少年が一人。


 ――やっぱりここにいた。


 アレルは忍び足でリオンに忍び寄っていく。振り向いて口に人差し指を当てている。


 ――わかってるわよ。けれど……


 アレルは両手で後ろからリオンの目を覆い隠そうとした。だが、彼はすでにアレルが後ろを向いている間に振り向いていた。気づいていなかったアレルは驚き、後ろに仰け反ってしりもちを着いた。


「わっ! 大丈夫ですかアレルさん! どうしたんですか?」


「え!? ぁいや~にゃははは。 なんでもないよぉ? リオンくんここにいたんだね~」


 笑って誤魔化し平然を装っている。リオンの頭上には疑問符が浮かんでいた。アレルは立ち上がり、制服を軽く叩いて埃を落とす。そして、リィンフォースの方を向いて声を出さないで口だけを動かして「フォローして」と言っている。


 まったく。


「リオンくん、ごめんね勉強中に……。もしね、よかったら私たちと一緒に勉強しない? ひとりで考えるよりもいいと思うんだけど。どうかな?」


「いいんですか?」


「もちろん。私なんかアイデアも思い浮かんでないからさ……。何かいいアイデア浮かんだら教えてね?」


「はい!」


 アレルは「二人で考えるなんてズルぅ~いっ!」と怒っていた。ぷいっと頬を大きく膨らませてそっぽを向いた。


 ――まったく子供なんだから。


「アレルはもう決まってるでしょ。ならいいじゃない。リオンくんはいいアイデア浮かんでるの? こんなに本持ってきちゃって……」


「まったく……全然です」


 苦笑しながら頬を掻き、あっさりとリオンは首を横に振る。

 幻創術はその人の想像や思い次第でいくらでも創り出すことができる。本を見なくてもアイデアは数千数万と存在している。それこそこの世に存在しない物まで創り出せるのだから無限に近い数が創れることになる。


「何か創ってみようかなーって思ったんですけど、いまレウから幻創術禁止令が出てて……。また暴走とかしちゃうと大変なんで……」


「レウってリオンくんの保護者だね」


「でもレウの言うとおりです……。前はリィンスさんが僕を守ってくれて、先生が暴走を止めてくれて……。もしも次もあんなことになったらこの学園にはいられなくなります……」


「そんなことないよ。だって学園長が推薦してくれたんでしょ? 前のはたまたま順番が一番だったから緊張しちゃっただけだって。わたしも一番最初だったら失敗してたに違いないし……」


 朝のような暗い空気が漂い始めてきた。これは何か話題を変えて空気を入れ替えないと――


「ねぇリィンスぅ~そんなにおしゃべりしてていいの~? な~にも決まらないまま一日終わっちゃうよぉ?」


 ――ナイスタイミングというか無神経というか、でも感謝しなくちゃいけないのかな。


「そうだね、ちょっと話しすぎちゃったみたい。それはそうとリオンくんはここで勉強する? ローブ着てるから寒いんじゃない?」


「えっ……あ、えっと、できればもう少し暖かいところがいいです」


 確かにその通りだ。私も図書室はちょっと冷房が効き過ぎていて肌寒い。だが外は灼熱の太陽が昇り、蜃気楼すら見えそうな暑さ。どちらとも極端すぎて体調を崩してしまいそうだ。ちょうどいい気温の場所はあったかな?


「ねえリィンス! お茶とかしながら勉強しようよ! お昼の時間にもすぐなるしさぁ~。ボクはアリエスの入れる紅茶とパウンドケーキが食べたいな~」


「目的は勉強じゃなくてそっちでしょ! まあ、あそこなら寒くもないし暑くもないかいいかもしれない。リオンくんはまだ行ったことないと思うからいい機会かも」


「それってどこですか?」


「私たちがよく行くカフェテリアで、ちょっと移動しないといけないけどすごくいいところなの」


「リィンスもリオンくんも早くしないとおいてっちゃうよぉ~!」


 先々と走って階段を上っていくアレル。それを図書室にいた先生にみつかって怒られていた。リィンフォースとリオンは顔を見合わせて微笑んだ。山積みになっている中から何冊か選んで手に持ち、残りを棚に戻してから怒られているアレルのもとへ歩いていく。先生が注意をしてから歩いて行ってしまうと、アレルは舌をべーっと出してご立腹だった。しかし、叱られていたとは思えないほど元気で、リオンの右手を引っ張って階段を上っていく。リィンフォースも彼の左手を包帯を巻いた右手で握って階段を上がる。


「リィンスさん! 右手怪我してるのにダメですよ!」


「ううん、もう大丈夫だよ。これ、大げさに巻いてあるだけだから」


 本当は痛い。すっごく痛い。でも、痛みなんかちっぽけに思えてしまうほど、なぜか私も彼の手を握っていたかった。

















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